解呪方法とぴょこっと少女。

「来ればって……。行く方法なんてあるのか?」


 異世界。

 一昨日も聞いた単語だが、頭の整理が付いているからだろうか、今はスッとあの白い世界の事が頭に浮かんだ。


「昨日、呪いを解く方法を言ってにゃかったんだけど、実は呪いを解いた時にこの世界と異世界を繋ぐ扉が現れるのニャ」


「なるほど。それで俺も一緒に、と言うわけだな?」


「そう言うわけだニャ」


 うんうんと首肯する。


「それって向こうに行ったら帰る手段とかあるのか?」


「あ」


「え」


 一瞬の静寂。


「無いのか……」


 俺がジーっとクロアへ「そこんとこどうなんだ」と視線を送ると、クロアは視線を部屋の片隅へ向け知らんぷりする。


「んぅ……にゃいではにゃく有るかも知れにゃいかニャ……?」


 暫く見ていると、目線はそのままで言葉を綴る。言い直してるけど、それ意味ほぼ変わってないからね?


 けどまぁ、それもそうか……。その異世界には魔法とやらが存在する。まだクロアが知らない魔法も有るかも知れない、そしてその中に異世界から帰還する魔法も有るかも知れない……。まぁ望みが薄い事には変わりないが。


「……けどそれは君が決める事ニャ。私には決定権はにゃい。それにまずは呪いを解かにゃきゃいけにゃいからニャ」


 それもそうだ。異世界どうだのこうだの、まずは呪いを解かないと意味が無い。でもその話からすると俺は異世界に行かないとクロアと離れ離れになるって事なんだよな……。


「てか実際のところ呪いってどうしたら解けるのか聞いてないんだけど……」


 俺が聞くと考える仕草をする。


「……正直、私も呪いの解き方に関しては正確には聞いていにゃいのニャ」


「聞くって、ノアリス様からか?」


「そうニャ」


「じゃあノアリス様からはなんて聞いてるんだ?」


 質問すると、喉を確かめるかの様にコホンと咳払いをひとつする。


「《呪いは集中して振り撒かれ、呪われし者を全員集めれば扉は開かれる。》そんにゃ事を言われたニャ」


「お、おぉ。全員?つまり俺と同じ様に呪われた奴が他にもいるってことか。それに《集中して振り撒かれ》って事は」


「あの時、呪われた時に貴方がいた場所、学校内に呪われし者はいるって事ニャ。という訳で今日からはその呪われし者達を探す事ににゃるニャ」


「え、ノアリス様が言ってたっていう呪いを解く方法に関する事ってそれだけ?」


「それだけニャ。例えノアリス様でも急にゃ事だったんだニャ、この事を私に教えられたのもノアリス様が凄い証拠ニャ」


 「やっぱりノアリス様はお優しいお方ニャ」と言いながら目をキラキラさせ窓の外を見ていた。その顔は可愛いんだけど、ノアリス様信者過ぎるなこの子は……。



ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ



「ミ゛ャッッ!?」


 クロアの可愛い顔を眺めていると、予め登校時間に設定しておいたアラームが鳴り響く。その音に驚きクロアの毛が逆立ち、ピョンと体が跳ねる。


「……それ煩くにゃいのかニャ?出来れば止めて欲しいんだけど……その……ビックリするから」


 両前足で両耳をペタンと塞ぎつつ嫌そうな顔で言う。その格好可愛いなぁ〜。


「煩かった?ごめんごめん。いつも聴いてて慣れてるからかな」


 学校へ登校するために制服に着替えながら軽く謝る。


「それはにゃれではなくにゃん聴じゃにゃいかニャ……?」


「失礼な。もう時間だし学校行ってくるよ。てか呪われた人って何か特徴とかあるのか?見たところ俺は何も変わった様に見えないんだけど」


 学ランに腕を通し通学鞄を担ぎながら、自分の全身を見せるようにして聞く。


「私の呪いじゃ外見には変わったところはにゃいニャ。けど他の呪いはそうとは限らにゃいでしょ?今の質問みたいにその人自身の雰囲気が変わっているかも知れにゃいし、その人を取り巻く人間関係が変わってるかも知れにゃいニャ?二日も有れば呪いを理解するには十分にゃ時間だし、それにもしかしたら向こうもこっちを探してるかも知れにゃいしニャ?」







