雨は降るけど
「……うう、終わった」
テストが返却され、私はホームルームの終わった教室で机に突っ伏していた。敗因は日本史。暗記していればいいと高をくくっていた結果、前の範囲からの知識が必要な問題が出されてあっけなく討死を迎えた。
「まあまあ、赤点にならなかっただけよかったじゃん」
「首の皮一枚って奴よ」
「お、歴史っぽい発言」
こんなこと言えても点は増えない。
「帰り、どっか寄ってく?」
「そうだね。カラオケかお茶でも――」
窓の外から吹き込んできた風に私は言葉を止めた。鼻をひくひくさせて確信を持って答える。
「あ、これから降るかも」
「え、マジ?」
私は昔から雨が降るにおいがわかった。雨が降る直前の湿気を含んだひんやりとした空気は独特のにおいがする。
「帰った方がいいか」
「そうだね。また次にしよ」
そんな技能を持っているのだから友達には重宝される。曇り空が広がって来たらすぐに降るか聞かれる。降る三十分ぐらい前になればにおいを感じるから傘を持っていない友達はすぐに家に帰る準備を始めた。
私も早く家に帰ろう。自転車だから三十分もあれば十分間に合う。
予想通りに、ちょうど小雨がぱらつき始めたところで家にたどり着いた。自転車を置いて帰ると翌日は早めに家を出なくちゃいけないから良かった。もしも遊びに行ってたら傘を差しながら自転車を押さなくちゃいけないからもっと面倒だったかもしれない。そう考えると雨が降るのを予測できるこの能力はとても助かる。
「ただい……ま?」
玄関を開けると、何故かお母さんが立っていた。無言で右手をこっちに出している。
「テスト、返って来たんでしょ?」
「う、うん……」
「見せて」
「きょ、今日はテスト返ってこなかっ――」
「見せなさい」
「はい」
うん、予測できた。これから雷も落ちる。
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