イゾルデ発射前1

「なんだ?あの白い煙は?」


「戦域からだいぶ離れている。あそこに基地も敵の戦艦もいないはずだが……」


「いや、何かの異分子の可能性もある。シオン。あの物体を確認されたし」


「了解」




 ギザスは吉火に確認させる。

 そう答えて吉火は天使達の力を借りてすぐに分析した。

 結果はすぐに判明した。

 言葉にならない声で吉火に伝わり、吉火の背筋に悪寒が奔った。




「すぐにアレを撃ち落とせ!」




 その吉火の指揮官系神術の効果もあり、その言葉でギザス達はあれが何か理解した。

 吉火の言葉から吉火が何を言いたいのか何が伝えたいのか全て理解できたからだ。

 アレは万高襲撃の際から警戒していた”イゾルデ”であると把握した。




「イゾルデだと!ネクシル4!」




 リテラはギザスの言葉に反応するよりも速く銃口を向ける。

 リテラは2丁持ちのPSG-1スナイパーライフルを構える。

 だが、そこに横やりを入れる様にリテラに弾幕が注がれる。

 遠距離からの攻勢もあり狙いは正確ではないが圧倒的な弾幕の中、回避に気を取られながら精密狙撃するのも難しい。

 アセアンとAD艦隊の攻撃がリテラ一点に注がれる。


 流石にあれだけの狙撃能力を見せれば、敵もリテラを警戒する。

 普通に考えれば大気圏離脱並みの速度で飛行する”イゾルデ”に地上からの攻撃が当たるはずはないが、GG隊と言う未知の敵の前に不穏な動きを封じておきたいのだ。


 リテラは無言で狙いを定める。

 話しかける暇はない。

 ネクシル メルキの助けも借り、回避と狙撃を共立しながら、敵の攻勢の隙を見て右手から1発放つ。

 放った光線は軌跡を描きながら、遥か彼方の白線目掛け、飛んで行き、遠くで白線の内の1本が消えた。

 アセアンの出撃したAPパイロット達は驚嘆した。




「馬鹿な……この弾幕の中、あんな距離からミサイルを当てただと!」


「ば、化け物かよ……」




 それに畏怖したアセアンは更にリテラに攻勢を強め、それに応じてGG隊も迎撃する。

 しかし、やはり物量に差があり撃っている弾数は断然、アセアン側の方が多い。

 リテラへの攻勢は依然として健在だ。




「この!」




 リテラは続け様に左手から引き金を引く。

 リテラが放ったレーザーの弾丸は正確無比に打ち上げられた”イゾルデ”を撃ち落とす。

 そして、右、左と引き金を引き、”イゾルデ”の数を減らす。

 だが、流石のリテラでも妨害の中で全てのミサイルを撃ち落とす事は難しい。

 リテラは最後のミサイルを撃ち落そうとするが射程が足りず、最後のミサイルを逃す。




「ごめん!1個逃した!」


「いや、これは仕方ない。上出来だ!」




 ギザスはリテラを労う。

 実際、リテラが迎撃を担当していなければ、もっと悲惨な事になっていただろう。

 理論的にはリテラはあの距離でも本来、当てられた。

 だが、やはりサタンの影響があるせいで神術の出力はどうしても下がってしまう。

 極端な話、リテラほどのネクシレイターになれば、言葉一つでミサイル撃ち落とす事も不可能ではないのだ。




「イゾルデ設置まで後何秒だ!」


「66秒!」


「ネクシル2と4、6、7は後方から支援!5は前線を維持!残りは俺に続け!」




 ギザスの指示でリテラとシン、ソロ、千鶴が後方から支援、繭香が前線維持、ギザス、フィオナが前線で乱戦で敵を駆逐する。




「ゼデク!目標選定!」


『ラジャ!』




 ゼデクは敵陣の敵の配置を検索、最も乱戦を起こせるパターンを算出する。

 フィオナはそのパターンを基に目標を殲滅していく。




「良し!」




 フィオナはグロック18Cの派生であるグロック78Cハンドガンロングマガジンを2丁持ちで”ネェルアサルト”による敵陣突貫を行い、敵は一瞬フィオナの姿を見失う。




「どこに行った!」




 すると、友軍のど真ん中に敵機の反応を探知した。

 敵は慌ててど真ん中の方に振り向こうとしたが、その時には遅い。




「いただき!」




 フィオナは海面を滑走しながらグロック78Cハンドガンロングマガジンを両手で抜いた。

 敵陣の内部からという思いがけない強襲に動揺するアセアン。

