宇宙で戦う者1
アセアンと戦闘開始の数日前 木星圏
宇宙軍総司令官ノウマンの元に宙域を埋め尽くすほどのADがその巨大を震わす。
これらは既に木星から発進する地球に向けた増援と言う名の本隊だ。
既に制圧したラグランジュ点のL2から地球に向け、先行部隊が発進予定だ。
数日後にはアセアンと共に戦闘が開始され、それにほぼ同時に本隊が地球に到達する予定だ。
しかも、敵である地球統合軍はこの事に全く気づいていない様だ。
未だ妨害部隊の存在を確認出来ない。
そして、部隊の中央には通常のケルビムⅠの6倍の大きさのADケルビムⅢがおり、そこには最高司令官のノウマンがいた。
「ふむ。これだけの艦隊を展開していると言うのによもや気づかんとは地球人は馬鹿なのか?」
「我々から資源を搾取する獣の知性などその程度かと」
「だが、油断は出来ない。相手が下等生物の集まりとは言えあのイレギュラーは例外だ。奴らの動向はどうなっている?」
「最終報告では何やら極東基地が騒がしい様です。恐らく、アセアンとの戦闘を予期していると考えられます」
「ふん。無能軍隊の中では優秀な者だ。だが、どうやらこちらの事を気づく余裕すらなく阻む様子もない。この戦争は貰ったな」
地球圏への攻勢を止めるには今と言う機会は絶好のタイミングのはずだった。
だが、地球側からこれと言ったアクションはない。
寧ろ、殺してくれと言っているようなモノだ。
物量もそうだが、軍事的な判断能力的な面で見ても宇宙軍が負ける要素など皆無に等しかった。
だが、その考えはすぐに覆る事になる。
「レーザーに感あり!物凄い速度で接近する機体を確認!」
ノウマンはすぐに数を確認する。
「数は!」
「そ、それが」
「はっきり申せ!」
「1機です。しかしこの反応は!あ、蒼い閃光です!」
その場にいる誰もが凍りつく。
死神と恐れられる蒼い機体。
そのパイロットは各コロニーにGG団体なる組織を作り、活動していると聴いて弾圧などを行ったがその勢力が衰える事はなかった。
今や宇宙にもその死神の信奉者は多い。
多方面でその存在が宇宙軍にとって脅威になり始めていた。
「各員!戦闘配置!第1種戦闘態勢だ!急げ!」
余裕な態度であったノウマンもその名を聞いて、顔が険しくなる。
彼らが唯一警戒していた脅威。その頭目が目の前に現れた。
数々のADを葬った戦女神。
その実力は未知数だであり、十分に警戒が必要だった。
すると、彼らの目の前にまるで立ちはだかる様に蒼い機体が立ちはだかる。
蒼い流線型のライン。
神々しく神秘的で美しい装甲。
腕から脚までまるで刀剣を思わせるシルエット。
触れれば全てを切り裂かんとする威圧感を感じさせる。
装甲の美しさが刃の鋭敏さを感じさせる。
左手には既に刀身の太い大きな刀を装備、右手には見慣れない純白のH&K417アサルトライフルのようなアサルトライフルを構えている。
見間違える筈がない。
宇宙統合軍の戦慄させた蒼い閃光が目の前にいた。
誰もが息を呑み緊迫とする。
この相手は一体何を考えているのかまるでわからないからだ。
分かるのは無謀な戦いを仕掛けない相手という事だ。
つまりは1機で立ちはだかるなら1機で渡り合うだけの策を持っているとこれまでの調査とプロファインリングで理解している。
そんな敵の緊張を御構い無しにオープンチャンネルで呼びかける。
「……司令官を出せと言っていますが?」
「……繋げ、ただし準備はしておけ」
ノウマンは少し悩んだが応答する事にした。
それと同時に指でサインを送りながら、ADに格納されたAP部隊を展開した。
敵に悟られぬ様に光学迷彩や衛星の影に隠れ、止まっている敵に迫る。
会話と言えば聞こえは良いが要は時間稼ぎだ。
会話中に馬鹿正直に話すのは余程、自惚れた馬鹿だろう。
モニターに敵のパイロットの顔が映る。
その容姿を見てノウマン達は驚く。
まだ、あどけなさが何処と無く残る顔立ちに力強い眼差しを宿した蒼い眼の少女がいた。
少女の醸し出す歳不相応な気迫と力強い眼差しが見る者を惹きつける。
ポニーテールに束ねた蒼い髪も美しく整いなんとも言える美しさがあった。
だが、その中でもノウマンは直感していた。
(この女、目が狂っている)
ノウマンは彼女の異常さをすぐに見抜く。
彼女の目は通常の異常者の様な目ではない。
自分の意見を欲深く語るだけの無知な地球人とは違う。
真っ直ぐと前を見つめる様な力強さと清潔さを感じる。
だが、あまりにも真っ直ぐし過ぎている。
何の歪さも感じないほど異常な瞳だ。
力が強過ぎて微動だしない程真っ直ぐだ。
それでいて槍や剣の様に鋭い。
まるで大木そのものが剣になった様な女だ。
(一体この歳でどんな経験をすれば、そんな眼になる?)
そのように思わずにはいられなかった。
「宇宙統合軍に告げます。わたしは地球統合軍外部独立部隊GG隊のアリシア・アイ中将です。いますぐ撤退して下さい。撤退するならこちらは攻勢に出る真似はしません」
彼女は力強い重い言葉で語りかける。
なんとも言い難い覇気が彼らの心に重く伸し掛かる。
「宇宙統合軍のノウマン・ギルディットだ。そちらの要求は理解した。だが、承諾は出来んよ」
「どうしても聞いては貰えないですか?」
「地球統合政府は我々の要求を呑むことはない。君達が信頼に足る存在だと思うか?」
「なるほど、同義です。確かに地球統合政府は自らの欲の為なら他者を欺くでしょう。ですが、なればこそあなた達は今攻め込むべきではありません」
「なんだと?」
「もうすぐ地球統合政府は……いや、地球は滅亡します。彼らは自らの罪の業により自らの首を絞める。今、その火中に飛び込めばあなた達もただでは済まないでしょう」
確かに彼女はプロファイリング通りの人間だ。
何を考えているか分からない。
それではまるでノウマン達を救う為に警告して来た様ではないか……とそれも敵陣の前に立ちたった1人で伝えに来ている。
正常な人間とは思えない。
誠意を見せたところでそれで揺らぐほどノウマンは甘くはない。
「俄には信じられないな。証拠はあるのか?」
「ありますがあなた達が見てもこの場ですぐ判断出来るモノではありません」
「それは我々が決める。あるなら出して貰おう」
アリシアは「はい」と頷きデータを艦隊に送った。
ノウマンがそれを開くと莫大な情報量が次から次へと現れた。
「な、なんだこれは!データが多過ぎる」
「量子力学に基づいた科学的証明です。解析には7万年を要すでしょう」
「これでは判断出来んではないか!」
「最初にその様に言いました」
「さては貴様!適当な事を言って我々を惑わす気だな!やはり初めから罠だったという事か!」
「待って下さい!その様な事は!」
ノウマンは憤りに任せ、そのまま通信を切った。
「全艦に告げる!敵APを排除しろ!通常の敵とは思うな!化け物を相手取るつもりでいけ!」
それを合図に宙域に存在する全てのADがネクシレウスにロックオン、黒を基調とした宇宙迷彩をつけたワイバーンMkII宇宙戦特化仕様で構成されたAP隊もロックオンする。
戦場の敵意が全て彼女に注がれる。
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