第25話 言えないよ

 -猫の王様の城-


「ふむ。引き続き、頼んだぞ」

 報告を受け、王はそう命じた。



 -渡り廊下-


「桜井さん、ちょっと」

「うわっ」

 風紀委員長の尾永おながかすみが、星香を呼び止めた。それを合図に風紀委員の一年生二人が星香の前に立ちはだかる。

「靴下、それ学校指定のモノではありませんよね。スカートの丈も短かすぎます」

「だって梅雨だし、洗濯物乾かないじゃん」


「またやってるよ」

 繭がマシューに苦笑した。

「かすみ、星香には目ェつけてっからね」

 二人が風紀委員長の横を通り過ぎると、かすみ達は無言で繭達に敬礼する。

「ご苦労さま」

 繭も、返礼して通り過ぎた。

「ちょっとぉー繭ぅー、助けてよー」

 その背へ、星香が叫んだ。

「購買部で千円で売ってるよー」

 振り返らず、繭は手を上げてひらひらと振った。

「そんなダサい靴下、嫌だってばー」

「……言いましたね、本音」

「ア"」




 -生徒会室-


「まー、美少女はお洒落に余念がないからねー」

 マシューが、書類を整えながら笑った。

「そーだけど。でもきっちり指定の物を着こなして、ダサくならないのが本当の美少女だと思うけどね」

「あれー、つっかかるねー」

「別にぃ」

 言いながら、会長席で書類に目を落としてゆく。

 と。


「あっ」

 思わず、繭が声を上げた。

「えっ、何? どうしたのっ?」

「これ。今度の交換留学生、ねねが決定した生徒の中に入ってるよ」

「ウソッ」

 椅子を鳴らしてマシューが立ち上がった。

「ホントだ……。知らなかった…」

「ねね、英語苦手だったよね? テスト、合格したんだ」

「知らなかった。私、何にも聞いてない」

 もう、繭の言葉も入らないくらい、マシューは動揺してその言葉を呟き続けていた。




 -すみれ寮 マシューの部屋-


「ねえ、私も居ていいの? ここ。二人で話し合った方が良くない?」

 そう言いながら、万副さんお手製の焼きおにぎりに手を伸ばしつつ、繭が言った。

「いいの。繭が居なかったらモメるから」

 ねねがお茶を一口すすった。


「ねえ! 何で留学なんかするのっ」

「ほら」

「ほらじゃないよ。ねー、高二の夏休みは、高二の時しか味わえないんだよ⁉︎」

「だからだよ。ウチの学校は三年になったら進学進学で、他に何にも出来ないじゃん。だから二人だって生徒会やってんでしょ。高二の今しか留学出来ないじゃん」

 ねねも、焼きおにぎりに手を伸ばす。


「金髪の女の子と付き合いたいんだ」

「は?」

「英語嫌いなねねがおかしいじゃん。英語なんて、って言ってたくせに」

「……いろいろあんの。私だって」

「いろいろって?」

「…恋も、進路も…、いろいろ」

「やっぱり! 金髪じゃん!」

「だから………」

 ねねは、持っていたおにぎりを見つめたまま無言になった。



(くっそー、かすみにこってり絞られた)

 万副さんに挨拶をして、遅れて来た星香がドアをノックしようとした、その時。

 悲鳴のような心の声を言葉にしたねねの声が耳についた。

「だって! だって、届かないんだもん! 繭とマシューみたいになりたいのに! 今のままじゃ全然届かないんだもん!」

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