いつもの通学路。

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ


 金属音がとあるマンションの一部屋に鳴り響く。鬱陶しい音を静止させる為に音の鳴る方へ手だけを伸ばし目覚ましアラームを静止させる。その後、スマホを手に取り時間を確認した後、体を起こす。


「ん…………ふぁぁあぁぁぁぁ…………眠っ……」


 大きな欠伸と同時に体をグッと伸ばし無理やり眠気から覚まさせる。布団に名残惜しさを感じながらも、そそくさと布団をたたみ毎朝のルーティンであるトイレと顔洗いと歯磨きをすます。


 自室に戻り支度を整えた後、テレビをつけ流れるニュースをぼーっと眺めていた。


 昨日は夜更かしし過ぎたなぁ……結局深夜4時頃まで猫動画を見てしまった……。まぁ可愛いから仕方ない。


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ


 登校時間まで結構余裕があると思ったのも束の間、再びスマホのアラームが鳴り響きリミットがきたことを伝える。


「さてと、行くか……」




 いつも通りの通学路。


 春ももう終盤に差し掛かり、夏が顔を出してくるぞという今日この頃。


 季節は変われど通学路というものは変わらないものだ。その実、小中も毎日同じ道を通って学校へ向かっていたからなぁ、世の中そんな人ばかりだろう。違うとすればアレだな、俺みたいに徒歩か、さっきから横を通過してる自転車で通うかの違いだろう。


 俺の通っている高校は家が遠い近い関係なく、入学時申請すれば自転車で通えるのだ。だからこそ学生はほぼほぼ自転車通学なのだが、俺は「まぁ家近いし別に良いかな」と適当に思い申請しなかった為、徒歩通学なのである。


 眠気の余韻を残したままぼーっと歩く俺の横を、多くの自転車通学の学生が通り過ぎていく。

 すると、すれ違い様にポツリ呟かれた。


「歩きとか、なんで自転車使わないんだ?(笑)。家が近くても自転車で通えるのに」


 はぁ?何言っているんだアイツ……。

今通り過ぎて行った奴は高校生活を損しているな。なんたって、学校までの通学路と途中には野良猫が多数住んでいるからだ。


 それに加え、住宅街の民家の窓から時々顔を見せてくれる飼い猫も存在する。まぁその度威嚇されているだけなのだが、それすらも愛くるしいではないか。もう引っ掻かれてもいいからナデナデしたい……、むしろ引っ掻かれたい!ジュルリ……。


 口から垂れてきた涎を制服の袖で拭う。


「まぁ何が言いたかったと言うと、通学は「学校嫌だな〜、行きたくないな〜、帰りたいな〜」という気分が下がりまくった精神状況よりもだな」

「アンタ何ブツブツ言ってんだ……」

「ん?、あ……」


 考え事をしながらゆっくり歩いていると、横から声をかけられた。いつの間にか頭で思っていた事が声に出てしまっていたらしい。女子生徒が自転車を徐行させつつ変人を見るような目で此方を見下げていた。聞かれた……恥ずい……あと怖い……。


「す、すみません……」


 女子生徒は俺の謝罪を聞く前に学校へスーッと行ってしまった。

 すると近くでニャーっと聞こえる。聞こえた方へ顔を向けると、そこには猫が自分の体をペロペロと念入りに舐め毛繕いをしていた。


 猫の毛色は体の上半分が茶トラであとは白、いわゆる茶白猫と言われる毛色だ。まぁ殆どは茶トラと呼ぶ人が多い。


「お前はいつも可愛いなぁ〜」


 だらしなくなっているであろう顔で俺が撫でようと手を伸ばした瞬間、猫はパッと立ち上がりシャーっと威嚇した後ピューっと逃げていってしまった。


「なんでなんだ……どうしていつも逃げるんだよぉ……触らしてくれよぉー……」


 この猫が大好き、いや猫が超絶神的に好きなこの俺。詠野晶止はこの世に生を享けて早十五年、生まれてこの方一匹しか猫を撫でた事が無いのである。


 俺が猫ちゃんに触れようとすると先ほどのように何故か逃げる、途端に逃げる、それはもう逃げまくる。

 なんで、なんでなんだよぅ……マジで泣きそう……。


「まぁ、猫を拝めたし今日も一日頑張りますかぁ……」


 溢れ出そうな涙を堪えつつ遅刻はまずいと思い、小走りで正門をくぐり抜けた。

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