オリジンの采配

 幸いなのか敵はシオンには”イゾルデ”を撃たなかった。

 恐らく、シオンにもリフレクターが積まれていることを知られている為だ。

 敵はその辺の対策を打てなかったと見える。

 ただ、GG隊を足止めする為にシオン周辺に豪雨の様に弾丸を降り落とす。

 これで少なくともAP隊の動きを阻害する事はできる。




「クソ!余計なモノを!」




 ギザスは忌々し気に天を見つめる。

 ”イゾルデ”1つでGG隊の勢いが削がれる。

 さっきまでの怒涛の攻撃で敵全体の2割を削ぐ事が出来たが、残りの8割の棒立ち同然のGG隊に迫る。

 GG隊は陣を取り砲撃戦を仕掛ける。

 下手に接近戦を仕掛けると”イゾルデ”の餌食になりかねない。


 ”ネェルアサルト”で移動し続ければ当たらないが、サタンの影響下にあるこの世界では持続時間に限界がある。

 ”アサルト”を使って一気に宇宙に上がる手もあるが、”ネェルアサルト”以上にサタンの影響を受け易いので安定した起動は1戦闘で1度きりだ。

 出来れば、これは最後の手段として残しておきたい。




「如何でしょう?我がPMCが保有する最新兵器イゾルデの威力は?」


「かなりの威力ではないか!あの鬼神の様なGG隊を黙らせるとは!」


「お気に召したのなら更に追加の兵員を用意出来ますが、どうでしょうか?」


「取引ということか?」


「まさか、我々は実戦データの取得が目的です。それを提供してくれたのなら既に取引は為されている。これはサービス内の事です。ただあなたの承諾が必要なだけです。司令官殿」




 司令官は満足した様な笑みを浮かべる。

 さっきまでユウキの事を訝しんでいたが、そんな事はもう過去の話になりつつあった。

 ペイント社の介入で怒涛の勢いだったGG隊を黙らせる事が出来た。

 今のところ死傷者は認められていないが部隊の損害は大きい。

 この戦いで分かった。

 悔しいがアセアンにGG隊を倒す決定打が欠ける。

 既に部隊の2割と大型AD1機と小型AD5機を失っている。




「良いだろう。そのサービスとやらを受けようではないか!」


「ありがとうございます。では、少々お待ち下さい。すぐにこちらの優秀な兵士を出向かせます」




 ユウキは通信を切り、別の回線を開いた。




「良い今回の目的はGG隊の壊滅およびネクシレイターのサンプルを回収する事よ。最悪、死体でも構わないけど生け捕りでお願い。特にネクシルシリーズに乗っている奴らは優先対象よ」




 ユウキは通信越しに3人にお願いという名の命令を下す。

 それに真音土とロアが確認する。




「だが、あくまで可能ならの話だ」


「捕獲不可能と判断したら撃墜するがよろしいか?」




 2人は顔に憎悪を浮かべながら問うた。

 彼らに鹵獲しようとする気は全くなく、殺す気でいた。

 ユウキもそれは了承している。

 寧ろ、そのくらいしないと敵を捕獲出来ないであると言う事は容易に想像できる。




「構わないわ。キラースもそれで良いかしら?」


「えぇ、わたしはどっちでも構わないわ。アセアンを滅ぼす必要がないならGG隊滅ぼして世界を変えるまでよ。わたしの想いだけじゃなくわたしの力も示して変えてみせるわ!」




 4人がそれぞれの思惑でGG隊に迫る。




 ある者は存続。


 ある者は復讐。


 ある者は栄光。


 ある者は自由。




 それぞれのエゴがGG隊に迫る。

 どれも自己的な貪欲であり、醜い。

 自分の絶対と思い込み賢いと思い上がり、その判断を基にして人を裁く。

 彼らの高慢さの現れでもあった。




 ◇◇◇




 メラグがレーダーの異常を感知、報告する。




「レーダーに感あり。これは……英雄です!数は4」




 GG隊の前に4機の機影が見えた。

 ”イゾルデ”の弾丸の雨の中真っ直ぐとこちらに向かう機影があった。

 ”英雄”だ。

 神理に背き人理を守るサタンの代行者。

 サタンの奇跡を代行、人々を希望や未来という言葉で惑わす偽善者集団だ。




「見つけたぞ!世界の悪。GG隊!」


「お前達のエゴをここで……」




 真音土とロアはお決まりの様に口上を垂れようとした。

 だが、それを遮るように海面から突如、ブレイバーとネクシル ヴァイカフリの足元から魚雷が飛来した。

 魚雷は水柱を立てロア達の言葉を遮る。




「馬鹿かテメら!獲物を前に口上なんざ垂れてるんじゃねーよ。テメーらのヒーロー自慢聴いてるほどこっちは暇じゃねーんだ。シオンアタッカー。構わん。奴らの口を塞げ」


「うん。わかった」




 シオンの艦橋のシオンに装備された武器管制を統括するオリジンは2つ返信で対ネクシル用亜光速魚雷”オルカ”を問答無用で発射した。

 迫り来る数多の魚雷が彼らの口を塞ぐ。

 避けきれないと判断した彼らはロアのネクシル ヴァイカフリを模倣して作った”アサルト”を利用して一気にシオンまで跳躍しようとした。

 オルタ回路式の”アサルト”はサタンの力を利用している。

 地球がサタンの影響下にある以上、真逆のWN形質を利用するネクシルシリーズの”量子回路”は高出力な反面、安定性が落ち、エネルギーロスが大きくなる。


 ”アサルト”を使う点で言えば、”ファザーファミリー”のネクシルは無制限で”アサルト”が使える。

 逆にシオン系のネクシルはエネルギーロスを抑える為、”ネェルアサルト”を使うしかない。

 ロア達はすぐさま空間転移をしようとした。




「君達、僕達を舐めすぎだ」




 オリジンは今度は光速飛行型AAミサイル”アエトス”をロア達に向けて放つ。

 ネクシルの”ネェルアサルト”の技術と作るのにかなり労する稀少な”量子回路”で制御、尚且つ、概念照準器をも盛り込んだシオンの中でも大変希少なミサイルがロア達目掛けて飛ぶ。

