女神復活

「では、死ぬがいい」




 サタンのレーザー攻撃がミダレに迫る。

 ミダレは死を覚悟した。

 視界前面を覆うほどのレーザーが追尾しながら、自分に迫る。

 更に背後からも挟み撃ちに会う。





(避けきれない)





 自分はここまでのようだ。

 これ以上、どう抗っても勝てそうに無い。

 そもそも、勝てる見込みすらなかった。

 この敵にとって自分はただの虫だ。

 勝てる見込みなど初めからありはしない。

 正面と背後からレーザーが寸前のところまで迫る。




(本当に……終わった)




 自分の死期を悟り、ミダレは目を閉じる。

 ミダレはレーザーに貫かれるその瞬間、自分の目の前に何かが現れた。

 ミダレはその姿に一瞬、目を取られる。

 その機体が手を払った瞬間、レーザーが軌道を変え、再び接近していた地球統合軍艦隊を撃墜した。

 その姿に誰もが驚いた。




「そんなにすぐに諦めようとしないの。やれば、意外となんでも出来るモノだよ」




 ミダレはいきなり起きた現実を呑み込めず、呆然とその機体を見つめる。

 そのパイロットは落ち着いた面持ちでミダレに説教した。




「でも、頑張って時間稼ぎをした事は本当に凄いよ。よくやりました。そのお陰でわたしは救われた」




 その機体……”戦神の蒼剣具”を実体化モードで纏ったネクシレウス・アストはこちらに振り向くと機体越しに伝わる暖かなオーラを放ってこう言った。




「後の事は任せて。わたしが全ての決着をつける!」




 それは神の宣告だった。

 彼女はこの戦いを終わらせ、勝利すると宣言した。

 しかも、今のミダレの目には彼女がよく分からなかった。

 今の彼女からは何も感じない。

 ミダレの知る大らかな品性は感じが、何より神としてさっきまであった力を感じない。

 サンディスタールは十字架と投げ捨てられていたはずの機体の方を一瞥した。

 そのどちらにも既に何もおらず、目の前にそれがいる。




「貴様はアリシア・アイか?」


「だったら、なんです?」




 アリシアは強気は口調でサンディスタールに反駁する。

 サンディスタールは「ワハハハ」と笑い出し、嘲る。




「だとしたら、失望モノよ!今の貴様からは神の力を感じぬ。それではただの人間ではないか!」




 サンディスタールから見ても今のアリシアにはなんの力も感じられない。

 それすら英雄でもネクシレイターですらない。

 さっきまで感じていた高い神性も今は見る影もない。

 本当にただの人間だった。




「後の事は任せろだと!随分、奢ったな!貴様のような力なき者、我が相手をするまでも……」




 するまでもない。

 そう答える前にアリシアは”瞬き”を1回だけ行った。

 それは些細な変化で何の変哲もない人間なら何の意味も為さない自然な行動だった。

 しかし、真の神の摂理に意味のない行動等、1つもない。

 ”瞬き”、1つとっても洗練された動きで行い、それすらも武器と化す。


 サタンが全てを言い切る前に何かの眩い閃光がサタンの左側で起きた。

 サタンは徐に左を振り向くと自分の左上腕がまるで爆ぜたように抉られ、落とされた腕で地球の重力に微かに引かれながら落下、WNで構成された腕が宙で四散、分解されていく。

 その分解された力はアリシアに流れ込み浄化され、糧とされる。


 それを知覚した時、サタンの体に耐え難い猛烈な痛みが襲い彼は吠えた。

 その声は宇宙全てを揺らし、並行世界まで轟くほどの断末魔として響き渡り、重力波として様々な世界に行き渡る。

 その衝撃は全ての並行世界の次元の門を意図せず開き、その様子は場所や時を超え、全ての世界に知れ渡る。




「ば、馬鹿な!あり得ぬ!神を超えた我が!こんな!こんな!」


「自分の女々しさを誇示する余裕があるの?」




 アリシアは”空間収納”から神光術式高出力共鳴増幅式レーザーライフル”バスターレンブラント”を2丁取り出した。

 上田・美香が好んで使う神光術式高出力共鳴増幅式試作レーザーライフル”プロトバスターレンブラント”の正式採用ライフルだ。

 そのライフルを左右から連結され、左手をトリガーに右手で腰に据え、サンディスタールに銃口を向ける。




「あなたには泣き喚く余裕なんてない」




 アリシアの鋭く冷たい意志の篭った想いを具現化するように”バスターレンブラント”の銃口が一気に眩い光を放つ。

 まるで第2の太陽を思わせるほど通常の視覚では見えない蒼白い光が一瞬、光ったと思うと凄まじい光の一閃がサンディスタールに放たれた。

 そのあまりの太さと迸るレーザー光線は先のアスタ・ガニマを容易に超えており、サンディスタールの躯体を全て包む大きさだった。

 サンディスタールは自らの権能の枠を集めた透明な赤紫色を放つ半球形の”障壁”を展開した。

 かつて、創造神アステリスの放った最大にして一撃必殺の一撃を半壊させながらも防いだ程の防御力があり、神を超えた事でその能力は飛躍的に上がり、容易に貫く事は仮に創造神2人がかりであろうと不可能だ。

 そう、サンディスタールは確信どこかで安堵していた。

 だが、そんな彼の思惑などまるで路肩の石でも一蹴するように光の一閃は直撃と同時に圧倒的な圧力で紙でも引き裂くように簡単に貫いた。


 


