正義の英雄との決闘1

 別のシオン下部




「さて、アセアンやスカリーはシオンに任せるとしてだ。我々はこの敵をどう攻略する?」


「問題ないわ。あいつの癖は知り尽くしてる。それに今のあいつはチートが使えないなら勝てる見込みは十分よ」


「でも、油断はできない。あいつは狂っている」




 ソロ、千鶴、フィオナの目の前にはネクシル系列を技術を基に作られたブレイバーを踏襲した機体がいた。

 間違いなく天空寺・真音土だ。

 正義に固執した悪魔がそこにいた。




「貴様ならを倒し正義を貫く!」




 それに千鶴が反駁する。




「なにが正義よ!要は気に入らない奴をぶっ飛ばしてただけでしょう!」


「違う!俺は平和を脅かす悪を……」




 それにソロが補足する。




「正義でもない男が……よく口が回るな」


「なんだと!」




 更にフィオナが追撃する。




「アンタ、不正までした挙句、アリシアに敗北した。あの時、正義は負けた。それをアンタも同意した筈!今更、それを反故しようなんて、正義の味方以前に人間の面汚しもいい所よね」


「あれはあの女が不正を働いたんだ!」




 千鶴、ソロ、フィオナが事実を突きつけても真音土はそれを拒む。

 あの決闘で正義をかけた彼も自分が負けた事を未だに認めず、欲深く正義を語り続ける。

 真音土はあくまで事実を認めようとせず、感情のままに反論する。




「だとしても正義は必ず勝つと言ったのはアンタよ。都合が悪くなったらなんでも人の所為にするの?」


「そ、それは……」




 千鶴に図星を言われ、真音土の口が籠る。

 実際、そうだ。

「どんな困難も正義で打ち破る」と言っていたのは彼だ。

 それは今まで”英雄因子”のおかげで逆境を跳ね除けていただけで彼自身の力でもなんでもない。

 それがアリシアとの戦いで彼の本性が浮き彫りとなった……それだけの話だ。




「結局、アンタはその程度の男って事よ。正義に対する覚悟もその程度なのよ。アンタは自分の自己満足で正義をやっていただけ」


「う、うるさい!黙れ!」




 千鶴に不利な事を言われ動揺を隠せないまま、まるで本能的に口封じに奔るように右腕から構えたマクミラン TAC-50Mk40アンチマテリアルライフルを発砲した。

 3機とも散開、千鶴の指揮の下、作戦を開始した。




「ソロは砲撃支援!わたしは遊撃、フィオナはトンファーでヒット&アウェイ!」


「「了解」」




 ソロは給ベルト式ロケットランチャー”アイゼンMod2”を”空間収納”に格納、GAU-8 アヴェンジャーガトリング砲の派生であるGAU-120 アヴェンジャーガトリング砲を2丁取り出した。

 給ベルト式ロケットランチャー”アイゼンMod2”を使うには味方との距離があまりに近い為、爆風に巻き込まれるために換装した。

 ソロはブレイバーに狙いをつけ、GAU-120 アヴェンジャーガトリング砲を見舞った。

 ただのGAU-120 アヴェンジャーガトリング砲に見えるが中身は全くの別物だ。


 対英雄装備に加え、従来の物とは違い、炸薬には小型ビッグバンを使用している事から、実弾には高い貫通性が備わり、改良により圧倒的な連射性能がある。

 サタンの影響を受けた兵器はSWNの事象補正で装甲値が硬くなる。

「主人公補正で機体の装甲値が変わる」と言う冗談みたいな話は、実はSWNの影響により、装甲材の原子結合、分子間力が強化されているからだ。

 よって、”英雄”を相手にするとどうしても、通常よりも火力を上げざるを得ない。

 概念照準器により、敵以外にはダメージを与えないが、このGAU-120 アヴェンジャーガトリング砲の弾丸1発でも地球を破壊して余りある運動エネルギーを保有している。

 当然、衝撃波対策等もしているからこそ、地上で使っても問題ないとも言える。

 

