第二十八話 イッツ・ショータイム
事実として、能力者たちに対する差別と偏見は明確に存在する。
《学園島》にいる限りあからさまにそれを突き付けられる場面は皆無だが、ひとたび外に出れば嫌でもそれを実感させられることになる。何せ人類の大多数はこの新たな力の概念、《
無理もない。
能力者の条件は『一〇代である』こと。よりによって、扱いが面倒な無軌道で多感な年頃の連中が人知を超えた力を獲得してしまったのである。そうして、ふとしたきっかけで能力が発現した者たちは好奇と嫌悪の目で注視され、常に監視される対象となった。
つまるところ、そこにあったのは――自分たちとは違う。
ただ、それだけだ。
だからこそこの《学園島》の誕生は、全ての者への救済となったのである。
持つ者たちには、居場所と目指すべき目的を。
持たざる者たちには、本音を隠す建前と平穏を。
脳科学分野に精通する有識者たちで構成された通称《十三人委員会》。彼らにより推進された《学園島》建設に向けての行動は極めて迅速なものだった。いまだにその経緯には疑惑が残ると主張するジャーナリストもいるが、この大規模な建設事業を実現するための予算計画は拍子抜けするほどすんなり承認され、かつて前例のない早さで新たな自治区は誕生したのだ。
苦い物を口にしたかのように顔を顰めた志乃姉は、そっと湯呑みから口を離して続けた。
「まあ、ともかくだ。《学園島》にいる学生たちは皆、何かしらの人知を超えた力を持っている。無論、目の前にいるヒイロや
「例えばそれは――?」
今まで押し黙っていた皇女様が口を開くと、志乃姉は頷いて浅葱の方へ視線を向ける。応えるように、うんうん、とツインテールが二度ばかり揺れた。
「えっとー。仕方ないですねー。じゃあここで浅葱の《第六感》をお見せするとしますかー」
軽く椅子を引いて立ち上がりながら、浅葱は俺の方に視線を向けた。そうされるまでもなく俺は重い腰を上げる。何故なら浅葱の《第六感》を実演するためには、誰かの協力が必要だからだ。ツインテールの片方を飾るスカーフをほどき、俺が差し出した手の上に浅葱が載せる。
「はい。じゃー、ひーくんお願いしまーす」
俺はそのまま浅葱の背後に回り、手渡されたスカーフで浅葱に目隠しをしてしまう。お洒落用なのでそこまで生地は厚くないが、視界をすっぽり遮ってしまうには充分だろう。
「よし……きつくないか?」
「うん。もうちょっときつくってもいいくらい。まーでも、見えないからこれでいっかな?」
「おう。じゃあ少し待ってろ」
これから何が始まるのか知らない皇女様と
「ちょっと協力してくれないか? 二人が日頃から身に着けている物を貸して欲しいんだ。……あ! それが何かは言葉に出さないでくれ。いいな?」
「え……!」
「い、いや、少し借りるだけだって」
何故か奈々瑠は言葉に詰まり、さあっと頬を赤らめた。その口がわなわなと震えている。
え?
俺、そんな変なこと言ってないよな?
「し………………下着をですかっ!?」
「い、言ってねえ!?」
勘違いも甚だしい。
つーか、姉と妹の前でそんな大胆なカミングアウトしねえっつーの。
「み、身に着けるってそうじゃねえってば! ふ、普段から持ち歩いている物でいいんだよ。ハンカチとか髪飾りみたいな、なるべく肌と接触する機会の多い物の方がいいんだが……」
まだ疑わしいと言いたげな冷ややかな視線が主に皇女様より飛んでくるので、言い訳がましいと思いながらも、頭を掻きつつさらにこう付け加えておく。
「断っておくが、俺が使うんじゃないからな? 浅葱の《第六感》を見せるのに必要なんだ」
「あ、あははは……。そ、そういうことでしたら。これを」
「はあ……仕方ないわね」
奈々瑠はポケットから小さな花模様の刺繍を施したピンクのハンカチを、まだ少し怪訝そうな表情のままの皇女様も同じくハンカチを――こっちは高級そうな薔薇の透かしの入ったシルク製だ――取り出し、それぞれ差し出した。受け取った瞬間、まだ温もりが残るそれを鼻先に持っていきそうになったのは秘密である。手にした二つのハンカチを手品の助手よろしく芝居がかった仕草で高く掲げ、目隠しされたままの浅葱が差し出す手の上に一つずつ載せてやる。
「よし。いいぞ、浅葱」
「うん。始めまーす」
さてさて。
我が妹(かわいい)によるショータイムの始まりだ。
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