女神の裁き
アリシアは戦場を駆ける。
ヘルビーストは既に市街地にも侵攻を開始していた。
アリシアの目標は民達の避難が完了するまでポータルから民の間、周辺に敵を近づけさせない事だ。
アリシアは市街地にいる狼型のヘルビーストに左手で斬撃を与え、”来の蒼陽”を振る動作を活かし、左に旋回、自機に回転をかけ、的確に周辺にいるヘルビーストに右手のCZ BREN15アサルトライフルで頭部を狙う。
ヘルビースト達は実体が保てず、消えていく。
ヘルビーストの弱点は基本的に頭部にある。
それは元人間だった時の名残が狼型には残されており、中枢が脳として頭にあるようだ。
尤も、亀型になると少し違うが、人間達は頭脳と言えば、頭と言う周知が同じでそのように対処している。
アリシアは続けてCZ BREN15アサルトライフルと”来の蒼陽”を”空間収納”に格納、M72 MkⅤ式上部取り付け式ロングマガジン型バズーカを両肩に懸架する様に両手に換装、狙いを定め、迫り来る敵に向け、連続で発射する。
魂を求めて真っ直ぐ向かうだけの敵に避けると言う概念はない。
AP相手ならバズーカを当てるのは技術が必要が、ヘルビーストなら関係ない。
敵は爆風に当てられ、多くの仲間を巻き込んで自壊する。
だが、それでもやはり物量が多く、波のように押し寄せてくる。
アリシアは両手のM72 MkⅤ式上部取り付け式ロングマガジン型バズーカを即座に”空間収納”に格納、切り替え、両腕にM61バルカン砲を参考にAP用に再設計された30mm弾式M248ガトリング砲を両腕に装備する。
そして、その場に跳躍、視界を確保するとトリガーを引いた。
狼型のヘルビーストは無数の弾丸に貫かれ、自壊していく。
だが、後方から地面を揺らしながら迫る3匹の亀型のヘルビーストがいた。
その亀の甲羅から流れ出るように狼型が溢れ出ており、その様はまるで黒い川の様だ。
更にそれは空にも向けられており、まるで巨大なカラスの様な鳥が市街地に向け、迫っていた。
「あのタイプは初めてね……」
アリシアも長く地獄で戦って来たが、あのカラス型は見た事がなかった。
恐らく、この世界は地獄に比べれば次元圧が低い分、事象の自由度が高くなり、この世界の作用で独自の進化を果たしたと見える。
「まぁ、やる事は変わらないか」
アリシアは対して取り乱すことも無く淡々と答えた。
アリシアはすぐさま更地になった周辺に”空間収納”を介して、10個以上のM120迫撃砲の派生であるM360 2590mm迫撃砲を展開した。
更に両腕の30mm弾式M248ガトリング砲に加え、左右のマウントハンガーにCZ BREN15アサルトライフルを懸架、マウントハンガーを展開、保持、CZ BREN15アサルトライフルで空を飛ぶカラス型に狙いをつけ、一斉射撃する。
アリシアはこれらの火器を制御しながら狙いをつける。
M360 2590mm迫撃砲が台座の上で回転、砲塔の角度を調整していく。
目標は3匹の亀型。
それぞれに3つの迫撃砲を割り当て、残りは狼型の制圧に当て、アリシアはトリガーを引いた。
M360 2590mm迫撃砲の弾道が曲線を描きながら、宙を舞い、亀型の元に向かう。
弾丸は精確に計算された様に甲羅の真上で勢いを失い、垂直落下するように甲羅の真上に激突、甲羅の上で爆発が起きると共に迫撃弾に仕込まれた地中貫通弾が甲羅を貫き、内部爆発を起こす。
亀型が悲鳴をあげ脚を崩し、動きを止める。
アリシアはその隙を逃さず、M360 2590mm迫撃砲の推力や角度など調整、空かさず発射する。
M360 2590mm迫撃砲は同じように甲羅の上で推力を失い、自由落下、貫通、内部組織の破壊と体内のヘルビースト諸共焼き払っていく。
亀型には頭脳が2つ存在する。
そのうちの1つが甲羅の中にあり、その頭脳が頭部よりも大きく一番大きな役割を担っている。
人間達は大方、頭の脳を破壊して、怯んだところをADで消し炭にしているだろう。
ただでさえ、ADの数が少ない中でその方法では非効率的だ。
いつか、戦況悪化を招き、人類が滅びるのは容易に想像出来る。
