第2話

その日もいつも通りの毎日だった。

朝起きて学校に行き、普通に授業を受けた。

すべての授業が終わり、あとは家に帰って家でゆっくり過ごせばいつも通りの毎日と変わらないはずだった。


しかし、そんな普通を壊すような出来事が起きてしまった。下校中のことだった。今日は真衣は部活でいなかったから、俺は一人で帰っていた。

横断歩道を待っている時、俺の隣にいたスーツ姿の男性が急に横断歩道を渡り始めたのだ。俺が横断歩道を待っているということは、今の信号は赤だ。

目の前ではたくさんの車が走行している。

それなのにスーツ姿の男性はそれを無視して渡り始めたのである。


何が起きてるんだ?」俺はそう思って今何が起きているのか理解できなかった。

何かの番組のドッキリだろうか?それにしては危なくないか?そんな事を考えている間にも男性は横断歩道を渡る。


そして次の瞬間、男性は走っていたトラックに轢かれてしまった。

トラックもなかなかの速度を出していたため、男性は飛ばされてしまった。

そして飛ばされた男性は横からトラックと衝突したはずなのに、真上に飛ばされ、俺の目の前に落下してきた … まるで俺に吸い寄せられるように。


その男性はもう死んでしまっていた。


周りはとても騒いでいた。

怖くて悲鳴を上げる人、事件を面白がって動画を撮り始める人、さまざまだ。

そんな中、俺はその場でひとり立ち尽くしていた。

人が轢かれた挙句、なぜか俺の目の前に飛ばされてきた死体、ただの高校生の俺には何一つ受け入れられなかった。

つまり、パニック状態になってしまったのだ。何をすればいいかもわからずに俺は、警察の人が来るまで死体の男性の前で何もできずにいた。



警察が来ても死体の前にいた俺は事情聴取を受けることとなった。

しかしパニック状態の俺には何も答えることができなかった。

警察の人が話している内容も、自分が何を話すべきかも分からかった。

それを見兼ねた警察は俺を帰してくれた。

俺からは何も聞けないと判断したのだろう。



家に帰る途中、平静を取り戻しつつあった俺は、自分を責めた。

俺にはできることがあった。

スーツの男性が赤信号なのに横断歩道を渡った時、俺は注意することができた。

でもできなかった。それは「普通」じゃないから。

赤信号の時は渡らないのが普通であり、渡ることは普通ではない。

そんな「普通」でない状況に俺は戸惑いを隠すことができずにただ傍観するだけだった。

でも、赤信号で渡ろうとしている人を注意するのもまた「普通」じゃないだろうか。

間違っている行為を正すために注意をするのは普通のことだ。

じゃあ、俺はなんでできなかったんだ?「普通」を愛する俺はなぜ普通の行動ができなかったんだ?考えてもその答えは出なかった。


悩んでいる途中、部活が終わって帰る途中の真衣が声をかけてきた。


「やっほー悠弥!お疲れ!こんな時間に帰るなんて珍しいね!」


部活が終わっても元気な真衣は、いつものように話しかけてきた。

俺は事故のこと、俺がさっきまで考えていたことを話した。俺が話している最中、真衣は真剣に話を聞いてくれた。


「たしかに悠弥にできることはあったのかもしれない。けどね、それで自分を責めなくてもいいんじゃないかな。」


「どうして?」


「だって、たいていの人は悠弥みたいに何もできなかったんじゃないかな?周りの人たちも何もできなかったんでしょ?」


「そうだな。」


「なら、そんなに自分を責めなくてもいいんじゃない?悲しい出来事だったから、余計に自分ができることをすべきだったって思うかもしれないけど。」


真衣は冷静に俺を励ましてくれた。

今の俺にはとてもありがたい言葉だった。


「ありがとな。ちょっと楽になったわ。」


「いえいえー。悠弥が何かあるとすぐにパニックになって悩んでるからねー。話聞くのなんて慣れたもんよ!じゃあ、また明日!」


いつも通りの元気な感じになった真衣はそう言って家に帰っていった。

こういう時、真衣はすごく頼りになる。いつも俺を励ましてくれる。

あまり気にしすぎても仕方がない。

明日からまた「普通」の生活をしようと決意した。




しかし、この事故はただの始まりに過ぎなかった。

もう俺の思い描く「普通」がなくなっていくと知るのはもう少し後のことだ。


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ココロを殺す D-JACKS @D-JACKS

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