怠惰な英雄との決闘
ヴァイカフリはまずはシン目掛けて跳躍した。
シンは鋭く感じ取り、魂の空間収納から右手に”来の藍陰”を装備した。
『来ます!』
テリスの合図と同時にヴァイカフリが鋭利な爪を思わせる右手を大振りに構えていた。
シンは”来の藍陰”で右手の軌道逸らせようと右手の振り翳したタイミングに合わせて刀で逸らせ様とした。
だが、突如ヴァイカフリの横から赤い大剣が勢いよく飛んで来た。
ヴァイカフリはそれに気づき、すぐに真横に逃れた。
しかし、反応が少し遅れ、ヴァイカフリ右腕に軽く斬られ、飛んで来た大剣はまるで吸い寄せられるように持ち主の右手に戻った。
「おっと!誰が1対1で挑むと言った」
右手に大剣、左手にエイリアンピストルを持つネクシル・グレーアが立ちはだかる。
「おい!アンタにはアセアンとスカリーの対処を任せた筈だぞ!」
「ああ、それか。シオンアタッカーの坊主に預けた」
「はぁ!?」
シンはギザスの言葉に耳を疑う。
正気とは思えない。
元々、この部隊に正気は無いが……アセアン相手ならオリジンでもなんとかなるだろう。
だが、そこにスカリーが加われば、話は別だ。
かの敵には確実にサタンの影響が含まれており、ネクシレイターなら見れば分かる。
あれはオリジン1人で倒せる相手ではない。
「お前の想いは分かっている」
「ならば何故だ!」
曲がりなりにも弟の事が兄として気になり不安になる。
シンにしてみれば、オリジンはアリシア並に純真だ。
アリシア並に戦いと言うモノが向いていない無垢な少年なのだ。
だから、彼が敵意に晒されると言うのが、どうにも受け入れ難かった。
「だが、足止めくらいは出来るだろう。あいつだって見た目は弱そうだが中々、肝が据わった男だぞ。ここはあいつを信じようぜ。それにヴァイカフリを1人で駆逐する方が危険だ。あいつが危険なのはお前も知ってるだろ?なら、速攻で片付けて弟助けようぜ!」
どうやら、ギザスはオリジンの自分が思う以上に強い男と見ているようだ。
確かに自分が過保護なのかも知れないと思えて来た。
シンはギザスの意図を理解した。
確かにスカリーは危険な存在だ。
オリジンやシオンのメンバーでは手に余る。
だが、それ以上にロアは危険だ。
彼の一挙手一投足が世界の在り方を左右する。
彼の選択が後の世に大きな影響を与えるのは事実だ。
それが滅びを加速させる事もあれば、滅びを数万年単位で遅延させる事もある。
いずれにせよ……その影響はサタンの力を増強、多くの人間を地獄に落とす選択になる。
ならば、オリジン達にスカリーを足止めさせている間に集中攻撃で殲滅するしかない。
「了解した。なら、さっさと殲滅するぞ!」
「おう!」
シンは”来の藍陰”を構え直し、ギザスは赤い大剣を構え直す。
「今こそ、高慢な神を打倒し世界に平和を齎す!」
「高慢はお前だ!」
「その通りだ。リストラハゲ!」
「リ!リストラハゲだと!」
ロアはギザスの思いがけない侮辱的な言葉に困惑する。
だが、ギザスはそれに歯牙にもかけず、ロアを袋叩きにする。
「お前はガイアフォース脱走したんだからクビ同然だろうが!なら、リストラハゲじゃねーか!」
「俺はハゲてない!」
「知るか!そんな事!心の中は草木一本生えていないハゲ同然だろうが!」
ギザスはネクシル グレーアのスラスターを噴かせながら、エイリアンピストルを左手に発砲した。
このエイリアンピストルは、当然の如くただのハンドガンではなく、GG隊の改造を受けており、標準装備として、概念照準器が盛り込まれている。
今回はヴァイカフリとパイロットに概念を絞っている。
ヴァイカフリに命中すれば当然、被弾する。
だが、コックピットに命中すれば、ヴァイカフリよりも中にいるパイロットを撃ち殺す様に設定されている。
APにとってパイロットはコアだ。
サタン化するにしても維持するにしても触媒であるパイロットがいないなら意味がない。
そして、ネクシレイターである誰かがロアを殺せば、ロアは死後地獄に叩き落される様になっている。
前回も前々回もアリシアによって何度も殺害されたが、妨害もあり生き残っている。
だが、それも対策済み。
概念照準器には英雄に対してネクシレイターの意志に関係なく無理やり地獄に叩き落す細工を仕込んでいる。
本来、ネクシレイターの殺害は選択式であり、死後の行き先を選べるが、それに指向性を持たせる事で高い強制力で確実に対象を殺害、地獄に落とす。