亀型にM360 2590mm迫撃砲を数発撃ち込むと亀型は息を引き取るように巨大が地面に落ち、地響きが辺りに響き渡る。
ヘルビーストの川は途絶え、亀と亀の内部にいた狼は自壊していく。
だが、亀から放たれた敵の数は膨大だった。
空から地上から黒い波が押し寄せるように迫る。
アリシアは両腕の30mm弾式M248ガトリング砲と左右マウントハンガーのCZ BREN15アサルトライフルに加え、左右のマウントハンガーに搭載されている主腕とマウントハンガーの武器受け渡しを仲介する副腕に”空間収納”を介して、Vz61サブマシンガンの系図を引くCZ スコーピオンEVO140サブマシンガンを両副腕に装備、展開して敵を一掃していく。
これだけの数なら適当に狙っても弾が当たるほどだ。
だが、アリシアは最大効率を重視して敵を制圧していく。
民に最も近く、かつ密度が高い地帯を優先的に狙う。
言うまでのも無いが、民以外の人間の事など考えていない。
民以外の人間達は民の被害が及ばない為の弾除けだ。
殺しはしないが生かしもしない。
「昔の自分なら……誰かを消費するような事はしなかったな……」
アリシアは感慨に耽る。
かつての自分なら自分の目的の為に他人を消費するような事をしなかった。
だが、時代が変わり過ぎた。
世界をここまで混沌に落とした人類に慈悲を与えても無駄にする。
神にとって人とは獰猛な獣のような存在だ。
対話など到底出来ない。
アリシアからすれば、人間もヘルビーストも同じだ。
なら、助けるよりは利用するまでだ。
「冷酷なのは分かっている。でも、それが神なの……神としての責務なの……救う時は救い裁く時は裁く。それがわたしの仕事なんだ」
アリシアは自分の気持ちを確認でもするように誰かに語るように呟く。
人間の事は嫌いだが、アリシアも決して人間の事を死ねばいいとは思っていない。
寧ろ、助けられるなら助けたかった。
手の差し伸べる事も出来る。
いや、既にしたのだ。
だが、差し伸べてもその想いを無駄にしたのは他でもない彼等だ。
無理に洗脳して隷属する事も出来なくはない。
だが、それではいつかサタンの影響で洗脳が解け、神に対する反逆の意志を芽生えさせる。
それでは駄目なのだ。
自分の意志でサタンを追い出そうとする誠意がなければいけない。
誠意さえあれば、例え足りない力でも神はそれを補い、その者を高める事が出来るからだ。
ただ、差し伸べられた手を取らないなら、神であっても助けたくても助けられない。
洗脳して延命する事は救いではないからだ。
それはその人の責任で生きようとする誠意がないと見做せる。
生きる誠意がない者が生きようとする誠意ある者の足を引っ張るなら、アリシアは例え、胸が張り裂ける想いをしようと民の為にどこまでも自分に冷酷になる。
そう決めたのだ。
例え、自分の胸が張り裂けようと彼女は目的の為なら貫徹する。
その為に自分の心を鋼として、戦闘マシンにしたのだから……アリシアは脇目も振らず、黙々と敵を始末していく。
地上の人間達がこちらを見て助けを求めるが、アリシアはそれを無視する。
彼等の怨念のような想いが、アリシアに刺さるが彼女は振り向かない。
その瞳は涙を浮かべる事はなく、暗く影を落とし、淡々と敵を撃墜していく。
敵を最大効率で倒す事に全ての労力を注ぐ。
その中で地上の人間達の阿鼻叫喚が聞こえるが、無視をする。
その中には子供もいたが、それでも無視をした。
子供であろうと例外はない。
子供の中にはオンライン対戦でチートコードを使い、対戦相手を負かした挙句、嘲笑して、侮辱して、蔑み、下卑な言葉使いで人を見下した者もいる。
それを悪いと諭しても受け入れないなら、その行いと言葉の責任はその子供が負う。
友達への悪口、暴言、不平不満……それら1つとっても許されない事だ。
幾らアリシアが子供好きであろうとその様な悪魔の品性を持つなら例外だ。
若くして災いに晒されるのは不憫に想うところはある。
だが、それも彼等が選んだ道でアリシアが彼等を顧みる事はもうない。
地獄で聴こえていた断末魔が徐々に消えていく。
