神を僭称する愚か者
それから2ヶ月の1日前 12月23日
アリシアは全ての民を救出した。
幸い誰1人として欠けていない。
最後のバビ地方の救出は2人の兵士に発覚した事以外、特に目立った出来事もなく終わった。
全ての民の救出の報せはルーの通信からも明らかだ。
これで地上には完全に裁かれる者しか残されていない。
そして、高次元生命体にとって3次元の地球とは刑務所のようなところだ。
その中に混じっていた救済可能な囚人を助けたのだから、地球は用済みだ。
現時点で地球の人口は10億人にまで激減した。
このまま放っておいても自滅するだけだが、人類は未だに人同士の争いをやめない。
争い自体は減ってはいるが、それは人口減少に伴うモノで比率的なパーセンテージでは何も変化していない。
彼等の争いもより苛烈になり、その影響でいつサンディスタールが復活してもおかしくない。
ならば、サンディスタール諸共地球を破壊するまでだ。
アリシアは天使達にある通達をした。
これより”オメガノア作戦”を行う。
それが地球と言う世界の余命宣告でもあった。
◇◇◇
オメガノアとは、ノアの洪水により裁かれた事に因んで人類最後の裁きとして行われる地球破壊計画だ。
サンディスタールは地球を依り代として、その意志はある場所に聖典により固定されるようになっている。
だが、元々あった場所は神の大罪の影響で別の場所に移動しており、どこにあるのか分からなかった。
だが、戦争前の下処理段階で得た情報や様々な調査により、その場所をアリシアはエシュロンファザーの中枢人工知能”ファザー”であると早い段階で見抜いていた。
ファザーの起こした戦争方針は明らかに人類のSWNを煽っている事と”ファザーファミリー”をネオスと呼ばれる新人類にした事は”英雄”と戦う中で情報を盗み判明している。
それに神術と対を為す魔術が使われているのはネクシレイターが見れば明らかだった事からそう結論づけた。
だが、”ファザー”の場所までは判明していなかった。
居場所の候補地は検討がついていた。
だが、それらの地帯の濃度の高いSWNにより”ファザー”の正確な居場所は判明出来なかった。
候補地を手当たり次第に襲撃する事もできたが、無闇に襲えば、周辺への被害も発生、余計にSWNを増産すると考えて、実行しなかった。
そこで考えられたのが天使候補者救出後に地球を破壊する技を使い、サンディスタール諸共殺すと言う手だった。
これなら例え、地球のどこにいようと地球に固定されているサンディスタールを滅ぼす事が出来るからだ。
その為にシオン戦艦のアタランテを最大出力で放ち、地球を破壊する。
それがオメガノアの概要だ。
尤も計画中のリカルド・ラインアイにより、”ファザー”の居場所が判明した事でアセアン決戦後に”ファザー”を破壊する計画も存在した。
その方がシオン戦艦のアタランテを使うよりも最小の労力で妨害されるリスクも少なかったからだ。
だが、アセアン決戦直後にサンディスタールが復活間近まで迫った為に確実に始末する為に”オメガノア”の発動が決定した。
アリシアの発令に伴い天使達を急いで準備、シオン戦艦に向かう。
シオン戦艦はあの戦いから強化改修を施し、オメガノアに対して想定された作戦の用途に合わせ、改良した。
アリシアの発令から僅か数秒もしない内にシオンは亜空間から地球の静止軌道上に現れ、アタランテの発射シーケンスに入った。
SWNの影響が宇宙にまで及んでいる影響でアタランテの発射はいつもよりも遅延していた。
だが、想定の範囲内だ。
それを踏まえて今、出陣したのだ。
地球破壊エネルギーに達するまでおおよそまる1日……正確には22時間30分だ。
アリシアの予測では”オメガノア”が発動しなくても今から24時間後に人類の余命は尽き、タイムリミット1時間前に一気に人類の数は減り、全滅する。
”オメガノア”はその破滅を単に30分早めただけに過ぎず、悔い改める事をしない因果が人間を滅ぼすのだ。
もし、悔い改めていれば聖典の概念拘束があろうと抜け出す事はできたが、これは全て人類の因果応報だ。
サンディスタールの復活が迫る中でSWNが増大、加速度的に地獄からヘルビーストが流れ込む。
その猛攻の前に12月25日を迎える直前には人類が滅亡する試算だ。
つまり、”オメガノア”を実行してもしなくても人類はどの道、滅びる。
どの道、滅びるならそれは”人類の自滅”ではなく”裁きによる滅亡”の方が良い。
何故なら、並行世界同士は繋がっており、隣の世界が”人類の自滅”と言う因果で滅びれば、その因果が隣の世界に流れる可能性もあり、それが”理不尽”にも繋がり、他の世界のサタン達に影響を与えるかも知れない。
だが、人類が不正と不法を働いた上で”裁きによる滅亡”なら、それは不当に対する裁きであり”理不尽”ではないので他の世界に因果が流れても決してSWNは生成されないので万が一、他の世界の”存在”以外のサタンが動いてもリスクヘッジできる。
もしかするとこの状況で”英雄”が残っているとしたら、「その1時間の間に”奇跡”を起こす」とか「希望の力で未来は変わる」とでも言うのだろうが、それはただの惑わしだ。
彼らの力は悪魔の力だ。
