浴衣ラストサマー
「ごめん、遅くなって!」
いつもなら村が真っ暗になる時間。立ち並ぶ屋台と昼みたいな明るさに寄せられてたくさんの人たちが神社に集まっていた。
今日は年に一度の夏祭り。中学三年の夏の締めくくりの大事な日。この日にかける私の意気込みは並々ならぬものがあった。
「おー、来た来た。待ってたぜ」
神社の石段の前で待っていたのは私の片思いの相手。来年から進学でこの村を出る私たちにとってこの日は友達みんなで過ごす最後のお祭りの日だ。だから、私の想いを伝えるのも最後のチャンスになる。
「へえ、キレイな浴衣だな」
「うん。お母さんからもらったんだ。おばあちゃんも着てたんだって」
実はこの浴衣、十五歳の女の子が夏祭りに着ていくと恋が実るというジンクスがある。おばあちゃんも、お母さんもこの浴衣を着て夏祭りに行っておじいちゃんやお父さんと付き合うことになったのだと昔から聞かされていた。今年はいよいよ私の番だ。
「早く行こうぜ。みんなもう来てるはずだ」
「あ……えっと」
そしてこのジンクスはもう一つ条件がある。好きな相手と手を繋がなくちゃいけないのだ。このハードルが高い。お母さんたちはいったいどうやったのだろう。
「あ」
歩き出そうとしたところで彼が何かに気づいて振り向いた。
「ほら、手」
「え?」
「石段、浴衣だと上りづらいだろ」
「う、うん!」
差し出された手を私は握った。
「ああ、なるほど」
そう言えばこの石段の前で待ち合わせしろと言っていたのはお母さんたちだった。
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