ロード・オブ・スカリー

 GG隊からすれば、ロア達の考え方が完全に狂っているのだから人の事は言えない。

 何せ、”オルタ回路”を使う度に次元災害のリスクを上げているのだから、狂っている彼らに言われる筋合いはない。

 寧ろ、人類は戦争に勝つ為なら戦術レベルで核兵器を使う事があった。


 21世紀初頭では劣化ウラニウム弾頭を使ったほどだ。

 作戦上の勝利の為なら核を使う事を辞さなかったのは人間も同じだ。

 GG隊も同じ事をしただけだ。


 寧ろ、環境配慮や周辺被害まで考慮していた時点で善良的だ。

 だが、それをロアに話したところで理解はされないだろう。

 彼らは自分達の自己中心的な正義感が自身達を完全正義と勘違いさせているだから……。




「でも、これで終わりと思わないでよ」




 オリジンは既に次の手を打っていた。

 ソルの余韻が立ち込める中、オリジンは対ネクシル用亜光速垂直魚雷”シャーク”を撃ち込んでいた。

 ロア達はソルに気を取られ、残存した対AP用のAAMが迫っている事に慌てる。

 だが、その隙を逃すオリジンではない。


 高慢な人間の思考は高慢な事しかしない。

 どれだけ戦術、戦略を巡らせても必ずそこに帰結する。

 高慢な人間の行動パターンは決まっている。

 どれだけ油断しないようにしても高慢である以上、必ず隙がある。


 それを踏まえ、戦術パターンを構築する事などオリジンには造作もない。

 再び、アラートが鳴り響いた。

 今度は海中からの魚雷と分かり、すぐに後方に下がる。

 しかし、直後、コックピット面に被弾が奔り、機体が酷く揺れた

 魚雷が命中した訳ではない。

 だが、辺りに砲撃をしたと思われる艦影もAPの影もない。




「まさか!この距離から当ててきたのか!」




 真音土はそう判断した。

 彼らは目の前の魚雷、ミサイルに気を取られ、油断しないつもりで油断した。

 超遠距離射撃が出来るスナイパーがいるわけがないと慢心したのだ。

 緑色のネクシル……リテラ機に自分達を狙われていた事に今更気付く。

 機体が被弾で動きが鈍った隙に魚雷は一気に距離を詰め、ロア達に直撃する。

 激しい水柱が立ち上がる。

 だが、爆発はさっきよりも小さい。




「ダメージは少ない様だが……!」




 ロアはコントロールの違和感を覚える。


 動かない。


 ダイレクトスーツ越しに伝わる感触が機体が動かないと知らせる。

 寧ろ、海底に引きずり込まれる感覚がした。

 ロアは隣の僚機を確認して、何が起きたか理解した。

 複数のワイヤーがキラースと真音土の機体に絡みつき、海面に沈んでいる魚雷がスクリューとスラスターを噴かせながら、海面に引きずり込もうとしていた。




「これは!」




 ロア達は今、自分達が非常に不味い状況だった。

 APは海中での活動を想定して設計されていない。

 万が一沈んだなら、戦闘終了後に回収部隊に回収されるか海面を自力で移動して陸地に着くくらいしかない。

 無論、沈んだ場合の対策として機体各部にエアバルーンをつける手もあるが、APの設計上浮力を得るだけの空気をAPに詰め込む余裕は無い。


 装備している方が少数だ。

 無論、ネクシルタイプとて例外ではない。

 確かにネクシルシリーズは高性能で多少、意図的に潜水しても浮上可能だ。

 しかし、海に引きずり込まれたら戦線復帰はほぼ不可能だ。


 ヴァイカフリはサタンの憑依させるサタン化を使えば、本来は何とかできる。

 しかし、”オルタ回路”の機能はジャミングによりエラー状態の為、引きずり込まれたら助からない。

 3機は棒立ちになりながら、スラスターを全力で上に噴かせ、海面に引きずり込まれない様にする。

 少しでも左右に機体を移動させたなら、スラスターの噴出ベクトルが分散され、一気に引きずり込まれる。


 彼らは精確に機体をコントロールするが、棒立ちになった彼らをオリジンは容赦しない。

 シオン内からミサイルを発射、大量の対AP用のAAMと光速飛行型AAミサイル”アエトス”がロア達目掛けて飛んでいく。


 だが、彼らは動く事が出来ない。

 動けば、海中に引き込まれる。

 だが、動かなくてもミサイルの餌食……反撃しようにもワイヤーが絡まり、ライフルすら構えられない。


 幾ら”英雄因子”の補正があろうと限界はある。

 このまま、ミサイルを受け続けたなら、撃墜もあり得る。

 そこにユウキから通信が入った。




「キラース!ロード・オブ・スカリーを使いなさい!ミサイルの盾にするの!」




 キラースは即座にシステムを起動させた。

 そして、海面に勢い良く、丸い球体を落とした。

 球体は勢い良く飛び出し、海面に激突した。

 球体は青緑色の粒子が一気に拡散して、溢れ出る。

 すると、海底がまるで生きているかの様に蠢く。