「と言われても、外見が変わってるならまだしも、人間関係が変わってるとしても俺じゃ確認のしようが無いんだよなぁ……」


 SHR迄の休み時間。

 教室の片隅で頬杖をつき窓から見える中庭を眺めながら、誰にも聞こえない様な小声でそんな事を呟いた。


 教室にはクラスの半分程の生徒が既に登校しており、いつもの様に少し活気付いていた。


「なんなら向こうから声を掛けてくれればいいのね〜ダウニーちゃん♫」


 机の上で猫のストラップを愛でながら呟く。ダウニーちゃんも可愛いなぁ〜。次、猫カフェランランに行く時は思いっきり写真撮りまくろう。もう前みたいに逃げられたりしないから楽しみだなぁ〜。


「うへっ、うひひっ、、、っと危ない危ない。また変な顔で笑ってるのを見られる所だった……」


 口をだらしなく開き気持ち悪い笑みを浮かべていたであろう顔を、ここは学校だと言う事を思い出し正気に戻す。


 あんな変な笑顔見られたらタダでさえクラスから浮いているのに更に軽蔑されてしまう。そう思い見られていないかゆっくり顔を上げ、教室を見渡すと…………あ、手遅れでした。既に多くの鋭い視線が俺を突き刺していた。だが直ぐにその視線もなくなり再び教室内に活気が戻った。


 暫く教室を見渡していると、教室後部の扉の後ろから顔半分と指先だけを覗かせ、誰かが教室内を見回している事に気付いた。


 誰だ?見た事ない人だな。


 髪の長さと扉の横から見えている頭の位置からして女子だろうか。あまり服が見えていないので確証は持てないが恐らく女子生徒。


 誰か人を探しているのか、キョロキョロと教室内の生徒を一人見ては口元を少し動かしている。何か言っているのだろうか?よく目を凝らすと三文字の言葉を呟いていた。ち、、が、、う?違うって何が違うんだ?


 その姿は明らかに不審だったが、その身長と顔と指先だけしか見えていない事もあってか、教室内にいる俺以外の生徒達はその子に気付いてはいない様だった。まぁここからじゃ廊下までは見えないが、あのぴょこっと少女は多くの視線を浴びている事だろうが。


 少しの間、頬杖をつきながらぴょこっと少女を眺めていると、俺の番が回って来たのかこちらへ顔を向けられた。


 すると、俺がぴょこっと少女の方へ視線を向けていたせいでバッチリ目が合ってしまった。


 誰にもバレていないと思っていたのか、ぴょこっと少女は俺にずっと見られていた事に気付くと、恥ずかしそうに頬を少し赤らめ分かりやすくあたふたしていた。その拍子に少女の全身が露わになり女子生徒御用達のスカートがヒラヒラと揺れる。


 だが俺は揺れるスカートなど目もくれず、少女の身長と顔に釘付けになった。


「マンチカンだ……」


 心の中で思っていた事が気付いた時には口から漏れていた。


 今口にした様にその少女は猫に例えるとまるでマンチカンの様な容姿をしていた。それに加えて、俺の猫フィルターが発動して頭に猫耳が生えているように見えてしまう。可愛い、いや超絶神的に可愛い。このように絶対猫耳が似合う。


 まだ入学して一ヶ月しか経っていないが、こんなにも愛くるしい容姿を持ち、庇護欲を駆り立たれる生徒が、藍叶の他に猫耳を着けたくなる生徒が、この学校には居たのか……。


キーンカーンカーンコーン

キーンカーンカーンコーン


「あ」


 SHRがもう直ぐ始まる事を知らせる予鈴が鳴った。教室に備え付けてある電波時計がその時刻を差していた。


 しまった、その容姿に見惚れていて時間を気にしていなかった。そして、扉へ視線を戻すともうそこには少女の姿は無かった。


「名前ぐらい聞いとけば良かった……」




 予鈴の鳴り響く階段。

 タッタッタッと、階段を下る軽い足音。


「……見つけた。それに……見つかっちゃった///」

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