コンティニュー? NO げーむおーばー。

 あれから少しだけ時間が経ち、ここ第七教棟の横。普段、弓道部が活動しているであろう弓道場にも夕陽が落ちる。校舎を挟んだ遠い運動場から響く野球部の声を聞きながら、俺は弓道場の前にて一人真剣な表情で仁王立ちしていた。


 そして、そこへ現れた一人の少女、黒野ありす。


「えっと……隣の席の詠野くん、だよね?授業中に渡してくれたこのメモ、「弓道場前でお話があります。放課後お時間いただけましたら、是非とも来てください。」って、場所は……ここで合ってるっぽいね」


 制服のポケットから紙切れを取り出しながら俺に話しかけてきた。


「はい、合ってます。合ってるんですがまずは……」


「ん?」


 俺は黒野さんに近づき、


 


 そのまま通り越して先程の真剣な佇まいなどお構いなしに思い切り不安を全面にだした表情で辺りをウロウロキョロキョロと見回す。


「……ふぅー、よし、誰もいないみたいだな」


「詠野くん……?」


 俺が安堵していると、後ろから心配する様な声で再び名前を呼ばれた。不意に呼ばれたせいか呼び掛けに反応して体がピクッと跳ねてしまった。


 そんな自分を恥ずかしく思いながらも、ひと呼吸おいて口を開いた。


「―――黒野さん、こんな場所へお越し頂いた理由は他でもありません」


 俺は緊張しながらも、黒野さんの横を通り過ぎなから丁寧な言葉遣いで焦らないように、言葉が詰まらないように言葉を続けた。


「一つ……お願いがあってお呼びいたしました……。聞いて頂けますでしょう……か」


 やべぇ、改まって言うとなると緊張するな……。


「うん。何かな?」


 黒野さんはあどけない表情で聞き返す。


 さあ、言うぞ!!



 さあ!




 さあッ!!



 俺は制服のポケットに手を突っ込み勢い良く黒野さんの前に突き出した。



「 コレを付けてください!!!! 」



 《あるモノ》を握り締めて。


「あのー、これって………」


 顔を上げると物凄い苦笑いをした黒野さんがいた。


「そう!他の何物でもない、今朝俺が黒野さんに着けてもらいたかった猫耳です!」


「けれど、アレは先生に没収された筈では……」


「ふふふ、舐めてもらっちゃあ困りますよ。猫耳はスペアのスペアのスペアまで持ち運ぶのが基本ですよ。黒猫耳はもちろん、他にも白、三毛、錆、トラ、ぶち、多種多様の猫耳を持ち合わせています。いつこのような事が有るかも分かりませんからね!」


「このような事って……」


「もちろん黒野さんの様な猫耳の似合う人に会った時の為に――――」


「はああああぁぁぁぁぁぁああ」


 言葉の続きが大きなため息に遮られた。

 ため息の主は、言わずもがな黒野さんだ。


「あの〜、く、黒野さん……?」


 顔を伏せ、表情の窺えない黒野さんに恐る恐る話しかける。



―――すると、いきなり力の抜けた体はそのまま顔だけをパッと上げた。咄嗟の動作に少し驚いてしまった。


 黒野さんはジト目でとても呆れたような表情をしていた。


 そして、一言呟いた。



「もう、いいや」



「……え……?」


 その瞬間、黒野さんの周りがカッと光った。



―――黒く、輝いた。



「うわっ、眩しっ!?」


 急な閃光に目眩しを喰らったが、その光には見覚えがあった。



 そう、クロアだ。



 暫くすると目も慣れていき視界が鮮明になってきた。


「一体何が……って、え………?」


 目を開くとそこに黒野さんの姿は無かった。


 そして先程まで黒野さんが着ていたであろう制服の上にちょこん、とクロアが座っていた。


「く、クロア!?なんでここに?!黒野さんは?!」


 慌てふためく俺を余所にクロアはペロペロと毛繕いをしていた。


「煩いにゃあ」


「いや、煩いって、え、えっと、どゆこと?」


 戸惑う俺の問いを聞いたクロアは自分の足元に脱ぎ捨てられた女子制服と自分自身をその丸くて可愛いおててで交互に指差した。


「ん……?あ、そゆこと?」


 「うん」と、クロアは首肯する。


「え?じゃあ、今日の全部分かった上で?」


 「うんうん」と、クロアは再び首肯する。


「これもしかして、いや、もしかしなくても恥ずかしいやつ?」


 「うーーーん」と、クロアはとても大きく首肯する。


 その瞬間、全身が熱くなりゾワゾワと込み上がってくるものを感じた。目を見開く。



超絶神的ちょうぜつかみてきに、恥ずかしいじゃねぇぇぇぇぇええええかぁぁああああああ!!!!!!」



 気が付いた時には、俺は空目がけ叫んでいた。

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