ぜんぶ夕陽のせい

 夕陽が街を茜色に染め上げるころ、神社からは賑やかな囃子の音が聞こえ始めた。俺は鳥居から少し離れた場所にある工事現場の前であいつを待ちながら神社へ向かう人の波を眺めていた。

 腕時計の針は待ち合わせの時間をとうに過ぎている。いつも待ち合わせの時間にうるさいあいつにしては珍しい。もしかしたら途中で事故にでも……と思ったが、車がほとんど走っていないこの村でそれはまずありえないだろう。そもそもあいつの家からここまでの道は車の通れる道じゃない。

「……お、お待たせ」

 ぼーっと人の流れに視線を向けてどれだけ待っただろうか。不意に声がかかった。

「おう、遅かった……な」

 初めて見る浴衣姿に思わず言葉に詰まった。いつものがさつな印象とは百八十度違う、おどおどしたか弱い雰囲気。

「どうかな?」

「ああ、似合ってるんじゃないのか?」

 表情に赤みが差しているように見える。夕陽のお陰で赤く染まっているからなのか。もし照れているのだとしたらと意識したら動悸が早まり出した。

「どうしたの。顔、赤くなってるよ」

「……夕陽のせいだ」

 なんだか体も熱い。まだ夏だからだ。そうに違いない。そう思って俺は一緒に歩き出した。

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