 アセアン軍は縦横無尽にかけるフィオナに銃口を向け発砲するが、フィオナはそれが見えている様に避ける。


 更に敵の配置や銃の座標まで1秒1秒認識している。

 フィオナは放たれた弾丸は回避され、その弾丸はフィオナの後方にいた敵の機体の腕部などに被弾させる。

 敵に致命的な損害を出さない様に自分のモーションと機動を調整して敵に狙った場所に撃たせている。

 狙った場所に撃たないならフィオナが先に撃つ。


 敵に損害を与えながら適度に処理をして回避する。

 それにより敵は意識的に発砲を躊躇ってしまう。

 敵を狙ったつもりが友軍への被弾となれば、心理的に銃口を向け難くなる。


 尤も、そんなの御構い無しに獣みたいに撃ってくる敵もいるが、そんな敵の相手もした事がある。

 単純な物量戦でも戦える様に鍛えられている。

 ともあれ、知性ある人間は満々と心理戦に嵌り、一方的にフィオナが攻撃する戦況が出来上がってしまう。


 ギザスもそれに乗じて敵を切る。

 ギザスは持ち前の反応速度を活かし、右手の赤い大剣を唸らせながら、敵を斬り裂いていく。

 すると、アセアンとは違うAPの機体軍がギザスに迫る。

 ギザスは腰にマウントしたエイリアンピストルを左手で抜き、即座に応戦した。

 だが、敵はそんなギザスの攻撃を易々と避けた。




「あぁ?アレは宇宙統合軍のエスパー部隊か?」




 ギザスは経験からそれを読み取る。

 稀に人の心を読み取り、圧倒的な戦果を出すエースパイロットが存在する。

 宇宙軍にはその為の専属部隊が有ると聞いた事がある。




「ちょっとばかり、油断したな。だが!」




 ギザスはエイリアンピストルを早撃ちで発射した。

 すると、敵はまるで困惑した様に動きが鈍くなり、ギザスの弾丸に次々と命中する。

 雪崩の様に重心変化装置を撃ち抜かれ、部隊が動揺するのが目に取れる。

 幾ら心を読み殺気を読み取ろうと読み取れなくては意味がない。

 アリシアや叔父貴、ギザスの域になると武器を取る動作1つとっても人と握手を交わす様な感覚だ。


 握手を交わすのに敵意は要らない。

 それだけ自然な流れで武器を使う事を体現しているのだ。

 敵への攻撃も「倒そう」とは考えていない。


 心はあくまで受け身の姿勢なので彼等にとって攻撃とは握手の様な感覚だ。

 握手をするのに敵意剥き出しで握手する者はいない。

 握手申し込まれたら自然と握手する様なものだ。


 ギザスにとって攻撃とは、握手感覚なのだ。

 エスパー部隊が幾ら思考を読もうとギザスに殺気がないので殺気も基に回避すら出来ない。

 エスパーとしての感覚を基にパイロットとしての技量を磨いていたので、エスパーが使えなければその技量は並もしくは、それ以下だ。




「殺気を出している程度の敵を倒すだけじゃあ、ただの2流なんだよ」




 気づけば、ギザスの手により中隊規模だったエスパー部隊が壊滅していた。

 すると、ギザスに接近する敵の大部隊が攻め、敵は前線を押し上げようとしている。




「ふ……そんな簡単に行くわけねーだろう。行け!娘!」


「はい!」




 敵の大群の側面から突っ切る……1つの小型艇の様な物体が駆け抜ける。

 小型艇は大群の侵攻を阻む様にその前を横切る。




「なんだ!あれは!」


「おい見ろ!あそこだ!」




 アセアンのオラシオMkⅢのカメラがその機影を捉えた。

 自分達を横切った舟は前方にAPが前のめりになり、何かの大型ユニットと連結した異形のAPだった。




「ここから先を通すわけには行きません!ミサイル発射!」




 繭香はHPM下でも使えるミサイルを発射した。

 敵の進路を遮る様に上空を飛び、ミサイルの雨が敵に向かって飛んでいく。




「撃墜しろ!」




 襲い来る数多のミサイルをアセアンは撃墜していく。

 敵のミサイルの保有数は圧倒的だが、APに積める数など高が知れている。

 弾切れになってから撃墜しようと誰もが考えた。

 だが、ミサイルは切れるどころか更に勢い良く発射される。

 その度にアセアン側の機体の弾が心許無くなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る