第三十話 しつこくって悪かったな
「おー、あさきゅん! 済まなかったな。疲れたろう、よーしよしよし!
一仕事終えた
「もー! しのちゃん! くすぐったいってば!」
「あさきゅんかわいいかわいい!」
「ひゃんっ! そ、そこ、やっ!」
「うふ、うふふふふふー!」
「おい………………こら姉。暴走はやめんか」
志乃姉は俺たちの呆れ果てた視線に気づき、こほん、と咳払いをして何事もなかったかのように姿勢を正す。そこで難しい表情のままの皇女様が誰に問うでもない疑問を口にした。
「ここにいる学生たちは皆、浅葱さんのように特異な能力を持っている……と?」
「いやいや、そうじゃない。お前たちが今目にしたのがレア中のレアケースだっただけだ」
俺は苦笑しつつ皇女様の疑問に答えてやる。
「大多数が、大した使い道のない能力持ちばかりだ。そもそも《
「例えば……何?」
「さっきの浅葱の発言を思い出してくれ。《
皇女様はその理由が分からなかった。
俺は志乃姉の手元にあるハンカチを指して告げる。
「それは俺の匂いがなかったからだ。つまり、そもそもハンカチに匂いが移るきっかけが必要だったからだ。お前が誰かに何かに触れて、それからハンカチに触れないと匂いが辿れない」
触れないと――のくだりで少し皇女様が嫌そうな表情を浮かべたような、そんな気がする。
「あとだな? 浅葱が今までに見たことがあって言葉で説明できるものじゃないと意味がない。何故なら、頭の中の映像を直接他の誰かに共有することが浅葱にはできないんだからな」
「絵で伝えるというのは……どうでしょう?」
「えっとー。浅葱、絵心のあるなしに関しては友達から《画伯》と呼ばれておりまして……」
期待を込めた
ぺら。
「う………………。なかなか味がありますね」
コメントに困った時の台詞、第三位な、それ。
無理もない。妹だいしゅき!の俺でさえ脳裏に浮かんだのは、
「やっぱかー……」
いや、兄には分かる分かるぞ。自画像だよな。
ツインテールしか共通点見当たらないけど。
「これでも、ここ最近で一番の出来なんですけど……。あ、これ、しのちゃんですよー?」
「ぶっ!」
さすがにその発想はなかった。不意を衝かれ、ちょうど口に含んでいた紅茶を盛大に噴き出してしまった志乃姉が、んがぐふ、と浅葱の隣で苦悶の表情を浮かべている。汚えな、おい。
「あ……あさきゅん……?」
「ん?」
「もしかして、お前には私が……な訳ないか」
決してツインテールなどではない黒髪ロングをぽりぽりと掻き、志乃姉はかぶりを振った。
「浅葱の《第六感》については、先程のヒイロの説明でほぼほぼ合っているだろう。だが、それでも説明のつかないことがいくつか残っている。例えばだ――何故浅葱は、ハンカチの柄を言い当てることができたのか? これは匂いからでは判別できないはずだろう?」
志乃姉はハンカチをひらひらと振って、二人に等しく視線を向けた。この指摘には俺も頷く側に加わることになる。確かにいつも不思議で仕方ない。
「だからこそ《学園島》には《能力判定》やら《能力考査》がある。分からないことだらけならばまず少しずつでも知ろうということだ。無論、お前たち二人もそれを受けることになる」
皇女様と奈々瑠は頷こうとして――
「それは避けられないのですよね?」
「ああ。そうだ。こればかりはな」
「お前たちに《第六感》がないからか? 別にそういうのはお前たちだけじゃないんだぜ?」
現時点で《第六感》が発現していなくとも《学園島》に通うことを許可されている奴らは少なくない。確かに例外だが、能力発現の可能性が高いと認められれば入校資格には十分だ。
「ないのが問題ではないのよ。むしろ、あることが問題なの」
何だ。禅問答なのか、これ。志乃姉は、ない、と言っていた筈だが。
話の続きをせがむように奈々瑠にも視線を向けたが――唇を引き結び、俯いたままだ。仕方なく正面の皇女様の顔を見つめ直すと、溜息を吐かれてしまった。そんなに不快ですか。
「あの………………大神教諭……?」
「諦めた方がいい」
皇女様は
「こいつはしつこいんだ、嫌になるほどな。……話してやれ」
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