「何!」




 莫大なレーザー出力がサンディスタールの躯体を呑み込み、宇宙を貫く一筋の光として駆ける。

 光の閃光は宇宙に飛び立ち、この地球のある銀河の中心に生息していたSWN事象具現式のサンディスタールが後方支援的に宇宙各所で様々な惑星で戦争災害や侵略災害等を引き起こし、SWNの増産を狙って製造していた怪獣とか魔物と呼ばれる宇宙生物を1兆匹諸共、この宇宙から抹消した。

 その出力は直撃していたなら地球はおろか、銀河を壊すだけではなくビッグバンを引き起こし、今の銀河を終わらせても余りある程の力があり、半径5000億光年が消えていただろう。

 アリシアはサンディスタールを倒す為に効果範囲を限定していただけであり、地球が滅びようとそんな事は勘定にすら入れていない。

 強いて言うなら、神に気まぐれで今の一撃で地球が滅びなかっただけだ。




「やったの!」




 ミダレも今の一撃で仕留められないとは考えられず、アリシアに確認した。




「いや、まだ生きてます」




 光が収まったと同時にアリシアが構えていた”バスターレンブラント”2丁が爆ぜ、破損、アリシアは”バスターレンブラント”を2丁とも捨てた。

 サンディスタールがいたところにはさっきまでいた赤紫色の”陽炎の巨人”は消え、その代わりにAPサイズの小さな黒い塊がいた。

 その姿は黒い鱗にヤギを思わせる2本の角に赤紫の双眸、更にコウモリを思わせるような4枚の翼が背部から生え、後ろ腰には竜を思わせる巨大な尻尾が生えていた。

 そう、その姿 竜人にして悪魔と形容できる姿に変わっていた。




「アリシア・アイ!貴様は何者だ!」


「意味が分かりませんね。わたしはわたしです」


「そうではない!貴様!一体、それだけの力をどこで!」




 サンディスタールは今までの余裕の態度から一変切迫、焦燥感に駆られ、切歯扼腕する。

 何がどうなっているのか全く分からない。

 神すら超えた自分が目の前に人間にすら手も足も出ないと言う事実がサンディスタールを苛立たせる。

 まるで自分の分からない未知の力を壟断、それを思うがまま振り撒いている様だった。




「歯痒いモノですね。神を超えたと僭称しながら、あなたには今のわたしがただの人間にしか見えていないなんて」


「一体どういう事だ?」


「分かりませんか?わたしはあなたや人間が捨てたそれを自らのスピリットに変換、次元を高め、更にオリジンプログラムで常に増加させているのです」




 サタンのその言葉に震撼した。

 オリジンプログラムが何かは知らないが、そんな事をするなど最早、正気とは思えなかった。

 天の世界……それは神と共にあった……それそのモノの世界……莫大なエネルギーを保有した高次元エネルギーの塊のような世界だ。

 神が強大なのはそのエネルギーそのモノである生命体、故の力だ。

 例えるなら、魂の器の中に高次元エネルギーが詰まった状態が神と言える。

 人間は神には届かないが神をモデルに作られている為、その縮図とも言える魂を形作っている。


 アリシア・アイと言う神もそれに比類するほどのエネルギーと世界を内包した存在ではある。

 だが、当然だが受け皿の容量を超えると魂が砕ける為、当然、死んでしまう。

 サンディスタールですらアスタルホンを取り込むのに魂が壊れないようにしていたほどだ。

 そのお陰でアステリスを取り込むのはある程度、耐久性を確保できていた為、容易だった。

 だが、天の国の全ての可能性となれば、それは神を取り込むとかそんな次元の話ではない。

 世界とは本当に広く……神ですら踏み入った事のない未開拓地のような高次元も存在する。

 そこには誰一人生命体は存在しない。

 何故なら、エネルギーの次元が高過ぎて魂が壊れるからだ。


 神は人間を高次元に帰還させた後、自らの地位をその者達に明け渡し、更なる次元で天使達を統治する。

 それが本来の神の計画であり、救う過程を経ずして魂は強くならないので更なる高次元には踏み出すにはどうしても必要な過程だった。

 だが、話を聴いた限りアリシア・アイはその無限とも言える力をその内に内包……しかも、魂がそれに耐えていると嘯いている。

 それが本当ならアリシアの神としての次元はサンディスタールよりも高く、サンディスタールの能力を以てしても、その存在を推し量れない存在に成っていると言う事になる。

 人間が紫外線を見る事が出来ないようにサンディスタールもアリシアの力の全てを見る事が出来ない。

 だから、ただの人間に見えてしまう。




(馬鹿な!途中まで我の力が凌駕していたはずなのに逆に押されかけている!そんな事、許すわけにはいかない!)




 サンディスタールは空間に満ちるSWNを集め、胸部から高出力のSWN圧縮粒子砲を放った。

 その一撃はミダレのバロマ・バシレウスの計測器では測定不能の数値を出し、推定威力は2500億光年銀河を破壊するほどの威力がアリシアに向かう。

「危ない!」とミダレが叫ぶが、アリシアに特に微動だにせず、右手の人差し指を突き出し、微かにZWNを奔らせた。

 だが、そんな霞む様なZWNではあの砲撃を防げないのは自明だった。

 だが、突如霞のようなZWNは爆発的に膨張、半円形の透明な蒼い”障壁”を形成、サンディスタールの攻撃を防いで見せた。

 半円形の透明な蒼い”障壁”の曲線に沿って、レーザーが拡散、四方に飛び交う。

 だが、半円形の透明な蒼い”障壁”は一切破られる事無く容易に防いで見せた。

 彼女はサンディスタールを嘲笑うように彼と同じ真似をして反撃した。

 しかも、彼の”障壁”より強力な盾を効率的に展開してみせた。


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