クマと出会った祖父

 台風が過ぎ、屋根の修理をしていた時のことだった。家の前にクマが現れた。

 私はすぐに脚立を引き上げ、屋根でクマが去るのを待つ。奴はゆっくりと家の周りをうろつき、何か食べるものを探しているようだった。

 タイミング悪く、そこへ農作業を終えたおじいちゃんが帰って来てしまった。お互いに気づいた時にはかなりの距離。共に足を止めて緊迫した時間が流れた。

「……え?」

 だけど、おじいちゃんはクマに襲われなかった。真正面からクマを見つめ、ゆっくりと後ずさりを始める。そう言えば聞いたことがある。クマは後ろ向きに逃げるものを追いかける習性があるのだと。だから目を合わせて後ずさりが最良の逃げ方なのだと。

「いや、速っ!?」

 そして、おじいちゃんはそのまま加速した。

 動く歩道に後ろ向きで乗っているかの如きスピードでそのまま国道へと逃げて行く。クマは初めて目の当たりにする奇怪なムーンウォークに戸惑っているように見えた。

 後で話を聞くと、「マイケルジャクソン世代じゃからな」とおじいちゃんは陽気に笑った。

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