失態をかました。
「んーっと……黒野さん?何で青色?白のチョークならここにあるんだけど」
「青色好きなんです」
……ん?今一瞬、目があった様な……。
黒野さんが言葉を発すると同時に、軽く右目を閉じ、開けている左目で俺を一目した気がした。
「はぁ……そうですか、っとまぁそう言う事だから、今日から同じクラスメイトとして仲良くなー」
黒野さんに釘付けになっていた生徒達は、和泉先生の言葉でハッと我に帰り拍手をし始める。
一頻り歓迎の音が鳴り終わると、和泉先生が例の空席を指差した。
「じゃあ、席はもう用意してあるから。あの空いてる席な」
「はい」
軽く微笑みながら短く返事をすると、指定された席へ足を進める。その間も黒野さんは生徒達の視線を集めていた。
俺の席からではクラスメイトの頭が邪魔で見えなかったが、この辺りの学校ではあまり見かけない革を基調としたスクールバッグを携えていた。
黒野さんは席まで辿り着くと、机の横へ鞄を掛け、椅子を引き、そのまま座った。そんな極々自然な動作さえも様になっていた。
綺麗な横顔だな。てか何で俺の隣なんだ。まぁ教室内の人は俺の席が一つ飛び出ているせいでクラスの人数的にはこっちに寄っているから人を固めるため、という事は分かるが。そんな些細な事別に気にしなくてもいいだろうに……。
そう考えながら前を向き、誰にも気付かれないように和泉先生に向かって俺が「どういう事ですか」と目を向けると、和泉先生はその可愛らしい顔で「ガンバレ」と、目配せをした。
いや、あんたいくらあの事で友達が出来ないからって、無理に近づけなくてもいいから。この子の意思なんて聞く耳持たずですかい?
「じゃあ、連絡事項つたえるぞー。前を向けー」
俺のそんな視線も無視して教師としての仕事を継続する。和泉先生の言葉に従い生徒達は黒板へ体を向ける。
すると、視線の端でチョイチョイと何かが動いたのが見えた。顔を向けると先程の転校生さんが俺に向かって手招きしていた。周りを気にしながら「何?」と小声で聞くと、ただ一言。
「これからよろしくね」
可憐な少女は微笑みながら、俺以外に口元が見えないように手を添えて小声で呟いた。いや、隠しても意味無いでしょ、君の体思い切りこっち向いてんだから。
だがやはり可愛い、その言葉が似合う少女だろう。声をかけられたんだ、何か返さないとな。
まぁ丁度いい。俺はこの子に絶対に言わなければいけない事があったからな。今言ったらいいか。
「……あ、あの……」
「ん、何?」
周りに聞こえないくらいの声で返答し始めると、少女は言葉の先を待つ様に優しい声音と表情で聞き返す。
キョドらずここはズバッと言うべきだな。
息を呑み、静かに話す為の酸素を吸い込み、自分の机に掛けてある鞄からある物を取り出しながら言葉の続きを紡いだ。
「この猫耳つけてくれません?」
と、鞄から取り出した黒い猫耳を手にしながら、真面目な顔で、真面目な声音で大真面目に俺は少女にそう言い放った。
それを聞いた少女は一瞬驚いた表情を見せたかと思えば、スッと目を細め、先程の笑みとはかけ離れた低温のジト目を俺に向ける。
俺の言動に呆れたかの様に「はぁ……」と短くため息をついた後、俺がギリギリ聞こえるような声で呟いた。
「実質初対面の人にも、その対応なのね……」
んー、この低温のジト目と手入れされた黒髪、やっぱりこの子には黒だな。
……てか何?……実質初対面……?どう考えても完全初対面だと思うんだが……。いや、階段のことも含めるとすると実質なのか?
「え〜い〜や〜くんっ?」
すると突然、声の主を見なくても分かるほど怒気の篭った声音が俺の耳を殴打した。恐る恐る顔を向けると、やはり額に青筋を浮かべた和泉先生が笑顔を痙攣らせこちらを睨んでいた。勿論のこと、教室内もシーンという文字が目に見える程、静まり返っている。
し、しまったー!!声がデカすぎたか?!
「い、いや?ち、違うんですよ先生。こ、これはですね……そう!プレゼントですよ!歓迎のプレゼントです!」
「ほ〜う、なるほど?じゃあ学校にそれを持ってきている事は認めるんだな?」
あ、墓穴掘っちゃった。
「前にも言ったが、これは永久没収だ」
「は、はぁーい……」
和泉先生は俺の手から猫耳を素早く取ると、教卓へ戻っていった。
「……フフッ」
すると、俺の落胆する姿が面白かったのか、少女は口に手を当てて笑っていた。
その姿に再び生徒達の目が釘付けになる。
「笑う姿も可愛いなぁ」
「休み時間話に行こう……」
「どんなジャンプー使ってるんだろう」
「黒髪ロングサイコー!!」
「おーい、前を向けー」
そして又もや先生が声を掛ける。
クラスメイト達は純粋にこの笑顔に見惚れているのだろう。だが正直、俺にはその感性が理解できない。
この転校生はとても可愛らしい、所謂美少女という言葉が良く似合う。
ただしッ!!
俺がそう思うのは猫耳が超絶神的に似合うと思ったからであって、悪いがノーマルなコイツには興味など……ないッ!!
とは言え、どうしようか……そうだ!!
机から適当なノートを引っ張り出し、何も書かれていない真っ白の最終ページを物差しを使って器用に切り取った後、芯の太さ0.4mmのこの教室内で使っているのは俺だけだろうシャーペンでカリカリと書き込んでいく。
カツンッ
キーン コーン カーン コーン
キーン コーン カーン コーン
俺が書き終わり、シャーペンを鳴らすと同時に、SHR終了を告げるチャイムが鳴った。
「きりーつ」
チャイムが鳴り終わるとクラスの
礼が終わったらこれを渡そう。
「気をつけー、れーい」
「ありがとうございましたー」
よし!早速!
紙を右手に持ち、渡そうと席を立ったところ、
「あの……おッ?!」
「ねぇねぇ!何処から引っ越して来たの?!」
「髪凄く綺麗だね!!どんなシャンプー使ってるの?!」
「前は何処の学校に通ってたの?!」
「部活動は何をやってたんだ?!もし良かったらウチの野球部のマネージャーとかどうだ?」
渡そうとした矢先、押し寄せたクラスメイト達に跳ね除けられてしまった。
クラスメイト達の隙間からちょいと覗いてみると、当の本人は吃驚しているようだった。まぁ、いきなり机の周りを囲まれた挙句、四方八方から質問が投げかけられたら驚くわな。
この調子じゃ今は渡せそうにないな。
俺は二つ折りにしたノートの切れ端を、机の中にそっとしまった。
てかいくら転校生だからってたかりすぎだろ……。俺にも話させろ……。
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