 一度ロックオンされると撃墜されるまでどこまでも追い回す高い追尾性を持ち、飛行中は空間に満ちるWNをWNコンバーターで無限に推進力に変換、加速する。

 一気に亜光速まで加速したミサイルはロア達の入った転移ゲートに入り込んだ。

 ロア達は転移を終え場所を確認しようとしたその時、背後から激しい爆音が鳴り響き機体を揺らす。

 機体に被弾アラートが鳴る。




「何が起きたの!」


「機体ステータス!……は異常無いな」


「おい!ここはどこだ!」




 ロアが場所を確認するとそこはシオンとは全く違う場所にいた。

 戦域には違いないがいるのはアセアン軍の中央部だ。

 光速飛行型AAミサイル”アエトス”の内部にあったジャマーで座標を変えられたのだ。




「何がどうなって……」




 すると、アラートが鳴り響く。

 複数のミサイルがこちらに迫って来る音だった。

 光速飛行型AAミサイル”アエトス”ではない対AP用のAAMが、あまりの数に避け切れないと確信する。

 すぐに”アサルト”を起動させ戦域を移ろうとした。

 しかし、”アサルト”の起動にエラー音が鳴り響く。

 光速飛行型AAミサイル”アエトス”に搭載されていたWNを吸収する塗料で散布され、それが彼らの機体に付着、”アサルト”を使用する為のSWNを吸収する事でエネルギー不足になり、”アサルト”が妨害されたのだ。




「転移出来ない!」


「迎撃だ!弾幕を貼れ!」




 ロア達と近くにいるアセアン軍は飛来するミサイル群を迎撃する。

 無数の対AP用のAAMと光速飛行型AAミサイル”アエトス”は飛び交う弾丸に撃ち落とされていく。

 ロア達の機体火力に加え、アセアンの火力が加わり、ミサイルは徐々に減っていく。




「よし!これなら!」




 ロア達はなんとかこの場を凌げると確信した。

 だが、オリジンはそれが甘いと一喝する。




「だから、舐めすぎて言ってるだろう。ジャミング用の塗料を付けられた時点で君達に勝機はない」




 光速飛行型AAミサイル”アエトス”の中には目に見えない塗料が再び、散布されていた。

 今度はSWNに反応、拮抗するようにZWNを大気中から搔き集める。

 この塗料が剥がれない限り、幾ら”アサルト”を使おうと出力が安定せず、エラーが発生する。

 先ほど、付着した塗料も合わせて、効果は倍増する。

 オリジンは全てを見越していたように呟く。


 彼はアリシアの記憶と知識と知恵を基に構成され、情報を共有している。

 彼は”英雄”の特性をアリシアと同等に熟知している。

 英雄は慢心し易い。

 自分の力で上手く熟し、自分の特異的な能力に頼るあまり慢心する。


 例えば、思考を読むエスパー兵士が敵の敵意を読み取りながら攻撃を回避する。

 ギザスの例の様にその手の手合いは敵意が読めないと能力が半減する。

 これは自分の超能力的な探知に頼った慢心だ。

 ならば、殺気を出さず、かつレーダーすら映らず、その挙動が全く分からない敵に襲われた時、彼等はどんな反応をするだろうか?


 意識は迫り来るミサイルに向けられ、高い空間認識能力と探知能力が緩慢になった今、彼らにとって一番の弱点は不意打ちと強襲だ。

 ロア達の機体のレーダーが攻撃接近のアラートを鳴らす。

 しかし、突然の事で何処から来ているかも分からない彼らは一瞬、混乱する。

 その少し後、人間離れした認識力でその事実を確信した時既に遅かった。


 激しい水柱がロア達の真下から打ち上がる。

 あまりの反動に海面を沿っていたアセアンのAPも波に呑まれ水没……近くの艦隊も波に呑まれ、横転するほどだった。




「うん、思った通りだ」




 オリジンは左指を鳴らす。

 彼が使ったのは指向性水爆搭載型垂直魚雷だった。

 リフレクター機能を応用、水爆の効果範囲を限定化、概念照準器込みで対象だけを爆発させるものだ。


 水爆と言ってもソルなので、放射能汚染を無く実質、威力も上がっているが、これでも”英雄”を殺せるかは微妙だ。

 彼らに”英雄因子”がある以上、奇跡の生還など平気でやってのけかねない。

 通常攻撃では無傷の可能性も否めない。

 水飛沫が止み辺りの様子が見えてくるとそこには3機のシルエットが見えた。




「まだ……生きてたか……」




 オリジンは悔しそうに見つめる。

 いつも無邪気に笑っている彼もこの時は真剣だった。

 しかし、3機とも完全に無傷という訳ではない様だ。

 所々、関節から火花が飛んでいた。




「ねえ?まさか、今のって……」


「間違いない。ソルだ。あいつら俺達を倒す為だけにソルを平気で使っただと!」


「ソルなんて人間相手に簡単に撃っていいモノではないだろう!あいつら完全に狂っていやがる!」

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