 ソロは集中的に脚を狙う。

 APにとって脚とは、運動性を維持する上で必要な機関だ。

 脚部に各スラスターを内蔵する事もあり、機動性とも無縁ではない。

 実弾は弾丸に神術を施す事に長けている関係上、破壊性能に秀でているが、それだけではこの戦いに勝てない。


 ”英雄”を確実に殺すには高いWNの干渉能力があった方が確実に殺せる。

 それはフィオナもしくは、千鶴の方が向いている。

 ソロはあくまで敵の戦闘能力を削る事に徹する。


 ソロは常に移動しながら狙いをつけられない様にGAU-120 アヴェンジャーガトリング砲を見舞う。

 魔改造されたGAU-120 アヴェンジャーガトリング砲は通常の3倍速で回転、唸り、豪雨の様な弾幕が脚部目掛けて、飛んでいく。

 着弾する度に激しい水柱を立て、ブレイバーの視界を遮る。




「くそ!あの機体!なんて火力だ。水柱で視界が!」




 真音土はソロの火力を警戒、マクミラン TAC-50Mk40アンチマテリアルライフルをソロに向ける。

 しかし、アリシアと同じ戦闘能力を有する彼は真音土の微かな仕草を見切り、射線から消える。

 加えて、真音土の狙いはあの戦い以来、大した技量は無い。

 ”英雄”は”英雄因子”の補正でパイロットとしての能力を拡張、最小の労力で高い技量を付ける。


 特に真音土はその傾向が非常に強かった。

 ネオスという因子を受け、能力は以前よりも増した。

 だが、因子を封じられれば、安定した力が発揮出来ず、元々、本人由来の能力値は低さが露呈する。


 今、この場には3人のネクシレイターがいる。

 アリシアとの1対1の試合とは違い、複数のネクシレイターの干渉が真音土の因子を急速に封じ込めている。


 完全に封じられれば真音土の”由来能力”(英雄因子や超能力など特異能力を全体能力値から差し引いた能力)はソロ以下になる。


 対してネクシレイターには”英雄因子”に相当する因子が無い為、”由来能力”が非常に高い。

 悪魔に属する能力は先天的に付加される場合や偶発的に手に入るが、ネクシレイターの能力は完全に後天的能力であり、一部の例外を除いて自分の明確な目標意識を持った努力でしか能力を獲得出来ない。

 その点、真音土の”由来能力”は悪魔による補正から明確な目標を立てなくても容易に”総合能力”(由来能力や特異的能力を踏まえた全ての能力値を足した能力)がエースパイロットに成れていた為、目標意識がネクシレイターよりも希薄だ。


 ソロの牽制により動きが鈍ったところを千鶴達が追撃する。

 千鶴は170mm電磁投射砲”トニトルス”を”空間収納”に仕舞い、片手持ちの神光術式レーザーライフル”レンブラント”を右手に取り出し、千鶴はなんの躊躇いもなくブレイバーのコックピット周りを狙う。




「当たれ!」




 神光術式レーザーライフル”レンブラント”の軌跡は真音土のコックピットを掠める。

 真音土とて決して無能では無い。

 千鶴の事を知り尽くしている故に避ける事は出来る。

 千鶴の狙いがあまりにも精確で何発かコックピットを掠め、赤く照かる。

 だが、敵は千鶴達だけでは無い。




「せい!」




 真音土の目の前には”アサルト”で転移してきたフィオナがいた。

 真音土は即座に横に逸れた。

 フィオナのトンファー”セルファー”の後継であり、改良した”セルファー ナーハファルガー”が装甲を掠める。

 だが、命中した箇所が湾曲したと同時にコックピット内部に衝撃が奔る。

 コックピット内部にまで奔る衝撃が真音土の体を激しく揺らし、目眩を起こさせる。

 なんとか辛うじて意識を保つが、転移を連発して四方八方から迫るフィオナを前に翻弄される。




「こうなれば!」




 真音土は反撃に転じて、左マウントハンガーに格納したM35MkⅤ式上部取り付け式マガジン型バズーカを左腕に取り出す。

 M20MkⅧ式上部取り付け式マガジン型バズーカよりも口径が大きく、総弾数が少ないタイプのバズーカだ。

 真音土は狙いを定め、千鶴を倒し易いと判断して、連射して狙う。

 だが、ロケット弾の弾速は遅い。


 不意打ちでも無い限り、千鶴に当たる事は無い。

 優れた動体視力や感覚を持つネクシレイターにはキャッチボールの速度にしか見えない。

 海面で激しい爆音が鳴り響く。

 千鶴とソロは悠々とそれを避けてみせる。




「そこだ!」




 真音土は手早くM35MkⅤ式上部取り付け式マガジン型バズーカの照準を上に向ける。

 その射線にはシオン戦艦があった。

 無論、シオン戦艦に攻撃しても並みの攻撃は反射される。

 シオン戦艦がベクトルを真逆に反射する都合上弾頭が反射され、真音土側に向かう可能性がある。




「何をする気!」




 千鶴は即座に警戒心を持ったが、実際それは杞憂だった。

 彼は何もしないからだ。

 そう思わせたかっただけだ。

 彼は即座に狙いを変え、自分の目の前の海面に目掛け、発砲した。

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