ネクシレイターの使う剣から銃全ての武器には対英雄用の対策として標準装備されている。
ギザスは積極的にコックピットを狙う。
どの攻撃も銃口を向けているのに敵意を一切感じない。
今までの戦いでロアは殺気を感じたら射線から消え、反撃するのが基本的な戦闘スタイルだった。
それがネオスとしての能力を十分に活かした戦い方だったからだ。
だが、ギザスは違う。
彼には殺気も何もない。
殺気を一切出さないが、故に行動を読み取れない。
初めて邂逅した時には手も足も出なかったが、それは今も同じだ。
人智を超えた能力と
慢心するから敵も人智を超えた力を持つと対処できない。
ロアは直撃寸前でギザスの弾丸を避けていたが、それは圧倒的な機体スペックで強引に避けているに過ぎない。
ネクシル グレーアとヴァイカフリでは機体スペックの差は大きいが、ギザスとロアの技量差も大きい。
ロアは殺気が読み取れない為に機体の推進器を強引に唸らせ、圧倒的に機動力で避けているだけだ。
ギザスから見れば速さはあるが、無駄の多い動きをしている。
ヴァイカフリの様な莫大出力かつ永久機関式の機体で無ければ、既に機体が止まっている。
要は機体性能に助けられている。
「どうした!英雄!テメーの世界を救う覚悟はそんなもんか!」
ギザスは相手を煽りながら、右手の赤い大剣をマウントハンガーに戻し”空間収納”を介して格納、右腰のハードポイントからエイリアンピストルを召喚して、即座に右手に装備した。
ギザスの早打ちがマシンガンのような弾幕を作り、かつそれが精確無比にコックピットを狙う。
「ち!」
ロアは形勢不利と判断した。
”アサルト”で離脱する事も考えたが、”オルタ回路”の機能が安定しない。
それはそうだ。
シオン戦艦の近くにいれば、ZWNの影響が非常に大きい。
SWNを動力とする”オルタ回路”とは相性が真逆と言えるほど相性が悪い。
ロアは一度シオンから離れようとした。
シオンの外に出れば、”イゾルデ”の攻撃範囲に入れる。
”イゾルデ”は友軍識別機能でヴァイカフリを襲う事はない。
”イゾルデ”の猛攻の中で流石のGG隊もシオン外には出られない。
ロアはそう考え回避しながら勢いよく後方に後退した。
だが、ギザスは粗暴ではあるが、馬鹿ではない。
ロアの行動予測など最初から出来ている。
なんの為にシンと分隊を組んだと思っていると言ってやりたい。
「うぉぉぉぉぉ!」
ロアの後退を予期していた様に真横から”来の藍陰”を構えたシンが迫る。
しかも、既に目の前にいた。
シンはロアの予測進路上で待ち構え、ロアの接近に合わせ、”アサルト”を起動、その後、”ネェルアサルト”で至近からロアに飛び込む。
ZWN系の”アサルト”はサタンの影響が強い地球や各惑星では1回の戦闘で使用できるのは1回だが、例外はある。
ZWNが濃い地帯でなら無制限で使える。
そう例えば、シオンの真下とかだ。
シオンの近く限定では転移戦術の強みは活かし難いが、逆に言えば、圏内ならどこからでも攻撃出来る。
シンの”アサルト”からの”ネェルアサルト”の複合攻撃を前に剣先がヴァイカフリに迫る。
ヴァイカフリは獣染みた反応でオルタ回路式”ネェルアサルト”で一気に距離を取る。
だが、出力が安定しない事で長い距離を移動できず、すぐに止まる。
おまけにZWN圏内ではSWNの消費が激しい。
無論、逆も然りだ。
ロアには一気に疲労が溜まる。
おまけに致命傷は避けられたが気づけば、右腕は既に無くなっていた。
シンはロアが”ネェルアサルト”を使う直前、人間離れした剣技で高速で4回ロアを切り付けた。
その内、3太刀は掠めたが、1太刀は右腕を切り裂いた。
かつて、アリシアがロアに生身で挑んだ時の剣技の模倣だ。
数回の剣戟が恰も、同時に見える剣技……『雲鷹』だ。
それをシンなりに見極め、習得した。
「くそ……まさかここまで……」
「お前の世界に対する覚悟がその程度だったという事だ。当然の結果だ」
「よもや、アリシアでなければ、自分には勝てないとでも思ったか?それが高慢だと言ってるんだよ」
シンは負傷したヴァイカフリを更に追撃する。
高慢とはネクシレイターが最も憎むものだ。
希望と言う高慢を掲げ、ロアに慈悲はない。
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