アリシアの猛攻によりヘルビーストも陸、空が数を減らす。
その分、敵の密度が減り、空を自由に舞うカラスが目の前のアリシアをターゲットにして飛びかかったり、口から”ニードルガン”を放ってくる。
だが、アリシアの前方からの攻撃を全て見切り、弾幕を掻い潜る様にスラスターとネクシル・レイの肢体を細く動かす。
アリシアは無数の弾幕を掻い潜る。
基本的に攻撃する意志さえあれば、例え命が無いとされる人口知能ですら癖は存在しており、”間”を作り出す事も出来る。
ヘルビーストも同じだ。
カラス型の癖を1つ1つ見切った上で攻撃を避ければ、良いだけだ。
カラス型は野卑な動物地味た衝動で攻撃を仕掛けてくる。
アリシアは彼等の射線から一気に消え、真っ正面から向かってきたカラスの真横を取り、30mm弾式M248ガトリング砲で薙ぎ払う。
すると、天使から連絡が入り「任務が達成された」と言う連絡が入った。
アリシアがそれを受け撤退を開始しようとした時、丁度、地球統合軍の部隊が戦域に到着した。
地球統合軍は蒼いネクシルタイプの機体から重要参考人として指名手配されているアリシアだと思い、通信を寄越してきた。
その場を動けば、発砲すると言う趣旨だ。
だが、それに従うアリシアではない。
そもそも、距離がある為、彼等の兵装では届かない。
下手に撃てば、自分に直撃するのも自明だ。
指名手配の参考人を殺すような真似はそもそも、控える。
況して、アリシアを止めるには部隊の数があまりに少ない。
機体の構え方や武器の持ち方を見ても練度はそれほど高くもない。
アリシアは彼らに背を向け飛び立とうとした。
だが、その前に不意に地上の惨状を一瞥した。
辺りには血溜まりの沼が出来、無数の死体が横たわっていた。
まるでアリシアの15歳になった時のあの日の様な惨状だ。
あの日もまるで盗人が突然、現れた様に全てを奪われ、全てが可笑しくなった。
彼等も明日の予定やこれからの予定があったのだろう。
その日常が奪われる気持ちは分かる。
助けて欲しかっただろうが、自分はその気持ちに応える事は出来なかった。
その時の悲しみと絶望は痛いほど理解出来る。
それも自分の責任の内だ。
だから、アリシアは言葉を継ぐ。
「ごめんね」
アリシアは一瞥してからスラスターを噴かし、戦闘機形態で一気に戦域を離脱する。
その顔は暗く影を落とす。
決して涙は流さない。
彼等に慈悲を与える訳にはいかない。
だが、その心は泣いていた。
例え、嘲られ、虐げた相手だとしてもこれから彼等が行く世界の事を思うと不憫でならないからだ。
◇◇◇
こうして、アリシアは天使達と共に世界各地でゲリラ的にヘルビーストと戦い、民達を見事に単機で民達を見事に防衛してみせた。
その中には地球統合軍との間で諍いも起きたが、それら全てを退ける。
時が経つに連れ、世界は混沌としていく。
1ヶ月経った時には40億いた世界人口は20億近く減り、加え、”メリバの騎士”なる者が現れ、地球統合政府に宣戦布告する。
ただでさえ、混沌としている中で火に油を注ぐ様に人類同士の争いまで起きた。
それは争いを好むサンディスタールの糧となり、”金の鎖”の拘束力を弱めていく。
弱まった結果、SWNが地上に蔓延、更にヘルビーストを呼び込む。
完全に負のスパイラルに嵌っていた。
普通に考えれば、人類同士で争う余裕など無いはずなのだが、それでも人類同士の争いをやめられない時点で人間の生きようとする誠意を疑いたくもなる。
何せ、滅亡の瀬戸際なのに人類同士の争いに労力を割いているからだ。
力が無い、余裕がないからこそ、和合と連合を求めるモノなのだから、それをしないなら、誠意が無いと断言出来る。
この世界の行く末を見る第3者からはそう見えても仕方ない。
だが、これも人類が選んだ道だ。
多くの人間が望んだ人類の希望と言う奴だ。
最後まで固執して、それに拘ったのだ。
少なくとも、それとはなんの関係ない者達が巻き込まれる筋合いはない。
だから、アリシアは戦うのだ。
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