宣戦布告

「スカリー!わたしを含めた僚機のワイヤー並びに機体に纏まり付いてる変な塗料を落としなさい!」




 キラースは多少、大雑把な命令を下す。

 スカリーはこちらを振り向き、リビフリーダと僚機のヴァイカフリとブレイバーを見つめる。

 センサーで何かの特殊塗料と機体がワイヤーに拘束されている事を認識した。

 スカリーは「変な塗料」と言う漠然とした抽象的な言葉を理解した様だ。


 スカリーから伸びた触手がワイヤーに絡まり、それを伝い機体に巻き付いた。

 すると、青緑色の光の粒が機体を包む。

 それに伴いワイヤーと先端にあった魚雷の原型が消えていき、エラー音を消えた。

 触手は脈打つ様にワイヤーを吸収、魚雷も巻き込みスカリーに取り込まれる。




「機体が……動く!」


「これで転移も可能となった」


「感謝するぞ!ミダレ!」


「わたしはキラースよ!」


「とにかく、一気にシオンに向かうぞ!」


「了解!スカリー!アンタもシオンに向かいなさい!攻撃可能なら攻撃してわたし達の援護を!間違ってもアセアンには攻撃しないようにね!」




 スカリーは振り向いた首を前方に向き直し、キラースに「了解」と書かれたメッセージを送る。




「へえ~返答するだけの知性はあるんだ。まぁ良いわ。とにかくよろしく!」




 キラース達はもう一度転移をした。

 



「みんな!奴らがここに転移して……うわぁ!」




 シオンが大きく揺れ、オリジンが驚く。

 遠方からスカリーがレーザーを照射している。

 シオンのリフレクター越しに戦艦が揺れる。

 リフレクターにより跳ね返されたレーザーは真っ直ぐスカリーに向かう。


 だが、スカリーは自分に直撃する前にその体の形状を曲げ、レーザーを擦り抜ける。

 そのまま2発目のレーザーを照射。

 今度はシオンの下部にいるAP部隊に照準を合わせる。

 シオンは手早くリフレクターで防ぎ、レーザーを反射する。

 しかし、スカリーは形状を変え、また擦り抜ける。




「反射を予測して回避してる……でも、それよりも……」




 オリジンは苦々しい顔を浮かべる。

 それは吉火もメラグも同じだ。

 特にロアはサタン化する事の出来る厄介な相手だ。

 その戦闘能力はネクシレウスに迫る物がある。

 そして、戦域にいるネクシレイターが異様な気配を察知する。

 ”過越”を受けた存在は多かれ少なかれ、この違和感に気づく。




「既にサタン化してくるか!」




 吉火のその言葉に答えるようにシオン前面に3機の機影が現れた。

 先頭に立つ1機を見て、皆が畏怖する。




「あれが……サンディスタール」


「聞いてはいたけど、何よりこの気色悪い気配!」




 サタン化を初めて見た繭香や千鶴をはじめとするメンバーはその異様な違和感に気分の悪さを覚える。




「前よりも力を増している……なんと悍ましい」




 メラグの言う通り皆が異様な気配に吐気を催しそうだ。

 ヴァイカフリからはこれまでにない紫色の力場が溢れ出ていた。

 かつて、戦った時は常に力場など出てはいなかった。

 それを常時発動するだけの力が溢れているという事だ。




「GG隊……今日こそお前達のエゴを止めさせて……」




「止めさせてもらうぞ」そう言いかけたところでシンのスピアが飛翔、先端からレーザーを発射して、先制攻撃を仕掛ける。




「なぁ!」




 またしても、口上を垂れる前に先制攻撃をされる。




「喋るな。下衆。お前の口上なんざ聞く気はない!」




 シンは怒り気味な口調でロアに物申す。

 正直、汚い言葉を吐き散らすロアはシンにとっては聴く価値すらない糞のような言葉だ。

 偽善と欺瞞に満ちた言葉などネクシレイターには害悪でしかない。




「わかり合う気が無いのか!」


「そもそも、お前はわかり合う気がないだろう!」




 ギザスがロアの本質を的確に抉る。




「人の善意を無視する者は一生悔やむ事になるぞ!」




 すると、今度はリテラが”返答”と言わんばかりにヴァイカフリのコックピットを狙撃、着弾した。




「お前が言えた口か!」




 普通なら今のリテラの一撃は一撃必殺だが、ヴァイカフリのコックピットは硬い。

 加えて、”英雄因子”で補正でより更に硬い。

 元々、倒せたら運が良い程度に放った一撃ではあるのでこれが正常とも言える。




「お前達!オレ達は多くの人類の意志を受けている。その決定に背くのが悪とは思わないのか!」


「大多数の人間が同意したからと言って、それが正しい事とは別問題です」




 繭香もいつになく強気な口調で真音土に物申す。

 実際問題、人間が気にいる方法で物事を解決して、それが根本的な解決になるとは限らない。

 時として人間に受け入れられない方法が正しい事もある。

 アニメなどを含めて人間的な方法こそ希望に溢れていると先入観で刷り込まれているが現実問題そんな事は全然ない。


 かつて、アラスカを国費で買った事で政治家としての立場を追われた男がいた。

 その時は人間的なやり方ではなかったが、後世になってそこから石油や金が大量に見つかったと分かるとそれが正しかったと誰にとっても周知になった。


 ネクシレイターのやり方がまさにそれだ。

 だからこそ、誰かに理解されようとは思わない。

 そもそも、無理なのだ。

 己の分を弁えず、この世の名声と繁栄にばかり目を止め、人類史が永遠に続くと思い上がった……無知で愚かな人間には……。




「違う!人は平和と正義を愛する!その願いはきっと間違っていないんだ!」


「そうだ。人の叡智ならいつか全てを乗り越えみせる!」




「いつか、いつか」と明日を誇るロアに対してフィオナと千鶴が厳しい言葉を投げ掛ける。




「なら、全ての人間に叡智を授けたらどうなの!そんな悠長に構えてるからアンタ達、正義はアリシアに負けるのよ!」


「そうよ。アンタ達に脆い正義なんてどうでも良いわ!」




 それに対して、真音土が反駁する。




「人の望む正義は必ず勝つ!それを最後まで信じられないお前達が無力で愚かなんだ!」




 真音土はこの期に及んでも自分の掲げる正義が正しいと自惚れる。

 この男はそう言う風に作られているとしてもやはり、醜い。

 愛の無い貪欲のままに無責任な言葉を吐き散らかす彼にネクシレイターは嫌悪する。




「ならば、教えてやる!正義は確かに必ず勝つが、オレ達に勝てないと言う事を!」




 シンは宣言した。

 これ以上語るだけ無意味と悟る。

 話はどこまでも並行線だ。

 この者達が互いに交わる事は2度とない。

 全ての人間とわかり合うことは出来ない。

 仮に意識を共有したとしても人の中にある高慢さと貪欲が相互理解を押し潰す。

 この場において、事の善悪は些細な事だ。

 ただ只管に潰し合う理しかなく火蓋は既に落とされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る