イゾルデ発射前2

「馬鹿な!なんという弾数だ!敵の弾薬は無尽蔵か!」




 そう無尽蔵だ。

 繭香の機体、ネクシル マンナはネクシルシリーズとしての基本スペックに加え、専用の追加ユニット”フィッグ”を装備する事でほぼ無尽蔵な火力を実現した。

 ユニットには繭香の戦闘に合わせ、10機ネェルアサルト増幅器に小型化した量子回路式物質生成システムが搭載され、WNの供給が続く限り、ユニットの中で無限にミサイルを作り続ける。


 最高速度と面制圧火力においてはスペック上、アリシアのネクシレウスを凌駕する性能がある。

 その分、大量のWNを有していないと扱えない機体だが、繭香は実の父親からの虐待で並外れた精神力を持っているのもあり問題なく起動させている。

 アセアンはマンナの無限弾薬に押し負け、被弾する。

 爆発力の調節されたミサイルはAPを破損させるだけでコックピットには致命的なダメージを与えない。


 ただ、戦闘能力を失ったAPから次々と脱出していく。

 繭香はそのまま空を飛びながら、両手に装備したベネリM4ショットガンと併用しながら弾幕の雨をアセアンに注ぐ。

 あまりの爆発と火力、面制圧の前にアセアンは前線を押し上げられずにいた。


 繭香は射撃も格闘も苦手だが、それをミサイルやベネリM4ショットガンという弾幕主体の攻撃方法に置き換えた事で弱点を補った。

 加えて、持ち前の”敵愾反応”が敵の攻撃を回避していく。

 更に圧倒的な機動の前では通常速度でもアセアンのAPからは常に高速戦闘を仕掛けている様に見えてならない。

 繭香の前線を抑えている最中、リテラ達は後方から射撃に専念する。


 シンは改良した大量のスピアとレーザーを発射できるように改造した両手のBushmasterACR A10 アサルトライフルで迎え撃つ。

 ネクシレイターとしての力が増した事で自立機動兵器であるスピアを正確に多くコントロール出来るようになった。

 その数、最大100個。


 やじりの様な板で出来た自立兵器が変幻自在に敵の死角から敵を削っていく。

 各スピアにはシンの擬似意識が組み込まれ相互間で情報を交換、オリジナルであるシンとやり取りをしながら攻撃を行う。

 それはまるで個々のスピアに意志が宿っている様に考え判断しかつ統率されているのだ。




「なんだ!あの金属の板!」


「板に意志が宿っている!」




 アセアンは翻弄する板を撃ち落そうと発砲する。

 しかし、まるで板1つに1つにエースパイロットが乗り合わせている様に板はアセアンの攻撃を回避する。

 スピアは敵を翻弄しながら敵の肢体を斬り裂き、先端からレーザーを照射、連携して敵を追い込み、誘い込んでシンに撃墜させる。




「こんなものか」




 シンは連携の出来具合に納得する。

 訓練では散々使ったが、実戦でその手応えを得て納得する。

 その様子を観察しながら、千鶴とソロが動き出す。




「いい具合に撹乱しているわね」


「その様だ」


「でも、上にいる円盤が邪魔ね」




 アセアンとの戦闘の上空ではADが上空の占領、ミサイルの雨を落とす。

 概念照準器があれば楽に倒せるがADの重力障壁でロックが妨害され、使えない。




「だが、こちらにも用意がある。推進装置の場所は把握しているな」


「勿論!」




 ウィーダルから齎された情報により推進装置の箇所を前以て知っている。

 円盤の側面と中央部だ。

 側面が飛行安定、中央部が飛行の大部分を担う。

 ソロはADに向けて給ベルト式ロケットランチャー”アイゼンMod2”を向ける。

 前回の模擬戦時に使用した給ベルト式ロケットランチャー”アイゼン”とは違い、Mod2は威力も射程も強化され、延長化されたバレルが敵に向けられる。





「随分、狂った出来栄えになったわね」


「君の基本設計で出来た好み武器と聞いたが?」


「好みと言うより得なのよ。余計な事考えるのが苦手なのよ。だから、AP戦も真音土と同じで一撃必殺。人の事を考えなくて良いならガトリング砲で蜂の巣にする。その点、この武器は私好みね」




