私の「春はあけぼの」
「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて
古典の勉強中の兄がポツリと呟いた。私は少し気になって「何それ?」と聞いてみる。
「昔、とあるお坊さんが詠んだ短歌だよ。四季の中で素晴らしいと思ったものを並べてる」
なんだか『枕草子』みたいだと思った。むしろ三十一文字でまとめていることに驚いた。私が季節のいい所について語るとして、そんな短い字数で語りつくせるだろうか。いや無理に違いない。
私が好きなのは春だ。花も咲いて暖かくなって……うん、ダメだ。好きなものが多くて語りつくせない。むしろ、簡単に言うとしたらどうすればいいだろう――。
一つの理由が浮かんだ。たぶん、なかなか味わえないからじゃないかと思う。
雪国が暖かくなるのは遅い。テレビで「春の足音が聞こえてきます」なんて言われてもこっちじゃピンとこない。花が咲くのも年度が替わってからだ。「サクラサク」のもゴールデンウイークだ。本州との季節感の違いをまざまざと見せつけられるたびに「ここは本当は外国なのではないだろうか」という気持ちが湧いてしまう。
結局、人はない物ねだりなのだろうか。温かいお茶を飲みながら私はそんなことを思った。
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