正義の英雄との決闘2

「目眩し!小癪な!フィオナ!」


「了解!」




 カメラから消えたとしてもレーダーから逃げられるわけではない。

 高位の高次元存在ほど低次元存在には探知され難い。

 だが、真音土はお世辞にもフィオナ達と比べれば、次元が高いとは言えない。

 上手く気配を隠したとしてもすぐに発覚しまう。

 フィオナはネクシレイターとしての探知能力を使い、視界から消えた真音土を探し当てる。




「そこ!」




“アサルト”を使い、背後に回り込み、トンファーを振り抜く。

 プロボクサーの様なストレートから放たれるトンファーがブレイバーの背後からコックピット目掛けて飛ぶ。

 だが、その瞬間ブレイバーはすぐに反転、目線がこちらと合う。

 その時、一瞬異様な気配を感じたと同時にフィオナの右ストレートで放たれたトンファーを持つ右手をブレイバーの左手が受け止めた。




「な!」




 殴った手応えに何か異様さがあった。

 即座に距離を取ろうとしたが、ブレイバーの左手がフィオナのゼデクの右手を離さない。

 物凄い膂力で掴んでくる。




「なに!これ!」




 明らかに機体スペックがさっきと違う。

 エレバンのネクシルは旧ネクシルタイプ。

 つまりはアクセル社の技術を盗んだ模倣品だ。

 シオン戦艦を作る際に再設計したネクシルとは全ての面で性能差がある。

 膂力面でもネクストに使われる”オンアクチュエーター”よりも遥かに高度なモノをネクシルには採用している。


 膂力で拮抗する事はまず、あり得ない。

 もし考えられるとしたら高いWNの干渉で事象に干渉して膂力を上げている可能性だ。

 だが、真音土にそれだけの能力は無い。

 そんな事を考えているとブレイバーの胸部が光始めた。




「まずっ!」


「ギィィガァァァブラスタァァァ!」




 ブレイバーの胸部から光が煌めいた。

 フィオナは即座にスラスターを動かし、上を飛ぶ。

 握られた手を軸にする様に即応的に機体を上に避ける。

 その瞬間、圧倒的な熱量が煌めき、胸部から迸る。

 あまりの熱量に周囲の海水が蒸発、上向きに放たれた光線はシオン目掛けて、飛んでいく。

 しかし、シオンはそれを反射、そのままブレイバーに戻ってくるが、”ギガブラスター”の火力は直進上に2倍の熱量を帯び、反射され、戻ってくる。

 あまりの熱量にゼデクの各部が異常を来し始め、装甲が剥がれかける。

 その熱量はコックピット内にも届き、フィオナを熱く熱する。




「くう!熱い!」




 ダイレクトスーツで体温調節しているとは言え、限度のある暑さだ。

 ネクシレイターの”過越”による適応能力ならなんとかなる範囲ではある。

 だが、流石にあの熱量に体を焼かれたら流石のフィオナでも不味い。




「アサルト!」




 フィオナは即座に”アサルト”を起動させ、ブレイバーから無理矢理離れた。

 一旦、千鶴達の元に転移した。




「はぁ……はぁ……」




 急激な暑さが体力を奪う。

 ただの熱ならネクシレイターは宇宙空間の高温にも適応できるが、今の熱は明らかに自然発生的な熱ではなかった。

 高いSWNの干渉による熱だ。


 体やダイレクトスーツ……そして空間にも熱が籠り、流石に汗も酷い。

 ダイレクトスーツは体電流を受容する関係上、汗を掻くと感度が下がる。

 一度出た汗の塩分が機体の操作に誤作動を生む。

 尤も、シオン系のダイレクトスーツは魂と量子的な接続をする事で機体を操作しているので、従来の体電流受容型は補助に過ぎないが、フィオナ達レベルになると操縦の緻密さの関係からダイレクトスーツの伝達効率的には補助であっても致命なところがある。




「ちょっと!大丈夫!」


「生命に支障はないわ……でも、汗掻いたわね」




 そうは言っているが、千鶴からすれば、フィオナは無理をしているようにも見える。

 幸い、今は敵の攻勢も酷くはない。

 今ならフィオナを下げる余裕はある。

 千鶴はすぐに判断を下す。




「……今すぐ帰還して」


「このくらいなら!」


「備えられるうちに備えるのも仕事よ。行きなさい」




 千鶴の真剣みを帯びた冷静な言葉にフィオナは「わかった」と答えた。

 隊長が彼女である以上、逆らう事は出来なかった。




「ネクシル3。一時、帰投します」




 フィオナはシオン戦艦の開かれたハッチから中に入って行った。

 すぐさまコックピットから出る。

 熱の籠ったコックピットから開放感と涼しさのあるシオン内の風に当たる。

 整備に当たる天使達がコックピットや各部の点検を行い……その間、フィオナは体の熱を抜くのも兼ねて冷水のシャワーで汗を流す。

 彼女の引き締まった体からは冷水とは言え、蒸気が出るほどだった。

 流石に暑さで苦しかったのか「はぁ……はぁ……」と息を立てながら、身体を目一杯洗う。

 激しい呼吸音に彼女の割れた腹筋が躍動する。


 そんな中で不意にさっきの事を思い出す。

 彼女の放った右ストレートのトンファーは真音土に受け止められた。

 ただ、単純に殴ったわけではない。

 気配を消し、反撃不能な意識の隙を読み取り、コックピットに放ったのだ。


 そもそも、ガードされる事も可笑しい。

 それに受け止められた時、異様な気配を感じた。

 禍々しい力を感じた。

 ネクシレイターにとっては毒となる様な力を感じた。

 アレは危険だ。




「気をつけて2人とも」




 その声はシャワールームに響き渡る。

 それに肉声で聞き取る者は誰もいない。

 だが、その声は確かに彼らに届く。




 ◇◇◇




“ギガ・ブラスター”の熱量で海面が蒸発、辺りが煙で包まれる。

 レーダー上、敵は同じ位置にずっと佇んでいる。

 逆に不気味さを感じる。

 それにさっきのフィオナのストレートに対するブレイバーの挙動に違和感を禁じ得ない。

 不用意な攻撃も避けるべきだろう。


 水蒸気が徐々に晴れていき、そのシルエットを確認した。

 そこには異形の怪物がいた。

 歪んでいたコックピットも元の原型に戻っている。


 ブレイバーの原型を留めているが、装甲は赤紫色の宝石の様に変わり、頭には1本の角が生え、胸には金の盃のエンブレムが刻印されている。

 その姿、赤紫の竜人を思わせ、その姿に聞き覚えがあった。




「アレがサタン化か。禍々しい力だ」




 ソロはサタン化したブレイバーに哀れに思いながら、冷遇的な感想を述べる。





「この暖かい希望に満ちた思いを禍々しいだと!やはり、貴様なら悪だ!」




 それに千鶴の怒りが迸る。




「なんとでもほざけ。例え、強大な力を持とうとわたし達はアンタを倒す!」


「正義は必ず勝つ!」


「違う。勝った者が正義になるだけよ。世の中の都合の良い正義だけどね!」




 互いの陣営は武器を構えた。

 ネクシレイターは人を惑わす思想も嫌う。

 正義という高慢を掲げた真音土に慈悲はない。

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