福音後の決戦
10月24日 アセアン海域
そこには多くの戦艦が犇めいていた。
師団規模の艦隊のその中に格納された軍団単位のAP部隊。
これだけの戦力で極東を襲えば極東陥落は容易だとアセアンは確信していた。
「司令。まもなく、宇宙からの増援も到着するとの事です」
「準備に滞りは無いな?」
「宇宙軍のAD全てにこちらの技術士が手がけた”アトミックフュージョンジャマーキャンセラー”を設置しました。万が一彼らが裏切ったとしてもキャンセラーに取り付けた自爆装置があります。その起爆コードはこちらになります」
部下の男はジュラルミンケースに入った起爆装置を開け、船での戦いなのでそれなりに揺れるかも知れないと司令官の机の真横に置き、それを施錠して固定した。
「うん、御苦労。下がってくれ」
「はい!」
部下は艦橋を後にし司令官は快晴の大海を眺めながら上空に目をやる。
レーダーが上空からの飛翔体を捉えた。
数は大小合わせて30機で大型円盤のケルビムⅡ5機、小型円盤のケルビムⅠ25機だ。
それらの飛行体が快晴の空の雲を裂いてゆっくりと降りて来る。
その大きさは小型であっても空を覆う程大きく、大型はその圧倒的な存在感から誰もが心惹かれる。
そのあまりの巨体にまるで自分達が小さなイナゴとも思えた。
「この戦力があれば……勝てる!」
司令官は確信した。
幾らGG隊が強いとは言え、これだけのAD30機と師団を相手に勝てるはずがない。
確かにAP部隊で数々のADを撃墜したのは脅威だが、それでもこの数に勝てるはずはない。
GG隊さえ倒せば、残りの地球統合軍などただの烏合の集であ、り幾ら国土と物量があろうとADと”アトミックフュージョンジャマー”の前では無力だ。
技術力ならアセアンと宇宙軍の方が断然優っているのだから……。
「この戦争は貰ったな」
これで外敵からの脅威は消える。
地球統合政府さへ打倒すれば、アセアンに平和が訪れる。
司令官はそう確信した。
「レーダーに感あり前方1万m!ア、アレは!」
艦隊に緊張が走る。
前方に巨大な艦影が見える。
大きさADほどではないが、通常の戦艦の2倍の大きさの蒼輝を放つ戦艦が浮遊しながらこちらに接近するのが見え、艦隊は第1種戦闘配置に付き艦隊全体が緊迫感に包まれた。
◇◇◇
「キャップ。前方に敵を確認しました。アセアンの師団級の艦隊とAD艦隊30機です」
「御苦労、メラグ」
吉火は全体に対して作戦開始の合図を送る。
「まもなく、作戦領域に到達する。突入後、過激な攻勢が予測される。良いか。我々の目的は戦乱を拡大しない事だ。貴君らの奮闘により本来の目的は既に達し福音は全て伝わった。我々に残された使命は戦乱を拡大させず、生き残る事だ。良いかそれだけは忘れるな。目的意識を忘れず奮戦せよ!」
「「「了解!」」」
艦橋の吉火や天使達にも緊張が奔り、戦闘態勢を取った。
◇◇◇
格納庫
「うん、とうとう来ちゃったね」
リテラが思わず、感慨に耽るように口を開き、どこか遠くにでも来たかのように呆然と敵を眺めていた。
だが、その心は高揚していた。
もうすぐ、自分達の悲願である福音完了が近付いていた。
この戦いが終わればいよいよ本格的に動く事になると考えると多少なり、浮足立っていた。
それは多かれ少なかれ皆も同じであり、出撃前のコックピットの中で皆が出撃前の想いを語る。
フィオナとリテラとシンは今までの思い出を振り返り、想起する。
「ホントだよ。あの集落出てからこんな事になるとは思いもしなかった」
「わたし達も随分、変わったよね。現金主義者だったのにそんなものに興味すら湧かなくなってた」
「そのお陰で強くなれたと思えば良いじゃないか?」