 千鶴のネクシル ギデオンは”空間収納”から巨大な武器を召喚した。

 それはネクシルの全長を大きく超えるほどと銃。

 全体の半分以上が巨大なバレルで出来ており弾頭は見るからに通常規格ではない巨大な弾道がマウントハンガーに搭載されたボックスから給ベルト式で弾頭が伸びている。




「170mm電磁投射砲”トニトルス”……ゾクゾクするわね!」


「間違って味方を殺すなよ」


「分かってるわよ。こう言う大きな武器の制御には慣れてるわ!」




 千鶴は万高でも指よりも実力を持つ。

 純粋なパイロットの能力はある一点において、学校トップとも言える。




「さぁ!行くわよ!」




 千鶴は170mm電磁投射砲”トニトルス”を敵AD艦隊に向ける。




「ギデオン。照準補正!」




 男性型TSが千鶴を指示に的確に答える。




『目標捕捉。5万m。仮想カーソル表示』


「確認した。エネルギー伝達開始!」




 すると、海面が揺らぎ始める。

 投射砲の強力な電磁波が海水を引き寄せ、海が荒れる。

 同時に神術により目に見えない力場が足元に形成される。




『1番クリア2番クリア3番クリア4番クリア5番クリア。エネルギー伝達コンプリート。最終セーフティー解除しますか?』


「解除するわ」


『解除受諾。いつでもぶっ放して下さい』


「さんきゅ!」




 この2人は出会ってそう経っていないはずだが、まるで互いに昔から知っている様に言葉を交わす。




「さあ!行くわよ!ギデオン!歯を食い縛れ!電磁投射砲!発射!」




 千鶴はトリガーを引いた。

 それと合わせてソロもトリガーを引いた。

 ギデオンから放たれた槍の様な弾丸は唸りを上げながらADに迫る。

 ADは敵の異変には気づいていたが、ADの防御力でどうにかなるとも思わず無視していた。

 彼等にとってそれよりも前線を維持する繭香や味方を混乱させるフィオナ達の方が優先されたからだ。

 だが、そんな彼等の思惑とは裏腹にアストロニウム合金で出来た銀の弾丸が小型ビッグバンの炸薬と電磁加速により、ADの電磁バリアに直撃した。


 本来ならそのまま電気の熱喪失で物体を蒸発させるのだが、銀の弾丸はバリアに食い込んだ。

 バリアのパラメータが変化した事を確認した時には既に遅い。

 食い込んだ弾丸にまるで杭打ち機の様に次の弾丸が食い込み、電磁バリアを貫通、重力バリアに被弾する。


 重力バリアも最初こそ弾道を変更していたが、投射砲のあまりの運動エネルギーにバリアに過負荷が掛かり、バリアを消失する。

 その隙に千鶴は170mm電磁投射砲”トニトルス”をコントロールしてADの浮遊装置と動力部を貫いた。

 そこで速やかに170mm電磁投射砲”トニトルス”を止め、次の敵を選定しAD目掛け、同じ要領で発砲した。


 今度はソロが事前に電磁バリアを吹き飛ばした事でスムーズにADを沈黙させる。

 千鶴は撃っては止め、撃っては止めを繰り返す。

 これだけド派手に撃っているのにもかかわらず、死傷者は出ていない。

 千鶴は拠点制圧や要塞戦、大軍制圧を得意とするパイロットだ。

 拠点や要塞を効率よく最小の労力で倒す事に長けている。

 その特性から高威力でかなり癖のある武器を使う傾向がある。


 余談だが、ソロの使った給ベルト式ロケットランチャー”アイゼン”も元々、千鶴のアイデアで工藤に作らせたものだ。

 1人で拠点を制圧することを主眼に開発したものだ。

 しかし、ロケット弾が馬鹿みたいに単価が高い事もあり、お蔵入りした兵器だ。

 それをGG隊の技術により、諸々のデメリットを消して運用している。

 千鶴は生徒会の任務の関係もあり、真音土からサレムの騎士の拠点を制圧する任務を請け負った事もあるほどだ。


 その技量は高く癖のある兵器を使いながら、機体だけを破壊する芸当を見せる。

 どんな高火力で癖をある武器を使おうと必ずコントロールし圧倒的な火力で敵を殲滅しながら人を殺さない。


 それが橘千鶴のやり方だ。

 千鶴は170mm電磁投射砲”トニトルス”をコントロールしながらADを撃墜していく。

 圧倒的な弾幕は途絶える事はない。


 ユウキの”イゾルデ”に触発されて作られたこの武器も当然、量子回路式物質生成炉が搭載され、背部のボックスから無尽蔵に弾が補給されるのだ。

 千鶴とソロは流れる様にADを撃墜していく。

 すると、吉火から連絡が入る。




「もうすぐ60秒だ。回避を優先するんだ」


「各機!ネェルアサルト起動!そのままシオンの下に潜り込め!」




 各機は一気に加速してシオンの元に向かう。

 突如、上空で何かが光、上空から”イゾルデ”の雨が降り注ぎ始め、雨脚がGG部隊を襲う。

 しかし、”ネェルアサルト”の加速のお陰で当たらずに済み、そのままシオンの下に潜り込み陣を敷いた。

 補給の必要な部隊は一度船に戻らせ、残った兵力で陣を作った。

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