初対面と帰り道。


「待ってくれ黒猫!!………って、ここは保健室……?」


 バッと起き上がると、俺はベッドの上で何もない虚空に手を伸ばしていた。


 そういえばとある事を思い出し、保健室を見回す。


「あ」


「「あ」」


 保健室を見回していると、俺の寝ていたであろうベッドの横にいる硬直した二人と目が合った。


「あ……そういえばいたな。あはは……」


「あはは……じゃねぇーよ!本当に心配したんだぞ!」

「そうだぞ!猫野!一時間目に倒れたって言うから見に来たら、放課後まで目が覚めないなんて……」


 俺が軽く苦笑いすると、二人は冗談じゃないぞという感じで捲し立ててきた。


「ごめんごめんって!だから襟を掴むなっ!首が閉まるっ……!」


 ちょいちょいぃ!ボタン取れちゃうから!酸素回ってこないからぁー!


「ちょっと貴方達!またそうやって、一様詠野君は病人なんですからね!」


 ベッドの周りを囲うカーテンが一人の先生の声と共に開かれる。良かったぁー!助かったぁー!


 この白衣を羽織った先生はおそらく保健室の先生なのだろう、確か入学式で自己紹介してたけど……名前忘れた。


「そうは言っても、鐘場くんと藍叶さんの言う通りです!詠野くん寝ている間、ずっとうなされていたのよ?」


「あ、そうだったんですね。心配かけてすみません………」


 話を聞く限り、俺はあの時から今までずっと保健室で寝込んでいたそうだ。あの白い世界にいた時間は体感で一時間ほどなのだが……どうやらあそこは時間の経つ速度が違うらしい。


「まぁいいわ、先生は貴方が目を覚ました事を和泉先生に伝えてくるから、勝手に出歩いちゃダメよ?鐘場君と藍叶さんは遅くなる前に帰りなさいよ」


「迷惑かけてすみません……」

「はい、分かりました」

「はーい」


 保健室の先生はそう言って保健室から出て行った。


「心配させてごめんな。もう大丈夫だから」


「大丈夫な訳あるか、家まで送ってやるよ!」


「そうそう、このハゲの言う通りだよ!」


 藍叶の言葉に鐘場がピクッと反応する。てかハゲはないだろうがハゲは、まず鐘場はハゲてないし、坊主だしな。


「でだ、詠野」


「ん…?どした?」


「話が変わってすまないが、この失礼な美少女は誰だ?」


 鐘場は苦笑いしながら、横にいる藍叶を指差す。藍叶が美少女かは置いといて、そういえばそうだった。


「あぁ、そうか、お前ら初対面だっけか?」


 俺が聞くと鐘場は大きく首肯し、藍叶は頭の上に「!」を浮かべている。


「ゴホン、では、鐘場、こちら藍叶逢さん。藍叶、こちら鐘場英樹さんです」


 俺は座り直し、一人ずつ手振りで示しながら、お互いの名字と名前を紹介する。


「よ、よろしく!藍叶さん!」


「おー!よろしくね!かね、ば?」


 鐘場は少し恥じらいながら、藍叶は笑顔で二人は握手を交わす。


「良かった良かった、倒れたって聞いた時はびっくりしたが、まぁ無事で良かった!」


 不意に保健室の扉が開き、和泉先生が入ってきた。後ろに保険の先生の姿も見える。


「んー、よし!もう大丈夫そうだな、二人ともすまないがコイツを送って行ってやってくれないか?」


「え、いやいや、大丈夫ですよ先生。俺一人で帰れますって、家まで歩いて十分ですし……二人も……ね?」


 和泉先生が鐘場と藍叶に向かって俺を家まで送るように頼む。いやいや、大丈夫だから!本当に大丈夫だから!断るよね?二人とも?もう高校生だし、晶止、一人でできるもん!


「「はい!送っていきます!」」


 即答かよ………。




学校を後にした帰り道。季節は春なのにも関わらず、外は既に黒に満ちており、月明かりと街灯が三人を照らす。


「そーいや、詠野、お前は寝てる間ずっと黒猫がどうとか凛?がどうとか言ってたんだが、なんかあったのか?」


「え、俺そんな事言ってたの……?」


 恥ずかしぃぃぃぃいいい!恥ずかし過ぎるぅぅぅぅううううう!何寝言言ってんだ俺ぇぇぇぇえええええ!なんて言ったってそれを聞かれてることが一番恥ずかしぃぃぃぃいいい!


「寝込んでる時まで猫の事とかどれだけ猫好きなんだよ、ホント猫野だなぁ!」


「やかましいわ。まぁ寝てる時も猫を想う心を忘れてないってことだな、うん」


 羞恥に悶える俺を見て藍叶がニヤッと笑い追い撃ちをかけてくる。


「それで、黒猫はともかく凛って誰なんだ?」


「あー、いや………それはだな……」


 目を逸らす俺を「早よ話せ」と二人が覗き込んでくる。


「……えっと……凛ってのは……そ、そう!昔飼ってた黒猫の名前だよ!一緒に言ってた黒猫ってのもそのことだよ!うん!」


「本当に〜?なんかわざとらしいなぁ〜」

「同じく」


 まぁ、嘘はついてない、本当の事だ。とは言っても、大分話は改変しているがな。


 凛……っと、アイツは凛じゃないんだったな、けれど、やっぱり思い出しちゃうな……。


 家に着き二人にお礼を言った後、風呂を済ませると自室のベッドに飛び込んだ。俺は今の今まで寝ていたはずなのに、目を瞑ると簡単に眠ってしまった。

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