第1話

 ステータス。それは神に与えられし加護。全ての人間は10歳の時に最寄りの神殿へと行き、ステータスを神官達の手によって教えられる。要するに、俺みたいな例外を除き、10歳未満の子供達が自分のステータスを知るすべは無いのだ。それが例え勇者や神官であろうとも。

 が、


「イーちゃん!連れてきたよ!」

「……」


 俺みたいな例外を除いても、さらに例外が3つだけ存在した。

 村から出て、柵で囲われた土地の外側にあったその地は、俺が想像していた場所とはだいぶ違っていた。まず、他の子供達がいない。その上、ここは村の外なのだ。子供が遊びで来て良い様な場所では無かった。


「……」


 そこにいた少女と、視線が交差する。ミーちゃんとはまた違った美幼女、銀髪を長く揃えた女の子と暫し見つめ合っていると……ミーちゃんの我慢が限界に達したのか、思いっきり突き飛ばされた。


「ねーイーちゃん!連れてきたよ!!?」

「言伝『あと10年しか無いけど、何まどろっこしい事やってんの?』」

「……」

「何の話ー?」


 10年……10年かぁ……未だ米すら見つけられていないというのに……。

喋るのが苦手なのか、所々声が小さくて聞こえづらい部分もあったが、内容は理解した。10年……俺の中では一生をかけて整えていくつもりだったのだが、そんな悠長な事も言ってられない。又、今の発言で彼女の職業も分かった。ステータスを把握できる例外である聖女、聖人、使徒。まず女の子だった為聖人が消え去り、神による肉体の乗っ取りが無かった為使徒でもない。


「『分かった』と伝えてくれ」

「わか……った」

「ねーねー!」

「……、剣士」

「けんしー?強いの!?」

「弱い」


 弱いのは間違いないのだが、断言された事で軽く心にダメージを受けながらも、自分で改めてステータスを確認する。()内が隠している実際の能力なのだが……、


名前:ルーク

種族:人間

剣士(怪盗):1

HP:7(80)

MP:5(2578)

STR:1(8)

VIT:1(5)

AGI:2(22)

INT:1(134)

MND:1(87)

DEX:2(78)

(エクストラスキル)

(【変幻自在Ⅹ】)(【偽装Ⅹ】)(【分身Ⅹ】)

(ユニークスキル)

(【空間魔法Ⅷ】)(【回復魔法Ⅷ】)(【並列意思Ⅷ】)

スキル

【剣術Ⅰ】【身体操作Ⅰ】(【変装Ⅰ】)(【手品Ⅰ】)(【魔力感知Ⅱ】)(【魔力操作Ⅱ】)(【魔力回復速度上昇Ⅱ】)(【念話Ⅱ】)(【思考加速Ⅲ】)(【魔力制御Ⅴ】)(【身体制御Ⅴ】)(【表情制御Ⅴ】)(【思考拡張Ⅴ】)


 生まれてきた時から鍛え続けてきたMPだけは圧倒的だが、それ以外は誤差の範疇だろう。しかも、【分身】の効果で全ステータスが10%まで落ち込んでいる為、()内の数値の10分の1程度の力しか無い。せめてもの救いはスキルレベルが1レベル下がるだけですむ事だが、この貧弱ステータスの前では誤差の範疇だろう。……泣けてきた。


「んー?弱いの!?」

「うん」

「……そっかー、なら、一緒に冒険できないね!」

「うん」

「……冒険?」

「ルーくん興味あるの!?そうだよ!冒険!勇者様みたいに森に行くの!」


 そう言ったミーちゃんの指差した方向は、確かに森が広がっていた。辺境だからこそありえる、村のすぐ近くに存在する森。既に分体によって調査を済ませているが、普通にゴブリンやレッサーウルフ程度なら存在する為、彼女等のみで行くのはあまりにも危険な場所だった。

 柵の外に集まった理由を察しながらも、彼女達が行かない様に慎重に、心を落ち着かせながら問いかけていく。


「……いくの?」

「うん!ほんとは3人で生きたかったけど、ルーくんは危ないからいいよ!」

「……イーちゃんは?」

「……行く」


 未だ二人の本名を知らない事に気づきながらも、今はそんな事を聞いている場合では無かったのでイーちゃんに問いかけるも、思ったよりもやる気に満ちあふれていた。


「……危ないんじゃない?」

「勇者の私と聖女のイーちゃんがいれば大丈夫!!」

「……やめる気は無いの?」

「うんっ!」

「……」


 前世の最終学歴高校在学の俺では、子供を転がす事が出来ないようで……どうやら俺の質問は彼女等の意思を固めるだけに終わった様だった。

 【分身】10体の内すぐにでも戻ってこれるのは4体のみ。元から村周辺にいさせていた1体を合わせて5体、俺含む6体で彼女等を守ることが出来るかと言うと……いや、楽勝だな。

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