「これでチェックメイト!」




 オリジンは勝利を確信した。

 シオンの下部にいるシオン隊はロア達の介入がないお陰でなんとか持ち直している。

 ”イゾルデ”の弾幕は止まないが、AD艦隊は千鶴の170mm電磁投射砲”トニトルス”を警戒して距離を取り、ミサイルで支援するだけだ。

 残りのアセアンのAP艦隊は”アトミックフュージョンジャマー”があるだけで基本スペックが圧倒的に上回るネクシルシリーズに押し負けて来た。


 この戦争後は不確定要素である”英雄”達を始末すれば、チェックかけたも同然だ。

 ”イゾルデ”とADの縮退圧キャノンなどに注意すれば、勝てない戦ではない。

 オリジンの放ったミサイルはロア達に着弾した。


 水柱が上がり辺りが見えない。

 だが、レーダーでは反応を確認出来る。

 オリジンはレーダーを確認した。

 だが、そこには3機とも反応があった。




「馬鹿な!それにこの反応は!」




 3機以外にも3機の前方に大きな物体が現れていた。

 水飛沫が治まり、そのシルエットが見えて来た。




「ア、アレは!」




 彼は知っていた。

 アリシアと記憶を共有している事で知っている。

 あの存在と酷似した存在がかつて世界の全てを食い尽くした。

 最終的に地球そのものを食い尽くし、宇宙に旅立った化け物。

 その蝶を思わせる頭と翼、蛇の胴体と尻尾忘れもしない。




鱗粉の王ロードオブスカリー……」




 それがかつて、どこかの世界を滅ぼしたナノマシン兵器の名前だ。

 



 ◇◇◇




 数日前




「ナノマシン兵器?あの玉が?」




 ユウキの返答にキラースは疑問符が尽きない。

 格納庫APを見下ろしながら、整備班により機体に搭載されたロード・オブ・スカリーの頭脳と本体のあまりの凡庸なピンクの丸形に目を疑う。

 それと並行して機体の改修作業をする整備士達の声が木霊する。


 今のリビフリーダはかつてアセアンを襲ったリビフリーダと一目で分からない程変わっていた。

 両頭部レーダーブレードは巨大化、スラスターも大型化している。

 加えて、姿勢制御用のスラスターも増設している。

 これならただのネクシルシリーズの派生型としてアセアンと襲ったAPではないとアセアンに介入した際の正当な理由にできる偽装兼改修である。




「その中には優秀な人工知能が搭載されている。かなり好戦的な人工知能だから一度起動すると制御は出来るけど、スカリー状態からは不可逆になる。スカリーは破壊されるまで存在し続ける」


「それを制御出来るのは”英雄因子”を受け取ったわたしが最適なのよね。仮に暴走したらどうするの?例の世界では、その禁忌の兵器を止める為に禁忌の兵器使ったせいで、スカリーが生まれたんでしょう?わたしも巻き込まれるのはゴメンよ」


「安心しなさい。その世界の連中は脳筋馬鹿だっただけよ。禁忌の兵器を止めるには禁忌の兵器をぶつけるしかないくらいしか考えられない連中とは違うわ」




 ユウキは手元のデバイスを操作して別の装置を見せた。




「これは?」


GHPMギガハイパワーマイクロウェーブ


「ギガって言うと高出力なHPMって事?」

 

「えぇ、これだけの出力があれば、戦域に存在する全てのナノマシンに過電流を与え、自身の発する熱で自壊させられるわ。いわば、完全殺菌ね」


「それだけの出力でAPは大丈夫なの?」


「安心してブラックボックスの許容範囲よ。APに効果はないわ。GHPM起動時、スカリーのブラックボックスは機能停止する様になってるからスカリーはそれで機能停止するわ」


「ふーん、なら、安心ね。使う時はどうするの?」


「そうね。固体状態の物体の上に落とすのが良いわね。特に岩石とかならスカリーのナノマシン自己増殖にはうってつけよ」


「なるほど、なら何処かの島に予め設置して時限式で起動させるのもありね」


「それよりも海底に落とした方が効果的ね。海底に沈殿した砂とかにはレアメタルが含まれてる。加えて、海にも僅かながらレアメタルが溶けてるからナノマシンの素材としては宝庫。島に置くよりは遥かに効率的わ」


「へぇ~。まぁやばくなったら、落としてやるわよ」




 まさか、その数日後に宣言した事がそのまま実行されるとは思いもよらなかった。





 ◇◇◇




「まさか、もう使う事になるとは思わなかったわ」




 キラースは往々しく佇む巨大な姿を眺める。

 実際、どれほどの力があるかさっぱり分からない。

 ちゃんと指示通りに動くのかも不安だ。




「でも、この力!わたしの物にしてみせる!」




 キラースは胸に強く手を当てて決断して、最初の指示を出す。

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