新たに復活する者
「馬鹿な!あんな雀の涙のようなスピリットで何故!」
「あなたの与えた試練のお陰よ。世界の全てに迫害され神にすら迫害され、裏切られた経験はわたしを破壊するほどだった。ですが、わたしはそれに耐えた事で天の世界の全て喰らっても耐えられる魂を得てしまった。その莫大なリソースを使って魂の強化を続けオリジンプログラムにも耐え得る魂をわたしは得た」
「オリジンプログラムとは、なんだ!」
「あなたがそれを知る必要はありません」
尤も、教えたところで意味はない。
オリジンプログラムが認識次第で1を100万にすることも100億にする事もできる世界法則と言っても彼は信じない。
仮に信じたとしても彼には扱えない。
0次元……それは世界の起点となる世界であり、物事の前後が曖昧であり、存在しない次元。
アリシアが介入しなくてもオリジンはオリジンプログラムを完成させ、世界を創ったが、逆に言えばアリシアが介入してオリジンプログラムが完成して世界で出来たと言う事実も成立、アリシアは意図せず、世界の起源存在となっている。
オリジンに一度は自分の命を差し出した事で彼女はオリジンと半融合状態になった。
だからこそ、オリジンプログラムを使っても他の者が使うよりも負担がかからず、誰よりも多くの力を取り出そうとその魂は自壊しない。
尤も、融合を果たす過程で自壊する恐れもあったが、アリシアが地獄と言う低次元に耐える個体でなければ、融合しても魂が耐えられなかった。
そして、その過程を経た上で儀式を行った事で融合を果たした。
地獄で過酷な修行すら積んでいないサンディスタールにはどの道、預かれない力なのだ。
その能力と権能を使い、魂の耐久値を無限に上げ、無限のWNを取り出す。
アリシアは個として無限の高次元に昇る術を既に身に付けていた。
この瞬間もサンディスタールが想像できない次元に彼女の魂は昇華している。
サンディスタールはその事に危機感を覚え始めた。
アリシア・アイは決して虚勢は言っていない。
(真面にやりあっても勝てない。逆に過酷な状況に追いやっても逆に力をつけてしまう。今のアリシア・アイは存在としてあまりに異形で!命にしてはあまりに異常で化け物としてはあまりに恐ろしい!こうなれば、世界中の不認識を利用して奴の力を削ぐしかない。いかなる術も認識されなければ、虫けら同然だ)
「やれるものならやってみたらどう?」
(考えを読まれただと!)
「そんな無駄口を叩く余裕があるの?」
サンディスタールは彼女の言葉に首筋を急に寒くなる。
すぐに反撃せねば死ぬと直感した。
彼は全地に轟くほどの雄叫びを上げ、高らかに宣言する。
「アリシア・アイよ。貴様を人類に仇為し人類の可能性を否定するのか!」
サンディスタールは白々しく宣布する。
次元を通じてその言葉が伝わり各世界の人々は不安に駆られた。
目の前の蒼い機体が人類に仇為す存在だとサンディスタールに刷り込まれる。
サンディスタールはそれを利用して再び、SWNを世界中から搔き集め、臨戦態勢を整える。
もう世界にはサンディスタールの不法が轟き、アリシアの声を聴き分ける者は限りなく0に近い。
サンディスタールの様に人々の力を借りて世界を救う等と言うゲーム的な展開はアリシアには望めない。
だが、それで良い。
神や民にすら迫害され、それを乗り越えたアリシアは今更、人類が迫害しようとしまいと自分の任務を果たす。
だからこそ、対抗して高らかに宣言する。
「なんとでもほざけ。お前達がなんと言おうとわたしは悔い改めない罪人を裁く。可能性と権利を主張するだけの無責任で愚かなエゴイスト共が生きていられる程、この世界は甘くない!」
「それが人類の可能性であり、希望であり、選んだ道だ。貴様はそれを否定すると言うのか!」
「言ったはずです。エゴイスト共が生きていいられるほど世界は甘くはない。況して、必死に生きようとする私の民を迫害するなら例え、世界の全てを破壊してもわたしは自分の民を守る!それが真の平和であり、わたしの為でもあるから!」
アリシアはいつも以上に辛辣な物言いで高らかに全世界に福音として宣言する。
「悔い改めない者は裁く」と……こんな事を言えば、世界の全てを敵に回すであろう。
神に逆らう大罪人はその分、不法が増し、サンディスタールの力が高まるだろう。
だが、それは不法を愛したこの時代に人間達にはこのくらい強い言葉でないと伝わらないからだ。
それにこうしておけば、少しは神と言う者に恐怖して相対的に小さな罪を働いた者達は不法を自重してSWNの供給を止められる。
大きな罪を行う少数よりも小さな罪を働く大多数を抑える事の方がこの場合は重要だからだ。
それに元々、神の味方をする者が少ない。
世界で味方をする人数等大した問題ではない。
サンディスタールや人間にとって戦いは数やエネルギーの総量、兵器の質で勝負が決まると思っているだろう。
だが、違う。
真に勝敗を分かつのは勢いがあるか……自らを犠牲、命がけで戦おうとする意志だ。
勢いのある兵士は時として勢いのない兵士10人分の働きをする。
そして、犠牲とは愛がなければ、到底できない。
他人の為に自分の意見や主張、欲望を押し殺してまで他人に仕えようとするその品格こそ神が望む“朽ちる麦”の品格であり愛だ。
少なくとも偽りの証人は互いに徒党を組み、互いに偽証し合い、それが真実であるように人を惑わし偽証する。