そこでソロも口を開く。
「そうだ、人が変わってこそ意味がある。世界の変革よりも遥かに意味のある事だ」
ソロも自分が経験して、学んで来た事を先輩風を噴かせるように語る。
原初を辿れば、この中でソロが最古のネクシレイターと言えるので、強ちこの中で一番先輩と言えなくもなく、その貫禄は最たるものだった。
「そうかも知れませんね」
リテラがそれに首肯する。
他のメンバーも感慨に耽るように首肯する。
「皆さん、緊張してないんですか?」
繭香が不安げに皆に問いかける。
前回のスサノオからいきなり激戦に投入されてやはり、不安なところはあった。
それにフィオナが答える。
「緊張してないわけないでしょう。でも、この緊張を楽しんでるから」
「フィオナ凄いですね。わたしはそんな風に考えられないよ」
「慣れだよ。慣れ。繭香も経験を積めば、そうなるって」
「そ、そうでしょうか?」
すると、ギザスが繭香にアドバイスを送る。
「そうだぞ。何、大丈夫だ。お前の回避能力は実戦でも十分に通用する。あとは落ち着いていつも通りにすれば良い」
「それってどうやったら……」
「まぁ、難しい事考えるな」
「は、はい……」
それに千鶴も繭香を勇気付ける様に補足する。
「繭香。緊張してるのはアンタだけじゃない。わたしもよ」
「えぇ?でも、千鶴姉様は実戦経験ありますよね?」
「だとしてもこんな大規模な相手は初めてよ。まして、相手にはADもいる。気を抜けば一瞬でやられるわ。この戦い地球上の誰にとってもルーキー同然よ」
そこでブリュンヒルデ、ヒルド、グン、ゲイルスケグル達も繭香や他のメンバーを安心させる為に開いた。
「戦を前にして緊張しないモノはいないさ。ただ、それでも君は勇気をもって一歩踏み出したんだ。それだけで誇るべき事さ。だろう皆?」
「そう言う事です……」
「そう言う事……」
「緊張してるけど、活躍してみせる」
ワルキューレ達もこの戦いに対する意気込みと熱意を滾らせる。
特にゲイルスケグルはミトラ戦で参加出来なかった事で俄然やる気を出している。
他の3人は参加したのに自分が除け者のように扱われたようで歯痒さを覚えているのだから猶更だ。
「そう言う事だ。いきなり落ち着けというのも難しいと思うがまあ最初はゲーム感覚だな。その方が気が紛れる」
「は、はい。おと……ギザスさん」
ギザスと繭香の距離感は以前にもまして近づいて来た。
繭香も最近、「パパ」とか「お父さん」と言い欠ける機会が増え、ギザスの対応もだいぶ、手馴れて来た。
この2人が本当の意味で親子になるのはもう少しのようだ。
「良し。それじゃあ作戦通りに行くぞ!みんな準備は良いか!」
「「おう!」」
「良し!出撃!」
GG隊はギザスを中隊長にして発進口から次々と出撃していく。
それに続くようにスカイフォースとガイアフォースも続く。
だが、そこにアリシアも姿は無かった。
「上手く頼みますよ。我が主」
ギザスはここにはいない主に想いを伝える様に呟くと敵に向かって進撃する。
◇◇◇
戦闘直前に両陣営にある情報が入った。
地球圏全体では前日観測した移動型ブラックホールの対応に追われていた。
地球統合政府はその対応に追われ、市民や軍、警察は混乱していた。
だが、その真相を知る者はごく僅かな者だけであり、その事実を知る者達はこの戦場に集約され、戦闘に全意識を向け、この戦いに全ての赴きをおき現状、この戦い以外の事が些事になった事で最優先事項から外れ、GG隊は”軍”としての義務よりも”福音”を優先した事でその事実は誰にも知られる事はなかった。
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