聖母気取りの英雄との決闘
「やってくれるわね。まさか、あんなものまで用意していたなんて」
巨大兵器“アマテラス弐式”の主ユウキ・ユズ・ココは忌々しく敵の兵器を見つめる。
別世界の自分が作った決戦兵器を各種機能を改造、機能をアップグレードしている。
アマテラスと同様にネクシル・グローリーライフ譲りの機能も有している。
さっきの攻撃に耐えられたのもその能力により。多重バリアの強度を上げたからだ。
それでも武装の大半を失うとは思わなかった。
「これは想定外ね。亜光速で突貫するとかチートもいいところよ。でも、出来損ないのわたしのお陰でアマテラスは更に強化されているわ」
ユウキはまるで勝利を確信でもするように得意げに不敵に微笑んだ。
「RWNコンバータを起動。制御回路起動!」
ユウキの言葉に部下達は次々と操作していく。
部下の操作で制御回路と”オルタ回路”が起動した。
「このまま押し通る!」
それに対してウィーダルは”ウリエル・フテラ”を再び亜光速の域に達し、敵に突撃を仕掛ける。
前面にリフレクターを展開、まるで一陣の槍のように敵を迫る。
再び両者が激しくぶつかり合い、凄まじい熱と爆音が辺りに響く。
「ぬう!」
“ウリエル・フテラ”とアマテラスのバリアが擦れ、激しく干渉し合う中でにウィーダルはさっきと違う手応えを感じた。
敵の巨大兵器のバリアがこちらの攻撃を防いでいた。
バリアを食い破ろうにもあまりの硬さに貫通しない。
「馬鹿な!防いでいるだと!」
光速に近い質量を防ぐ事など地球の兵器には不可能だ。
“ウリエル・フテラ”の運動エネルギーは衝突により発生する熱エネルギーなどをリフレクター制御する事である程度指向性を持たせ、敵にぶつけている。
だが、どんなに劣悪な条件で最低値を見積もっても地球の3分の2を抉る威力がある。
目の前の敵兵器はそれを平然と止めているのだ。
だが、更に有り得ない事が起きる。
「艦長!敵の大型レーザーが!」
「何!」
”アマテラス弐式”は最初の“ウリエル・フテラ”の突貫で破壊された4つの腕の中に内蔵された大型レーザー発射口をいつの間にか失った4つの腕と共に修復され、4つの砲門を至近距離を発射しようとしていた。
「まず!緊張回避!」
“ウリエル・フテラ”は敵への突撃を中止してアマテラスにぶつけるように軌道を逸らす。
同時に高出力のレーザーが煌めきを増し光が放たれる。
光は“ウリエル・フテラ”の右側面を掠め、シオン戦艦目掛けて飛翔する。
「対ショック準備!」
吉火もこれは防げないと観念して全員にショックに備えるように促す。
リリー達は9時方向に展開し直す前にレーザーがリフレクターを貫通、シオン戦艦に直撃した。
レーザーの高出力で艦が揺れ、全員が揺れを堪えるように呻き、レーザーの光は徐々に止んだ。
「損害は!」
「幸い機関部などは無事ですが左舷リフレクターユニットに損害あり。リカバリーシステムは起動していますが、その間使用不可です」
「修復までの時間は?」
「3時間25分です」
「リカバリーシステムをオフにして余剰エネルギーをリフレクターに回すんだ。左舷側にAP部隊を集結させる」
吉火は失ったユニットのエネルギーとリカバリーシステムのエネルギーを他のユニットに回す。
左舷側のエネルギーを節約すれば、同時に右舷側のリフレクターが強固になる。
それで右舷からの攻撃を凌ぐには十分だ。
後は左舷側にAP部隊を集めたいが問題がある。
シオン戦艦が”イゾルデ”の攻勢で動けない事で場所を固定されている。
そうなるとあの巨大兵器にもう一度高出力レーザーを受ければ、左舷側は為すすべなく撃たれる。
APを盾にしたところであのレーザーに対しては意味がない。
況して、ウィーダルの最初のアタックから次のアタックまでのレーザーの発射間隔も短い。
今のこの策も正直、ほんの僅かな一時凌ぎに等しい。
この僅かな隙に次の手を打たねばならない。
吉火は考えを巡らせる。
だが、すぐに良い策を思いつかない。
分かってはいるが時間がそれを許さない。
正直、思いついても実行する暇すら無いほどの時間だ。
吉火の顔に次第に焦りが出る。
「滝川君。君は何を焦っている?」
その言葉に吉火はモニターを向く。
そこには不敵な笑みと余裕な顔を見せるウィーダルの姿があった。
なぜ、この状況で笑っているのか吉火には理解出来なかった。
ウィーダルもこの状況を理解しているはずだ。
時間の猶予など無いと言うのに彼は不敵に動揺する素振りもなく太々しく笑っていた。
「君の悪い癖だな。1人で全て、実行しようとする……元英雄の癖だ。それに固執するあまり気には肝心な事を忘れている」
「肝心な事?」
