まだ見ぬ世界NEVER・END・STORY

落ちぶれた英雄

 禍々しい気が空間を支配する。

 ネクシレイターととっては耐え難い空間だが、これが超能力者などなら喜び心躍らせるだろう。

 人間における超能力とは、サタンから齎された力なのだから当然だ。




「お前達は望まない世界を作る」




 ロアの喉太な声が頭に響き渡る。

 死を感じさせる高密度なSWNに吐き気を催しそうだ。

 シンは意識をしっかりと保ち、気丈な態度で接する。




「それは永劫に続く破滅か?正義の味方が聞いて呆れるな。そんなモノを求めて一体何の価値がある?」




 シンはまるで彼の本質でも確かめる様な質問をする。




「永劫の戦いこそ、人類の望み、平和はただの準備期間に過ぎない。それこそ人間の営み。人間の人理という希望。我は生まれ変わった事で知った。これが我が本質、我が望み、我が希望であり人類の宿業であると……」




 ロアはまるで別人の様ににやけた。

 曲がりなりにも人類の平和を願っていた男が遂には平和を破棄したとも思える発言をするほど歪んでいた。




「要は怠惰になった悪党の戯言か……」




 シンは失望と呆れが混じった感情を浮かべ吐き捨てる。

 ロアは元々、歪んでいたが少なくとも表面的に平和を願っていた節はあった。

 本人もそれを本気で信じてはいた。

 そこだけは評価しても良かったが、今の彼からはそれすら消えていた。

 つまり、ただの悪党だ。




「あなたは人の叡智はいつか全てを乗り越えると言いながら結局、怠惰な道を選ぶんですね」




 アリシアもまた、ロアの発言に失望を感じていた。

「いつか、いつか」と言い訳し、明日を誇っていたロアの事は感心しなかったが、世界平和を求めていた事にはある程度、同意出来るところもあった。

 だが、今の彼は完全に腐り落ち、僅かに上等だった志すら失っていた。




「そのいつかが今、来ただけだ。人類の平和と言う名の準備期間を作り、新たな争いを作る布石。我は人類の希望を叶え人類が営み易い世界を作る。闘い、争い、奪い、獲得し、支配する。その先にこそ我等人類の望む未来があるのだ!」




 その言葉に流石のシンも怒りを露わにして”来の藍陰”を抜き放つ。




「そこまで落ちぶれたか!ツーベルト!今のお前は見るに耐えん。ここで引導を渡してやる!大人しくこのまま死ね!」




 最早、これ以上語る必要はない。

 シンは”空間収納”を介して、ラグナロクの技術とGG隊の技術により造られたオーディン使用していた鎧の上位互換である”銀陽の神輝具”と言う銀色の鎧をネクシルの装甲として実体化モードで換装した上で”疑似神化”を起動させた。

 前回、”疑似神化”を使った時からの神化系の神術も妨害されているので複数の妨害され易い神術や技を2つ以上同時に発動、神化系の神術の発動を容易にした。

 今回は”光子化”と「このまま死ね」と言う”神言術”更に量子同化現象を同時に使う事で”神化”系神術の発動を容易にした。

 いくら、サタンでも複数の強力な神術を一度に全ては妨害できないからだ。

 そして、この敵は”疑似神化”を使わねば勝てないと彼の直感が疼く。

 シン達も含めた他のネクシレイターも薄々勘づいているのかシンに呼応して全員が神化系の神術を起動させ、”銀陽の神輝具”に換装して、”疑似神化”を起動させる。





「超神化!戦神解放!」




 アリシアは”超神化”だけではなく”戦神の蒼剣具”を実体化モードに切り替え、搭載神術の効率を上昇させ、切り札とも言える”戦神解放”すら起動させる。

 これらの神術を発動したからには5分以内に決着をつけねばならない。

 5分間オーバースペックになる反面、時間が過ぎるとその反動で機体スペックが落ちるからだ。

 アリシアもシンの抱く危機感を理解出来た。

 この敵は早く始末しなければならないと直感が告げるのだ。

 そして、AP部隊の指揮権がギザスからアリシア移る。




「各機!動きを止めないで!常にネェルアサルトでの移動を心掛けて機動を取り各々の与えられた役割に順次なさい!」


「「「了解」」」




 各機は各々が得意とする戦闘スタイルで攻める事にした。

 リテラ、千鶴、ソロ、美香……そして、再出撃したネクスト隊は陣形を取りながら、敵に銃口を向ける。

 アリシア、フィオナ、シン、繭香、ウリエル・フテラ部隊……そして、再出撃した正樹が前に出て、敵に攻勢をかける。


 まずは牽制と前衛の支援の為にリテラ達がヴァイカフリに対して攻勢を仕掛ける。

 ヴァイカフリは巨体に見合わない俊敏さで即座に”アサルト”で砲撃を避ける。

 ”アサルト”を転移すれば、あとは気配を探れば良いのだが、ネクシレイター間である違和感が発生する。




「気配が……読み取れない!」




 リテラだけではない。

 リテラについでに気配に敏感な砲撃組の千鶴もソロも気配を察知出来ていなかった。

 今までのロアなら簡単に気配を探る事が出来た。

 だが、それが出来ないと言う事は今のロアは余程、高い次元にいると考えられた。

 ロアは”アサルト”で転移した瞬間、翼一面からレーザーを照射して来た。

 圧倒的なレーザーの弾幕がリテラ達を襲う。

 リテラ達は敵が現れた瞬間を狙い砲撃を加えるが、それよりも速く敵は消え……また、別の地点に現れレーザーを照射する。

 あまりの弾幕に自然とこちらの攻撃手数が減っていく。

 避けられない訳ではないが、避けることに集中する分、やはり手数が減ってしまう。

 アリシア達も接近戦を試み、ヴァイカフリと距離を詰める。

 ”アサルト”で逃げる敵を”ネェルアサルト”で追い回す。

 だが、ヴァイカフリから放たれるSWNの干渉が酷く、”ネェルアサルト”も通常出力が出せず、速さが足りずにいた。

 逆に敵の”アサルト”の出力は上がっており、以前のヴァイカフリに比べれば、再起動までのタイムラグが殆どなく安定した転移を可能としていた。

 加え、気配を探索出来ない程、高位の存在になっている。


 アリシアは辛うじてヴァイカフリの気配を探り、転移先のヴァイカフリを追う。

 他のメンバーは追うことが出来ないのでアリシアの後に付き従っていた。

 完全に後手に回っている。

 ヴァイカフリは砲撃部隊にはレーザーを放ち、アリシア達に対しては転移後にアリシア達の目の前に現れ、腕や脚による接近戦を仕掛ける。

 その度にアリシアが「来る!」と警ら、隊員達は回避に専念する。

 その直後にヴァイカフリが前後左右から攻めて来る。

 その度にアリシアが”来の蒼陽”の出力を上げ、WN粒子で形成した延長した刃でヴァイカフリを迎撃するが、ヴァイカフリはすぐに”アサルト”でその場を去る。

 流石のヴァイカフリもアリシアの攻撃には被弾を恐れていると見える。

 だが、このままでは埒が明かない。

 加えて、誰もがこのまま時間をかけていると不味いと直感していた。

 そこで繭香は考えた。




(アレをもう一度、再現出来れば……)




 繭香が考えたのはキラースと戦った時に偶発的に引き起こした”ネェルアサルト”を利用した時間遡行だ。

 時間遡行を行い、過去に敵のいた位置に致命的なダメージを与えれば、勝てるかも知れないと考えた。

 繭香は不安定な状態で”ネェルアサルト”の出力を上げる。

 それを見たアリシアが繭香の意図を読んだ。




「繭香!ダメ!やめなさい!」




 長年、過酷な激戦の中で生きたアリシアは繭香の行動が危険な行動だと即座に判断、声を張り上げる。

 だが、その声は繭香には届かない。

 サンディスタールにより通信が妨害されていたのだ。

 サタンもこの地上では神同様”奇跡”を見せる事は出来る。

 今まではアリシアの力があり、通信を妨害されなかったが、ロアを触媒として与え、サタンはそれが出来てしまうほど強大なのだ。


 アリシアは必死に声を張り上げ、繭香の名を呼ぶ。

 繭香にはアリシアの声が届いてはいない。

 繭香はそのまま再度、時間遡行を試みる。

 繭香は時間が速度と共に徐々に戻っていく。

 サタンが”アサルト”で過去に転移した場所と自分が戻る時間を合わせ、そこに目掛けて突貫する。




「よし!これなら!」




 だが、途端に妙な違和感を覚えた。

 体から寒気がする。

 ダイレクトスーツにより体温調節が成されている以上、そんな事は有り得ない筈だ。


 


「な、何この感覚……」




 繭香の体はまるで異物が入ったかのような感覚に襲われる。

 だが、気づいた時には遅い。

 事は一瞬だった。

 繭香は悪霊に呑まれた。


 そこには憎悪が渦巻いていた。

 無数の影の様な人型をした者が繭香目掛け、襲い来る。

 繭香は必死で逃げようとするが、身体は鎖で繋がれて逃げられない。

 無数の人型は剣を携え、繭香に迫る。

 繭香はその朧げな顔に心当たりがあった。




「お父さん……」




 それは実の父親の顔だった。

 その顔は繭香を激しく憎悪、邪悪な悪意を込めるように剣を突き立て、繭香を串刺しにする。


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