”英雄”とは、時として個人の主張と似たような英雄と徒党を組み、承認し合い、承認欲求を求める。
それを仲間と彼らは言うかもしれないが、今までの”英雄”の行動を見れば、その本質は幾ら口先で否定しようと仲間とは思わず、単に自分の主張を正当化する為の道具に過ぎない。
その時点で自分を無にして犠牲にする事を忘れる。
人間もサンディスタールも同じだ。
互いに徒党を組み、自分達の主義主張が正しい事を承認し合い、それに逆らう者は悪と決めつける頑迷で固執した石の心がある。
例え、人の心を読み取る力があるとその頑迷さで彼らは分かり合う事を拒む。
そんな愛を知っていると嘯きながら、愛を知らない者達に勢いある兵士が負ける道理等ない。
勢いのある兵士は民を救う為に自ら危険を課して敵に挑むのだ。
そんな中途半端な害と成り得る意志をアリシアが聞き従う事も心に止める事もしない。
何を言われたとしてもアリシアはサンディスタールの可能性、人類の可能性を叩き潰す。
「アリシア・アイ!貴様を倒し!人類の可能性を切り開く!」
サンディスタールの雄叫びと共に周囲の空間が歪み、サンディスタールを方円の陣の中にいれるように見慣れた機体が複数機展開された。
戦域を全て包むほどのサンディスタール・ヴァイカフリがサタンの守護者として召喚された。
それぞれにかつてのロアの存在を感じる。
その全てが自分を憎み、未だ人類の可能性を正当化する。
今のアリシアなら彼らと戦うのは難しい事ではない。
ただ、ミダレを守りながら戦うのは厳しい。
ミダレの力ではサンディスタール・ヴァイカフリにすら勝てない。
「ミダレ。あなたは下がって。言いたいことは分かるよね?」
アリシアは敢えて、釘を刺す。
ミダレも分かってはいた。
昔なら反駁してでも戦おうとしただろうが、この相手1人とっても自分では勝てないと分かってしまう。
しかも、それでは彼女の足手纏いになると分かってしまうのが、悔しくもあり、歯痒くもあった。
「分かった。大丈夫なのよね?」
「心配してくれるの?」
アリシアは素直にそう思った。
ただ、ミダレにはその素直さが眩し過ぎる。
「べ、別に。ただ、ここで死なれるとわたしが困るからよ」
「ありがとう。なら、あなたを困らせないために生きて帰るよ」
アリシアにミダレの目を見て優しく微笑んだ。
(やっぱり、あんたは眩し過ぎるわよ……)
ミダレはその光を直視するのを避けるように「ふん!」と外方向いて戦域から去った。
アリシアと言う人間にあった時からその眩さにミダレは嫉妬していたが、憎まれ口を叩く気にはなれなかった。
アリシアからしてもその態度はだいぶ、好ましいモノになっており、初めて会った時に比べたら、彼女は打ち解け易くなっていた。
今も自分を変えようと必死に藻掻こうとする誠意がある。
まだ、時間がかかるだけで彼女はきっと良くなると分かって……寧ろ、喜ばしかった。
アリシアは敵を向かい直した。
サンディスタールを含めて50m級のサンディスタール・ヴァイカフリが複数体鎮座する。
5機編成の鶴翼の陣を取る集団が8個……明らかに自分を鶴翼に入れて包囲殲滅する気だ。
かつてとは違いサンディスタール・ヴァイカフリの力はアリシアにはそこまでの脅威にはならない。
だが、やはり時間を考えるとこの数は厄介だ。
ロア達は鶴翼の陣系で、時間差で”アサルト”を使用、目の前から消えた。
アリシアは身構えて敵の気配を探る。
高次元存在となった事でロアの気配は今なら分かる。
1機目のロアが背後からアリシアに右手の爪を突き立てる。
アリシアもすぐに振り返り反撃しようとしたその時、サンディスタール・ヴァイカフリのコックピット目掛けて何かが勢いよく突撃、コックピットを貫いた。
サンディスタール・ヴァイカフリは糸が切れたように自壊を始め、霞の様に巨体が消えていく。
その出来事をアリシアは見逃すはずはない……と言うより現実を疑った。
「嘘……なんであなたが……だって……」
死んでいたはず……肉体どころか魂すら死んでいた。
微かに生きていたかもしれないが、もう幾ばくも無い余命間近で息を吹き返す余地などない者がそこに立っていた。
「あの時は失敗したからな。ここで挽回しないと死んでも死にきれないさ」
その相変わらずの陽気で社交的な雰囲気は健在で妙に仕事に責任感のあるところも健在だった。
その彼の背後からサンディスタール・ヴァイカフリと報復と言わんばかりに尻尾を鞭のように振り回し、コックピットを狙う。
「逃げて!」と言う彼女の言葉に彼は不敵な笑みを浮かべ、一切振り向くこともせず、振り翳された鞭を一瞥もせず、持っていた”素槍”を円を描くように回し、ガードする。
それでも追撃する攻撃を見事な槍で捌く。
その後、彼は敵をようやく一瞥、コックピット目掛けて”ネェルアサルト”で不規則な動きをみせながらサンディスタール・ヴァイカフリのコックピットを抉ってみせた。
サンディスタール・ヴァイカフリは糸が切れ、また霞のように消えていく。
(強い)
アリシアは素直にそう思った。
彼はあの時よりも断然、強くなって帰ってきている。
しかも、よく見るとネクシレイターとしての神性が上がり、それは最早、“神”と定義しても差し支えないレベルに達していた。
「遅くなったが、ネクシル8。滝川・正樹。現隊復帰する!」
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