記憶を探る

 自分のこの量子情報ステータスにもやはり、違和感がある。

 これではない感が否めない。

 まず、基本ステータスの数値化だ。

 480000とか530000とかそういう表示ではなかった気がする。

 この数値は高いのかな?6桁以上の数値なので、かなり強い気もするが、比較対象がいないのでなんとも言えない。

 もしかすると、平均的8歳児で240000なら極めて標準的な数値の可能性は高い。


 あと、違和感があるとすれば神術についてだ。

 なにやら、沢山あった。

 その表示の仕方も微妙に知っているモノと違う気がするが、セットされているモノを確認すると約70個前後、或いはそれ以上の神術がセットされている。

 一部は使用出来るが大半が(使用制約 世界間互換調整中につき使用不可)と言う表示があり、使用できないらしい。


 しかし、気になるのは世界間互換と言う言い方だ。

 知っている知識と照らし合わせるなら仕様が違うモノを別の場所で使う際の親和性だったと思う。

 それを素直に受けると世界間で互換を合わせるは”わたしが別の世界から来た何かでありその能力をこの世界の水準に合わせている”と言う事になるのではないか?と予測した。




(だとすると、わたしは異世界人みたいな奴?なんか、その類の本を昔、読んだ気がするけど、自分がそうなるとは予想してなかった。そうなると歩いて帰ると言う事はまず、出来ないかも知れない。いや、待てよ?異世界なんだから、空間転移すれば帰れるかな?神時空術で帰る事が出来るかも知れない)




 そう思ったアリシアは術を行使して試してみたが上手く行かなかった。

  何か違うと言う手応えと神術を使う上での基礎知識として知っている情報を整理すると問題なのが自分の元の世界の事を何も覚えていない事だ。


 帰り道が分からない認識できていない為、空間転移が出来ないようだ。

 どうやら、帰る為には自分の記憶を思い出す以外ないようだ。

 その為には何としても生き残らなければならない。


 幸い、使える神術は大量にある。

 今、セットしている神術以外にもオブジェクトと言うカテゴリーで約40個一組の神術セットがあるようだ。

 中には”料理”と書かれた料理する為だけに用意された神術まである。

 多分、記憶を失う前に料理を振る舞っていたのだろう。

 色々、弄ってみて何となく分かった事がある。

 セットオブジェクトは自分の意志でも変更は可能だが、戦闘時などでは臨機応変にセット神術を入れ替えられるようになっているようだ。

 それは使って確認するしかないが体が覚えているのだろう。

 それに何ら疑問を覚えない。


 あとはセットすらされていない大量の神術まで保有しているようだ。

 どうやって獲得したのか分からないが多分、記憶を失う前ですら用途が無かった神術かも知れない。

 この世界ではもしかすると役立つかもしれないからあるに越した事はない。




「あとはこの表示の仕方だよね」




 アリシアが一番気になるのはステータスの最初の部分だ。



 

 仮名登録 アリシア


 制限 全知全能なる〇〇


 制限役職 祭祀戦王




 仮名登録と言うのが引っ掛かる言い方だ。

 まるでアリシアと言う名前が偽名のような言い回しだ。

 なんか、少し心外な気がした。

 自分がアリシアであると言う確信は確かにあるので遠回しにそれを否定されているようで癪に障る。





(それともそう思い込まされているのかな?だとしたら、誰に?う~ん、そればかりは憶測の域を出ない話だからやめよう。あとは〇〇と言う表示。なんだろう。結構、重要な事を隠されているような表示だよね)





 この〇〇にアリシアの正体を特定する何かがある気がした。

 だが、なんで記憶に関わりそうな部分を徹底的に隠されなければならないのか?

 本当に何者かの作為だろうか?

 自分の正体が分かると困る何者かの仕業だろうか?


 あと、気になるのは与えられた役職だ。




 祭祀戦王




 祭祀と言う言葉を聞くとどこか心から沸き立つような使命感を覚える。

 自分は祭祀をしないといけないと言う強迫観念にも似た感覚がある。

 だが、何故だろう。

 懐古的な感覚ではその事を誇りに思っていたはずだ。


 だが、今はそれが無性に悲しい。

 まるで使命を果たしたのにその使命に裏切られたような悲しみと燃え尽きたような虚無感だ。

 正直、今のアリシアは祭祀をしたいとは微塵も思わなかった。

 既に使命は完遂してやり切ってそれでも「ダメだったんだ」と言う黄昏に浸っているような感覚だ。

 祭祀がどんな職業で何をする者だったのか思い出せないが、その名を聞くと無性に悲しく自分が灰になり土塊したような虚しさを覚える。


 だが、結論を言えば、自分が何者か現状何も分からない。

 とりあえず、生き残らないと成らない事だけは確かだ。

 まずは、この森を抜けて情報を探して記憶の手掛かりを見つけるしかない。

 祭祀と言う行為は気乗りしないならやらない事にした。

 どうせ、何をすれば良いの分からない職業な上、ストレスが溜まるくらいなら気にしない事にした。


 アリシアの決意を確認したかのように何者かの雄叫びが聞こえた。

 空気を震わせるほどの遠吠え、明確な殺意と言うよりは飢えだろうか?アリシアを食い殺すとせんばかりの殺気を向けるモノがいる。

 アリシアは身の丈に迫るほどの刀を上段で敵のいる方へ突き立て身構える。

 それを待っていたと言わんばかりに深緑の中から全高5mはある巨大な狼が飛び掛かった。

 アリシアは"◯◯眼・天授"で狼を見つめる。

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