大事件と作戦。

ジリリリリリリリリリリリリリリ


 いつも通りの時間にいつも通りの鬱陶しいアラームが鳴り響く。


(ミ゛ャッ!?……ビックリしたニャ……。いつもこんにゃ音で起きているニャ?私にゃら耳が壊れちゃうニャ……)


「ふわぁあぁぁぁぁ……眠っ………」


 懐かしい夢だったなぁ……。


 夢の余韻に浸りながら身支度を終え、いつもの如くテレビをつけ、流れるニュースをぼーっと見ていた。


 なーんも、面白そうなニュースねぇーなー、猫もうつらないし……。せめて画面の右上くらいに小さくでもいいから猫の動画を流してくれてたらこんなに退屈せずに済むのに………。


 お茶を飲みながら退屈だな、と思っていると、眼を疑うようなぶっ飛んだニュースが舞い込んできた。おかげでお茶が変なところに入ってむせてしまった。


「ゴホッゴホッッ!………え?…………集団失踪事件……?なんだこれ」






 教室の扉の前。いつも朝の教室内は喧騒に包まれているのだが、今日はより一層騒がしいせいか、廊下にまで声が漏れている。


 大方予想はつくが、おそらく今朝のニュースのせいだろう。「一クラスまるまる居なくなってたんだろ?!」やら、「どうやら宮高みやこうらしいぞ!」などの言葉が飛び交っている。


 ニュースになってると言っても騒ぎすぎだろ……。

(煩いにゃあ、少しは恥じらいはないのかニャ)



 俺は教室後方の扉を開け、コッソリと自席へと向かう。


「詠野っ!!」

「ふぇッ!?」


 すると、自席に到着する前に横から大きく声をかけられた。急に呼ばれたせいで変な声が出てしまった……。


 声の聞こえた方へ顔を向けると、先程の声の主、鐘場がクラスメイト達の奥から笑顔で手を振っていた。


 鐘場は俺と目が合うと周りのクラスメイトをかき分けこちらへ向かってきた。


「体調はどうだ?大丈夫か?」


「お、おう、一晩寝たらもういつも通りだよ。心配かけてごめんな」


「いやいや、お前が無事で良かったよ。俺の席がもっと近かったら良かったんだけどな、完全に対角線上にあるから咄嗟に助けに行けなくてすまん」


「大丈夫大丈夫、まぁまたなんかあったら宜しく頼むよ。まぁあんな事そんなそうそう無いと思うけどな」


 鐘場は俺の席とは真逆の教室前方の扉の真ん前の席だ。そのせいで昨日、直ぐに駆けつけれなかったのがまだ心残りだったらしい。本当に優しい奴だ。こういう奴だからこそ、クラスの人気者になれるのだろう。


 先程まで鐘場と一緒にいたクラスメイト達の方をチラと見てみると、軽蔑する様な目を俺に向ける反面、眉を八の字にしオロオロとした視線を鐘場に送ったりしていた。


 ごめんね、鐘場とっちゃって。直ぐ返すからもうちょい待ってね。てか俺、昨日ぶっ倒れたんですけども、この人みたいに大丈夫の一言でもいいから無いのかね。無いみたいですね。舌打ち聞こえてますよ。

(品のにゃい人が多いニャ。コイツがにゃにかしたのかニャ?)


「鐘場、コレさんきゅ、あと遅れてごめん」


 鞄から借りていたノート数冊を鐘場に手渡す。


「おお!今日は忘れずに持ってきたな!……ん?詠野。一冊多いぞ?」


「あー……それはあれだ、昨日忘れた分の謝礼みたいなもんだ。貰ってくれ」


「別にいいのに、まぁそういう事ならありがたく受け取っておくよ!あと今朝のニュース見たか?今その話しで持ちきりだよ」


 笑顔でそう言うと、鐘場は自席へ戻って行った。鐘場が戻った事により、教室内にも活気が戻る。


「集団失踪事件…か」

(なるほどニャ……アレの影響)


 今朝のニュース。ある授業を終えたクラスの女子生徒一人が、隣のクラスの友達に会いに行ったところ、その教室には生徒の机や教科書、授業内容が書かれた黒板だけが残っており、まるで授業がついさっきまで行われていたのでは無いかと思わせるような教室がそこにはあったという。


 その後、その学校の職員総出で学校の敷居内を探し回ったが、そのクラスの生徒、教師含む一クラスは誰たりとも見つからなかったらしい。


 大事件……だな。


 それにしても宮下みやした高校か……。頭いい奴がいく高校ってイメージしかないが。少数だけどあの学校には知ってる奴も居るから少し心配だな。向こうは俺のこと覚えてないかも知れないけど。


 まぁ、ノートも返したし、HRまで一眠りするかな。夢の続きも見れるかもしれないし、まぁ……あまり思い出したくない思い出もあるのだが……。


 席に着きながらそんな事を思う。


 俺はその後の授業を、猫のストラップ片手に板書を取りながらボケーっと聞き流した。


(なんちゅう間抜けづらニャ。でもちょっと……可愛いかも)


 そして、ようやく迎えた放課後。


「ふわぁぁぁあぁぁあ〜……」


 本日二回目の大欠伸。


 これだから日本史と現国の授業は嫌いだ。内容が完全に催眠術だ。文字の羅列が俺の頭の中をグルグルと回り続けて目まで回ってくる。グルグルは大人には使えないんだぞっ!


 と、どうでもいい事を考えながら、だらだらと帰宅の用意をしていると、既に教室内は俺だけになっていた。


「あ、しまった……」


 最後の人は鍵、返さなきゃいけないんですよねー、普通にメンドくさい。


 職員室に鍵を返し終えると、学校を後にし、通学路を逆走する形で歩いていた。


 ここら辺も昔は畑だったのに、今となっちゃ完全に住宅街だな。まぁ猫を飼っている人が増えたって事だから、俺としても嬉しい限りだ。前、窓から覗いてるところ見たし。アレはアメショーだったか、家を守るためにか俺に向かって必死に威嚇してた姿が可愛かったな〜………いかんいかん、ついニヤけてしまう。まぁ家主によく懐いてる証拠だな。


「………猫といえば、結局あの黒猫はなんだったんだろう」


 年がら年中猫の事を考えているせいか、その度にふと、あの黒猫の事を思い出してしまう。


「アレの出番が来たか……」


(アレ……?)


「………よし、ちょいと試してみるか」


 俺はその後、少し寄り道をした後、帰宅した。

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