「時間の猶予はこのままではない。それはイゾルデ発射時点で君も予期した事だ。だから、ミッションパネルにイゾルデの撃破を入っていたはずだ」
ミッションパネルとは、シオン戦艦独自のシステムであり、”未来視並びに因果律演算により最適化戦略産出システム”とも呼ばれ、シオン内のコンピュータが戦場における勝利の為の最優先目的を明確化したシステム。
あくまで参考程度だが、その通り行えば、英雄相手でも高い水準で勝てるとされている。
「よく見た前、わたしはイゾルデの撃破を請け負っているはずだ」
ミッションパネルの項目は各部隊長が任意で受けられるようになっている。
主に指揮官の判断を優先するが、このシステムは指揮官の判断をより良くする為に自動的に最適化するシステムでもある。
項目を受けた者がいれば、どこの誰が受けたか明記される仕掛けになっている。
そこにはイゾルデ破壊の項目にウィーダルの名前があった。
「まぁ、そろそろ君の甥っ子が槍で串刺しにしているだろうさ。君はそれを合図に動けば良い」
◇◇◇
その頃、宇宙
正樹は静止軌道上にいた。
灰色のネクシルであるネクシル・シュッツヘルの”ネェルアサルト”なら月から地球まで1分もかからない。
宇宙空間にもSWNが満ちており、”アサルト”は使い難いが比較的にSWNの濃度は低く”ネェルアサルト”で快調に飛ばせる。
ウィーダルの指示で出撃、敵に気づかれぬ様に大気圏を離脱した。
敵に気づかれないように移動するのに時間を要したが、大気圏離脱から静止軌道までは一瞬の事だ。
正樹の目の前には地表に向けて鉄の豪雨を降らせる”イゾルデ”がいた。
「こちらネクシル8。対象を発見。これより破壊する」
正樹は”空間収納”から神術式近接戦用の”素槍”を取り出し、スラスター全開で大きく振り翳した。
「デェェヤァァ!」
勢いよく機体を加速させ、槍で振り抜き、”イゾルデ”を斬り裂いた。
イゾルデの正樹の一撃で一刀両断され、機能を停止させた。
「いっちょ上がり!さて、戻るか……うん?」
彼の目に蒼い輝きが目に入る。
まるで川の水の様にコックピットまで流れ出るそれは皇輝の煌めきを宿していた。
同時に正樹は自機のレーダーに不審な巨大物が映った。
その方角を向いてみるとすぐに正体がわかった。
「あ、アレは!」
そこには莫大な蒼い光とそこから逃れる様に地球圏に迫る巨大なケルビムがいた。
そのケルビムはケルビムⅡの更に3倍はあろうかと言う巨大が地球圏に迫っていた。
「なんてこった!まさか、あいつ取り逃したのか!」
正樹はあそこにいるであろう特定の誰かの事を気にする。
彼女が失敗するとは思えないが今、目の前に重度な危険物が地球に迫っていた。
その様子は地上からでも確認できた。
”イゾルデ”の脅威が無くなった地上ではその新たな脅威に空を仰ぐ。
「なんだ!」
「ん!アレはまさかケルビム!いや、それにしては……大きいぞ!」
吉火とウィーダルは空を覆う程の強大な敵を見つめる。
あまりに巨大でSFに出て来る宇宙人の円盤母艦を彷彿とさせるほどの大きさだった。
「おぉ!宇宙軍の増援が遂に到着したか!これで我らの勝利は……」
アセアンは歓喜に沸いた。
アレが宇宙軍の派遣した援軍に違いないと確信した。
しかも、ケルビムⅠの6倍近い大きさのケルビムであり、圧倒的なまでの力の象徴にこれで勝利できると彼らは確信した。
その時である。
宇宙から蒼い一閃が奔り、巨大ADを通り過ぎる。
次の瞬間、巨大ADが両断され、輪切りにされた。
「な……なぁぁぁぁ!」
司令官は絶句した。
今まさにあり得ない光景を見た。
高い強度を誇るADがまるでチーズでも切り裂くように両断されて堕ちていくのだ。
あまりに非現実的な事に空いた口が塞がらなかった。
「あぁ……見事に割ったな……」
「全く。目立つ事が嫌いな割にいつも、登場は派手だな」
吉火とウィーダルは最早、呆れるように呟いた。
こんな人外離れした事を仕出かした者に対してだ。
蒼い閃光は目にも止まらぬ速さに海面に落ちる。
だが、着水音などは起きず、まるで物理法則を無視した様に静かに海面に着地、そのままこちらに向かって来る。
「すいません。遅れました。ネクシル1。戦闘行動を継続します」
”来の蒼陽”を左手に構えた蒼い女神アリシア・アイがアセアンと”ファザーファミリー”に迫る。
その姿を見た者は畏怖を覚えずにはいられない。
味方からは”蒼い戦女神””蒼い閃光”と呼ばれ、敵からは”蒼い死神”とか”怪物”と恐れられる”化け物”がこの地に降臨した。
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