呪いと例の事件。


「私がにゃぁあん!!……その……呪……いぃぃいッ!!ハァハァハァ………ミャァァン〜……」


「なるほどなるほど、それで君が現れたって訳か」


「そ…ういう事……ニャッァ!!そし…て、そうにゃっ…た理由わ………ッ!!って、私の耳をもみもみしゅるにゃぁぁああ!!!」


 俺の膝の上で耳を触られていた黒猫は「もう、もう限界ですにゃぁぁぁぁああ」と、言わんばかりの声でぽしょりぽしょりと話していたが、もう耐えられなくなったのか、俺の膝から飛び退き、恍惚とした表情で「ハァハァ」と、小さな肩で息をしながら俺のベッドにへたり込む。


「あぁ……俺のもふもふがぁ………」


「うるしゃーい!!他人の敏感にゃ所を躊躇いもにゃく、あんにゃに揉みしだくにゃんて……」


 黒猫は火照った顔で俺に向かって怒鳴る。耳を触った事を怒っているようだ。


「ごめんごめん!……でもその表情……なんか…エロ可愛いな」


 俺がそう言うと、黒猫は俺に「うわ……」と、言うような軽蔑の目を向ける。


「その表情もイイ!!身体の芯がなんかこう、ゾクゾクするなぁ〜」


「お前さんは病気だニャ。いや、病気を超えて異常者だニャ……。そんにゃ事言う人にはもう他には教えてあーげにゃい」


 俺に異常者判決を下すと、先程俺が言った言葉に対してそんな事を言う。


「本当にごめんって!あはは」



 黒猫から聞いた話によると、どうやら俺には呪いの類たる物がかけられたのだという。それは、昨日俺を襲った身体の異常や平衡感覚の損失、といった形で俺に負担が降りかかった。だが、それは呪いがかけられた時の副作用?いわゆる初期症状でしか無く、その本質は今、俺の前にちょこんと座っている、この黒猫自身なのだと言う。つまりこの子、この黒猫こそが呪いという事だ。



「そういえば、さっきの話、俺に呪いがかかってるのは分かった。実際に体験したしな。けど、どうして呪いが俺にかかったんだ?それに誰がかけたんだ?」


「はぁ、それをさっき話そうとしたのニャ……」


 黒猫はため息をつき、呆れたように肩を落とす。体の火照りは治ったようで、気を取り直し、再び口を開く。


「まず、二つ目の質問からだニャ。誰が呪いをかけたか。端的に説明すると、それは私のいた世界、こことは違う世界って事ニャ。その世界のとある王国のえらーい王様がした事ニャ」


「王様?なんで?何のために?」


「どさくさに紛れて触ろうとしにゃいでくれる?」


 黒猫の耳向けてゆーっくり手を伸ばしていると、バレていたようでギロリと睨まれた。


「あははー、バレてたか」


「はぁ、話を続けるニャ。にゃんの為に、それが二つ目の質問。さっきの続きだけど、実はその世界には、大昔に封印されたこわーい魔王がいたんだニャ。そして、今。それがにゃぜか復活してしまったんだニャ」


「ほうほう」


「そして、それを知ったえらーい王様は「これはいかん!」と、ある事を実行したニャ」


「ある事?」


 俺が首を傾げると、黒猫は一度頷き話を続ける。


「それが、救世主の召喚、ニャ」


「救世主の召喚………」


「最近、人が大量に消える事件があったでしょ?今朝の学校での騒ぎ………とかニャ?」


「……あ!宮高の!」


「そう、」


 考えると一つの回答が、すっと頭の中に浮かび上がった。


「集団失踪事件!」

「集団失踪事件ニャ」


「あ」


 それを口にすると、黒猫も発していたようで声が重なる。それを聞いた黒猫は、ニヤッと笑い、再度話し続ける。


「集団失踪事件の真相。それはこことは違う世界、異世界からの召喚だったのニャ」


 今朝のニュースと話は噛み合うが、まだ疑問がある。


「でも、高校生なんか召喚して意味あるのか?」


「実は異世界から人を呼び寄せる時、その人には特別な力がその世界の神様から与えられるんだニャ。異常に高い魔法適性、身体能力、といったようにゃ力を。神様からの恩恵にゃのか、はたまた悪戯にゃのか分かったものじゃにゃいけどニャ」


「なるほど、それで、王様はその魔王を倒す為に宮高の生徒達を召喚したって事か……って魔法?!魔法なんかあるのか?!」


「そっか話してにゃかったね。さっき私が宙に浮いていたでしょ?アレも魔法の類だニャ」


 黒猫はそう言うと、もう一度空中に浮いてみせる。


「おぉ」


「このくらいの簡単な魔法にゃら詠唱なしで使えるニャ」


 暫くの間浮くと、「一日に使える魔法には限度があるけどニャ」と言いながら、再びベッドに足をつける。すると、ある記憶の断片が甦る。


「なるほど……アレも魔法だったって事か……」


「アレ?」


「い、いや、なんでもない。で、その王様がした召喚と呪いにはなんの関係が?」


(露骨に話を逸らしたニャ……まぁいいニャ)


「三十人もの人を一度に召喚する。そんにゃ大事をするのには、にゃにか代償が必要不可欠だったんだニャ。そして王様はその代償をどうするか、悩みに悩んだんだ末、一つの答えに辿り着いたニャ」


 黒猫は言い終わると、右前脚をスッと俺に向かって突き出す。思わず息を飲んでしまう。


「向こうの世界の者に負担させよう、てニャ?」


「……さ、最低だな、その王様……。すると、その負担ってのが」


「そう、この私兼呪い、クロア・ソーサリアってことニャ!」

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