不注意と身体の異変。

 朝のSHRも終わり、一時限目までの空き時間。

 SHR中も話を聞かずストラップを見ていた俺を先生が睨みつけていた気がするが、気にしない気にしない。


 ちょいと時間があるので次の授業まで一眠りしようと思ったところ、視界の隅に此方へ近づいてくる人影が見えた。


「おい、寝るな寝るな。詠野、ノート写したか?」


「お、鐘場。…ノート?…………あ、写したわ写したんだけど……」


「だけど?」


「まぁ、ごめん、お前のノート机の上だわ……」


 写して机にほっぽり出したまんまだ。猫動画みすぎて忘れてた……。


「おいおい、勘弁してくれよ。明日でいいからちゃんと持ってきてくれよ?今日は何とかするから」


「うっ……ご、ごめんなぁ……。絶対明日には返すから」


「わかったよ。頼むぞ!」


 そう言って鐘場は自分の席へと戻っていった。

 帰ったらしっかりと鞄の中に入れとかなきゃな。


 ふと時計を見ると授業まであと一、二分しかなかった。


 時間が経つのは早いなー。高校生になってからより早くなった気がする……。はぁ……嫌だなぁ、小学生からやり直したいなー。


 とかなんとか思っているうちにも時間は経ち、一時限目の始まりを告げるチャイムが鳴り、いつの間にか来ていた先生がホームルーム委員へ号令を促す。


「起立!気をつけ!礼!」


 ホームルーム委員の号令に合わせ一連の動作を終え、全員着席する。


 全員が着席し終えたのを確認した後に、先生が手にチョークを持ち、先日の授業の続きを始める。


 さて、俺も授業の準備をするか。

 と、机の横に掛けてある鞄から、先日同様授業の道具と猫のストラップを取り出そうと少し体を傾けた、その時だった。


「あれ?」


 何故か視界がぐにゃぐにゃと揺らぎ出した。だんだんと見えている景色が不鮮明になっていく。


 昨日、猫動画を夜遅くまで見たせいかと、一旦体制を立て直すため体を起こそうとするが、それすらもままならない。


 なんとか机に手をかけて倒れる体を支える事が出来た、と思った瞬間、次は腕に力が入らなくなり体を支えていた手がずり落ち、ゴンッ!と頭が床とぶつかり鈍い音を立てる。


 頭……いてぇ……。


 床が冷たい。


 気持ちが……悪い…。


 周りがうるさい。


 体が……動かない。


 辛うじて首だけ動かす事ができた。周りを確認するため黒板の方へ視線を向けるが、やはり視界がぼやけていてうまく捉えられない。


 ―――あぁ――何が――どうなって――。


 喧騒に満たされた教室の一端、床の冷たさと痛みに加え、頭の中を掻き混ぜられるような気分の悪さを感じながら、俺の意識は徐々にフェードアウトしていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る