明日天気にしないでおくれ
しとしとしとしと……
毎日雨が降っている。せっかくの夏休みなのに全然外に遊びに行けない。
「暑いなあ」
夏の暑い空気だけはそのままなので、むわっとして居心地が悪い。同じ暑いなら太陽が出ていた方がまだマシだと思う。
「宿題やったの?」
「まだー」
返事にもやる気が起きない。とは言え、宿題ぐらいしかやることがないのも事実だ。早く片付けてしまえば後で楽ができる。そんな打算的な考えで部屋へ向かった。
「……何やってんだ、俺」
ふと気づけば、目の前には見事に完成したてるてる坊主があった。暑さであまりにもやる気が起きない俺はいつしか近くにあったティッシュで暇潰しを始めていたのだ。
だがせっかく作ったのだから吊るしておくことにした。窓の前に立ち、カーテンレールにひもを通しててるてる坊主を吊るす。
「早く天気になって外へ遊びに行かせてください……と」
てるてる坊主に手は合わせるものなのだろうか。よくわからないがとりあえず祈っておけばいいような気がした。
「ご利益はありそうですか?」
「え?」
ふと気づけば、向かいの家の窓からこちらに手を振る女の子がいた。こちら側は目の前に一軒家があるので見晴らしも良くない。一度も窓の外を見たことがなかったから誰がそこに住んでいるかなんて考えもしなかった。
「毎日雨ばかりで飽きちゃいますよね」
女の子は屈託なく笑う。話をしてみると、向こうも夏休みで遊びに行きたいのに連日の雨に参っていたらしい。
「そうだ。明日も降ってたら私も作ってみます。二つもあればきっと効きます」
女の子はそう意気込む。根拠がなくても、なんだか本当に効果がありそうな気がしてきた。
「さて、そろそろ宿題に戻らなくちゃいけないのでこれで失礼します」
「ああ、こっちも宿題やらなくちゃ」
手を振ってお互いに窓を閉めた。カーテンレールの下でてるてる坊主はゆらゆらと揺れている。
「……明日は天気にしなくていいからな」
あの子とまた話したい。そう思って俺はてるてる坊主を取り外すのだった。
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