その”奇跡”も悪魔から生じたモノであり、人間が起こした訳ではない。
人間が起こしたと思い込んでいるだけであり、その様に考えたい人間の自尊心と高慢の罪によるモノだ。
悪魔は自分が滅ばされたくないが、故に付く方便に過ぎない。
それに地球の所有者は誰かと言えば、アリシアだ。
今、地球にいる人達は立ち退き勧告したにも関わらず、不法に滞在しているだけだ。
その上で死を選ぼうとそれはただの身勝手だ。
その身勝手で避難した民に危害が及ぶならそれは不法滞在者の責任だ。
当然、裁きを受けるのが同義だ。
それでも他人の所為にするなら、ただの責任の取れない子供の同じだ。
一切、理不尽な事はない。
尤も、それを仮に”英雄”に言っても理解はされないだろうが、彼らも所詮責任の負えない子供だったというだけの話だ。
アタランテの出力が上昇していき光の矢が機体前方に形成されていく。
やはり、SWNの影響下にある所為で光の収束率が悪いが、周辺や傍受した通信を確認したが、今のところ敵の妨害はなかったのでこのままなら順調に行く予定だ。
地球統合軍はこちらの存在に気づいておらず、”メリバの騎士”も気づいていない。
仮に地球から宇宙戦艦でこちらに向かっても35万km離れている。
どんなに頑張ったとしても片道10時間だ。
もしかすると宇宙統合軍が攻めてくる可能性もあるが現在、宇宙コロニーには天使達が派遣され、謎の敵として宇宙統合軍と対峙している。
無論、宇宙コロニー内の候補者は既に確保している。
人間相手に天使が負ける事はまずない。
天使も神術が使える上、量産化したネクシル・レイ・アークと言う純白と蒼、銀のトリコロールカラーの機体を多数配備した。
ネクシル・レイ・アークが神術の補助をする事で”英雄”3個大隊が襲っても倒されない性能を獲得している。
今のところ妨害される可能性の方が皆無だ。
だが、戦場とは赤子のようであり、何が起きるか分からない。
況して、相手がサンディスタールなら、なんらかのアクションを見せるはずだ。
そう、アリシアは確信していた。
そして、その予感は的中する。
「レーダーに感あり!巨大移動体急速接近!」
天使の報せで吉火が第一種戦闘配置を発令した。
この2ヶ月の間、工藤達に協力もあり、ネクストの戦闘データをフィードバックした事でネクストから多数のネクシル・レイ・アークに更新が進んでおり、量産、配備されている。
今まで空っぽ同然だった格納庫には多数のネクシル・レイ・アークが配備されていた。
今まではネクシレイターであるシン達だけで戦って来れたが、その彼らは今はいない。
正確には魂の死に極めて近い状態(絶望的に死にかけてる)にあり、戦う事が出来ない。
戦闘に前向きではなかった天使達も流石に危機感を抱いた為、多くの天使がネクシル・レイ・アークに登場する。
しかも、天使達は薄々、勘付いていた。
今から来る敵は強大だと。
アリシアは不安や慚愧の念などを堪えながら隊長として、多数の天使達と共に何があっても良いように今回は”戦神の蒼剣具”を実体化させ、装備したアーマー形態のネクシレウスで出撃した。
ネクシル・レイ・アーク全機にもシン達の”銀陽の神輝具”の様なハイスペックアーマーではなく、誰でも汎用的に使えるデチューンアーマーになるが、外見は同じである”鉄陽の天輝具”を装備する様に促した。
「良いですか。訓練を受けたとは言え、あなた達は新兵です。多くの事は求めません。とにかく避ける事を優先して下さい」
ネクシレウスに搭乗したアリシアの指示に天使達は「「「はい!」」」と答えた。
実際、戦いに気に当てられ余計な行動を取られると邪魔になる可能性もある。
それにいきなり多くの事も求めても混乱するだけだ。
戦力が必要なのは事実だが、それは避けたいところだ。
本来ならアリシア単機で挑みたいが、相手が未知過ぎて強がりを言っている場合でもなかった。
それほどの状況だった。
「高速移動体接近!まもなく圏内!」
そして、彼女達は見た。
ケルビムⅢの何十倍もあろうかと言う巨大な要塞。
要塞はまるで地面を丸く抉ったように岩石や土が付着している。
その岩壁に無数のレーザー機銃に岩を土台にしたその上に城の様なモノが鎮座している。
城はコンクリートを材料に何かしらのガンメタリックパープルレッドの塗装が施された中世の城の様なデザインだった。
中央の城の登頂には金の杯を抱えた竜人の像が掘られていた。
明らかに戦場では場違いだ。
加えて、そのデザイン性は何処かで見覚えがあるものだ。
すると、オープンチャンネルで呼びかけがあった。
「ふふふ……この時を待っていたぞ」
不気味な笑みを浮かべた声でそれは語りかけて来た。
「何者なの?」
「ファザー」
その存在は自分を“ファザー”と名乗った。
それはエシュロンを管理する管理AIの名前であると同時にロア達を嗾けた張本人であり、サンディスタールと目される存在だ。
「ファザー……お前がファザーなのか!」
「そう!そして、またの名をサンディスタール!我こそ真の超越者!お前達駒を操る神だ!」
”ファザー”の登場が更に戦乱を混沌とさせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます