敗北
「■■■■■■■■■!!!」
声にもならない叫び声が木霊する。
だが、それ以上に剣を介して伝わる声が繭香を狂わせる。
何故、お前だけ助かる!
わたしは優秀だ。無能なお前が我が踏み台となれ!
お前が生きてわたしが死ぬなどあってはならん!
貴様も道連れだ!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!!
その感情が繭香の心を侵食、棘の様に刺さり、闇に引き込もうとする。
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
繭香の心の叫びが木霊、繭香は操縦もままならず、マンナは速度が落ち、海面に向け、落ちていく。
「いやぁぁ……いやぁぁ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
繭香は散乱し操縦するどころではなかった。
アリシアは吉火に緊急テレポートを指示する。
吉火は緊急テレポートを起動した。
しかし、さっきよりもSWNの干渉が強くギザスの時よりもテレポートが遅延していた。
それが次なる悲劇を生む。
遠方からヴァイカフリではない何者かが、落下するネクシル・マンナに向け、砲撃が行われたのだ。
思いがけない攻撃にネクシル・マンナは半壊、コックピット部は半壊する。
その直後、テレポートが起動、マンナだけが海面に落ちる。
「繭香の容態は!」
アリシアは声を張り上げ、繭香の容態を確認する。
「怪我をしている。かなり酷い。こちらも魂が不味い状況だ」
吉火からの報告にアリシアは「そう、わかった」とだけ答えた。
アリシアの顔に暗く影を落とし、唇を歪ませる。
悔しかった。
自分の目の前にいたのに助けられなかった。
自分にもっと力があれば、助けられたと言う後悔が過ぎる。
ヴァイカフリは危険な存在になっている。
繭香がZWNを使った事で魂という名のグラスに隙間が出来、その隙間にサタンのSWNが流れ込んだのだ。
この空間のSWNの純度は極めて高く、繭香が少し取り込んだだけで狂気に駆られるほどの威力だ。
人間はSWNに適応している為、人間や超能力者の類には寧ろ、気分が高揚する空間だが、ネクシレイターにとっては害にしかならない。
人間とネクシレイターは生物的な構造が違うのだ。
この空間での神術の使用は細心の注意を払うべきだったが、アリシアがしっかり注意喚起をしていればこうはならなかった。
そう考えるとしっかり伝えておけばと言う後悔と慚愧が沸く。
だが、迷っている暇はない。
敵はヴァイカフリだけではないようだからだ。
レーダーを端から見ると物凄い数の戦力がアセアン周辺に迫っている。
その数、地球統合軍の識別信号2000万はいた。
決戦規模と言えるほどの数であり、先ほどのネクシル・マンナへの攻撃は彼らによるものだ。
理由は分からないが、推測は出来た。
恐らく、3均衡同意の下でGG隊を殲滅しに来たのだ。
何が原因なのかサタンの妨害が酷いこの地帯では分からないがGG隊とは迫害され易い存在だ。
遅から早かれこうなっていた。
大方、自分達の都合の良い様に事実を曲解して襲っているのだろう。
ヒュームもビリオもアリシアが悔い改める機会を与えたが、現実的な事ばかりに目を持っていかれ過ぎた。
まさに元の木網だ。
悔い改めて救いを受けるチャンスを得ていたのにそれを無駄にしたのだから……その傾向は元々、あったが遂に超えてはならない一線を超えて更に一線を超えようとしている。
悪逆極まっている。
敵は戦域を囲む様にGG隊を包囲する。
恐らく、世界各地の基地から同時に侵攻しているのだろう。
APの戦闘機形態の巡航速度は平均的にマッハ10程度ある。
日本とアメリカを片道1時間で往き来するだけの速度がある。
世界各地の基地から出撃しても1〜2時間前に出撃すれば十分アセアンに辿り着ける。
幸いと言うべきかその中に極東方面から来る部隊はなかった。
恐らく、GG隊の直轄基地である事から既に基地を制圧されている可能性もある。
最悪、イギリスにいる子供達にも手を出されるかもしれない。
子供とは言え、彼らもネクシレイターだ。
“過越”の影響で簡単には殺されないだろうが、それでもあの小さな体で苦難を受けるとなると不安でならない。
アリシアの中では早く窮地を乗り越えて子供達も救いたいと言う気持ちに駆られる。
◇◇◇
一方、統合軍のAP部隊
AP部隊はGG隊と戦う異様な敵に目を向けていた。
「あのデカイ奴はなんだ?」
「なんか有機的だな」
「アレもGG隊の兵器なのか?」
敵対しているのだからGG隊の兵器という可能性は無いに等しいのだが、目の前の巨大兵器は彼等にとってそれだけ異形の存在でもあった。
「HQより各機へ。あの巨大兵器は友軍である。繰り返す。あの巨大兵器は友軍だ。識別信号を友軍として登録しろ」
HQの指示に多少困惑する部隊員達であったが、彼等は命令に従い、ヴァイカフリを友軍登録した。
「各機!再度、GG隊に向け砲撃を開始せよ。巨大兵器がGG隊の勢いを削ぐ。勢いが鈍った奴を優先的に狙え」
AP隊はGG隊に対して攻撃を開始した。
◇◇◇
アリシアはこの状況ですぐさま判断を下す。
「撤退します!各員最寄りのポータルに移動!」
アリシアのその言葉に全員が「「「了解」」」と返答した。
アリシア達の目的はあくまで”オメガノア”の完遂だ。
ここでサタンを撃滅出来るならしたいところが、このままでは事態が悪化するだけだ。
戦争とは損害覚悟でやるものだろうが、ネクシレイターを失う訳にはいかない。
この後の事を考えるとこれ以上の損害は出せなかった。
各機は後ろに下がりながら、射撃武器でヴァイカフリを牽制する。
牽制しながら最寄りのポータルのある島に移動し始めた。
幸い軽度なら”ネェルアサルト”が使用できる為最寄りの島に移動するのにさほどの時間はかからなかった。
島に着くと島の木に偽造したポータルが見えてきた。
アリシア達は加速、飛び込もうとした。
だが、その行く手を転移してきたヴァイカフリが阻む。
「どこまでも邪魔を!」
アリシア達はヴァイカフリに銃口を向け、発砲する。
だが、ヴァイカフリはその場から動こうとせず、仁王立ちして攻撃を受け続ける。
嫌な予感がした。
「各機!攻撃中止このまま強行突破します!」
アリシアは自身の神術である”神創造術”の派生である”複製術”を行使してポータルを複数個複製、各員はそこに飛び込もうとした。
だが、既に遅かった。
ヴァイカフリの身体から突如、紫の光が溢れ、激しい光と共に広く前方に放射するように放つ。
紫光が立ちはだかる壁の様にポータルに向かう彼らの行く手を阻む。
紫光の壁が徐々に彼等に迫る。
(嘘……これで終わり)
紫光の壁が走馬灯を見るようにゆっくりと迫ってくる。
足掻く体力も気力もまだある。
なのに、何かをする間も無く全てを奪われる。
それが悔しくてならない。
そして、申し訳なくて堪らない。
仲間を傷つけられ、一矢報いる事も出来ず、子供達を守る事も出来ない事が怖くて堪らなかった。
今の自分がサタンに対して歯が立たない。
舐めていた訳ではない。
強いて言うなら努力が足りず、覚悟も足りなかったのだ。
地球のSWNの濃度がさっきから急速に上がっているが、それは言い訳にはならない。
言い訳したところで勝敗は変わらない。
まるで何も出来ないままやられる無力な自分が蘇るようだった。
(もう……ダメ)
諦めかけていた時だ。
自分の前に出て盾になる機体があった。
それは正樹のネクシル・シュッツヘルだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます