第22話 恋愛中ってもっと楽しいと思ってた

-ガラガラガラ-


「おはよー」

現れたのは、ねねと、一年でバスケ部の田中ヒスイだった。

二人は正規の放送委員である。

「あれっ、どうしたの?」

ぴょんと立ち上がって、マシューが尋ねた。

「うん、何か校長先生が呼んでるの。鈴マークの事で会長と副会長の二人に意見聞きたいんだって。だから、朝と昼の当番チェンジしろってさ」

「へえー」

マシューは繭の方を振り返った。

「だって。思いの外、点数集まったのかもね」

コクリと繭が小さく頷く。


「じゃ、後でねー」

手の甲でねねの下ぶくれの頰を撫ぜて、マシューが放送室を出た。

その後に、

「よろしくね…」

蚊の鳴くような声でそう言い、繭が出て行くと、

「ねえ先輩」

二人が遠ざかるのを廊下に首だけ出して確認すると、ヒスイは手際よくいつも通りに朝のBGMを流して、機材に背を向けた。

「あの二人、怪しくありません?」

「え?」

「様子、おかしかったですよ。会長なんて顔真っ赤だったし」

「……まさか」

「先輩。副会長と付き合ってるんですよね? 気をつけた方がいいですよ。副会長、何気にモテるから」

「ウソぉ。繭じゃなくて?」


「先行投資ですよ。いずれ真中先輩は一流大学に入って、一流企業に入社する。ヘタすりゃ起業して社長になるかもしれない。隠れて狙ってるコ、いっぱいいるんですよ」

「………」

「あの二人、寮でだって一緒ですよね。何してるかわからないですよ」

「えっ⁉︎」




-放送室 昼の放送-


「結局、うちらの意見聞きたいとか言って、いつも通り楽器だったじゃんね」

お弁当のフタを開けながら、マシューが少しだけ口を尖らせた。

「……あのさ」

それには返答せず、繭がお弁当をマシューの方へ差し出した。

「エビフライとご飯、少し食べてくれない?」

「……いいけど。あっ、まだ痛いの? 舌」

「朝ほどじゃないけど。残したら万副さんに悪いし」

「食べてあげてもいいけど、詳しく全部教えてよ。じゃなきゃ、食べてあげない」


「………」

繭は無言でケータイを取り出した。

そして、ローズの写真をマシューに見せた。

「え? 何? この綺麗な猫」

「ローズ」

「……ニャるほど……」



「盛り上がり過ぎちゃったの。何かしばらく会えなくなるからって言われて……で、つい…」

「生徒会長がディープキスですかぁー」

「マシューだってしてるでしょ」

「まあね。でも、さほどではないよ。まだ付き合って数ヶ月だし」

「そっか」


椅子のキャスターを動かし、マシューが繭の正面に来た。

「私、一応口固いしさ。困った事があったら、いつでも相談してよ」

そう言って、繭の手を取った。

「マシュー! ありがとぉー!」

繭は、そのままマシューに抱きついた。

「んー、役得」



「………」

(見いーちゃった)

放送室の前を通りかかったヒスイは、慌てて口に手をあてた。

(今日部活だし、先に桜井先輩に報告しちゃお)

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