第21話 世界中の猫よりきっと

 その時、時計が9時を回り、繭はももへと戻っていった。

「ちょうど良かった。話って何?」

「うん。しばらく会えなくなるかもしれないの」

「え⁉︎ しばらくって?」

「わからない。おばあさんが、田舎の実家に戻るって言うの。でも、家具もそのままだし、おばあさん、ジメジメしたのが大嫌いだから、たぶん梅雨の間だけじゃないかと思うんだけど……」

「そっか。淋しいけど一ヶ月くらいなら……」

「だからね、行く前にももちゃんとラブラブしたくて来ちゃったの」


「えっ」

 ももは驚いて、しっぽをぴくんっと動かした。

 でも、今日のももは、いつもと少し違っていた。

「ねえ、じゃあ、ローズにお願いがあるの」

「どんな?」

「あのね、あのね、舌…、ちょっと合わせてみたいの。前に触れた時は動かしすぎちゃって痛くなっちゃったでしょ」

「そうだったわね。しばらくヒリヒリしてたわ」

 ローズがくすっと笑った。

「発情期じゃないけど…いいかなあ」

「今日は、ももちゃんのしたいこと全部してあげる」

「やったあー。ローズぅー、大好きー」

 甘えるように、ももが肩をローズの腕にすり寄せた。

「……何か、ももちゃん今日はいつもと雰囲気違うのね」

「そう? あ、でも、そうかも」


 目の前に可愛い、愛しいローズの顔があった。

 -ペロッ-

 少しだけ、頰を舐めた。

 -ふふっ-

 ローズが微笑わらった。

「ねえ」

「なあに? ももちゃん」

「怒らない?」




「……なるほどね」

「怒った? 人間の時の恋人の話をして」

「ううん。少し妬けるけど、ももちゃんが人間の時のことにあれこれ言わないって、付き合う時の約束だもの」


 夜風に、レースのカーテンが揺れた。

 ローズが、窓から見える白百合に視線を落とした。

「ももちゃんって、あの花みたい」

「百合?」

「そう。綺麗で、凛としていて。でもどこか強さも感じるわ」

 ローズの声が一瞬、遠く感じた気がした。

(えっ?)

 気づいたら。

 ももはローズを見上げていた。

「さしずめ、私はバラね。激しくしか愛せないわ」




 -放送室-


「おはよー、繭ぅー」

 校内放送の準備をしている繭を、後ろからマシューが抱きしめてきた。

「んん…」

 小さい声を出しながら、繭が頷く。

「あれ? 風邪? ノド痛いの?」

 無言で繭は首を振った。

「ヒハが…(舌が…)」

「えっ、喋れなくなるくらい誰かとキスしたの?」

「まは…やっはっは(やっちゃった)」



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