開戦
アセアン艦隊は敵の戦艦から出撃するAP部隊を確認した。
「GG隊のAP部隊が展開、こちらに向かってきます!」
「好都合だ!こちらから行く手間が省けたというものだ。奴らを葬った後でゆっくり極東を落とし、間抜けな犬どもを地球から一掃してくれる!」
司令官は全体に指令を出す。
各戦艦のAPが発進準備にかかる。
まだ、戦闘距離ではない。
この距離なら安全に発進出来ると誰もが思った。
だが、1発の閃光がその思惑を貫く。
その閃光は甲板に上がったAPのコックピットを的確に素早く撃ち抜く。
無論、”概念照準器”で撃ち抜いているのでパイロットは無事だ。
仮にパイロットが無事でもコックピット周りの装置が破壊されれば、機体は動かない。
“概念照準器”の前ではパイロットを殺そうとコックピットを破壊しようと結果は同じなのだ。
アセアンの機体は発進前に次々と出鼻を挫かれる。
緑を基調としたリテラのネクシル・メルキが正確無比な射撃でPSG-1スナイパーライフル2丁持ちで撃墜していく。
「馬鹿な!あの距離から!しかも、ライフル2丁持ちの超遠距離精密狙撃だと!」
司令官は人智を逸した敵の攻撃に出鼻を挫かれる。
ライフル1丁をスコープ越しに眺めるならこの精密さにも納得はいくが、ライフルを2丁ではスコープを覗く事は出来ない。
どう見ても覗かす目で狙っているようにしか思えない。
しかも、片手撃ちと言う安定しない姿勢で精確無比な狙撃を行っている。
「メルキ!次!」
『3時方向!マップに表示します』
メルキは出撃の恐れがある順番に目標を選定、リテラに教える。
リテラはそれに従い次々と敵を狙撃していく。
ネクシルシリーズの高出力と神術、量子回路を複合したレーザー光線はスナイパーライフルとは思えないほどの威力と連射性を出していた。
ハーフミラなどの介さないこのレーザー砲は量子回路搭載型の機体以外ではレーザーの予兆すら感知出来ない。
APに搭載された光学回避プログラムも予兆がなければ役に立たず、回避すらままならない。
量子回路の補正と銃改良により、PSG-1スナイパーライフルは同じ銃口から実弾とレーザーを使い分ける事が出来る。
威力を重視する場合は、弾丸に神術を込め易い実弾を使い、即応的な命中性を重視する場合はレーザーが適しており、リテラは今、レーザーを使っている。
リテラが敵に先制攻撃、敵は混乱、いち早く出撃しようと飛び立てる機体は統率無しに飛び去ろうとして指揮系統が混乱する。
その間、ネクシルタイプは更に進撃する。
「司令!味方部隊敵の攻撃で混乱しております。回避プログラムが全く反応しないとの報告も上がっています」
「各隊長に連絡しろ!出撃出来た者達で臨時で隊を編成させろ!何としても統率するのだ!その間、こちらでも弾幕を張るぞ。AD部隊にも要請しろ!」
「はぁ!」
アセアンの司令官はAD隊にも司令を飛ばした。
この作戦では地球の地理に明るい事と”アトミックフュージョンジャマー”という絶対的アドバンテージのあるアセアンが全体の指揮を執っている。
2人の有能な軍師より1人の無能な軍師の方が効率的だからだ。
軍では何より統率が重視される以上、指揮官は1人の方が統率が取り易いからだ。
当然、作戦である以上、AD部隊はアセアンの要請に従うしかない。
彼等もその方が効率的なのは当然知っているからだ。
ADと艦隊からミサイルによる飽和攻撃が行われた。
「各機!ミサイルを迎撃するぞ!」
夜月・シド率いるネクスト隊とワルキューレ隊が迎撃しようと武器を取り出す。
「いや、その必要は無い!そのまま行け!」
ギザスは夜月・シドとリリー・ツイ、ブリュンヒルデに指示を出す。
夜月やリリーも既にアリシアと契約を果たしていた。
“認識共有”により、それだけの言葉で意図を汲み取った。
「「「了解した」」」
リリー達はそのまま直進、リリー達を先頭にミサイルが上空から降り注ぐ。
「連射性の高い武器で弾幕を貼れ!」
「「了解!」」
ギザスの指示でギザスの部隊のシン達各機体は手持ちの武器はマウントハンガーに格納した。
すると、各パイロットはコマンドを入力してカーソルで武器の切り替えを行い、マウントハンガーに納められた武器が姿を消し、パイロットと連動した”空間収納”からマウントハンガーに新たな武器が召喚され、すぐ様、マウントハンガーから装備した。
全員が両手持ち神光術式大型レーザーマシンガン”パニッシャー”を取り出す。
「撃て!」
各機が大型レーザーマシンガン”パニッシャー”を乱射した。
レーザーの出力と連射性から成る火力が襲い来る飽和的なミサイルを全て撃墜してみせる。
「全ミサイル撃墜されました!」
「馬鹿な!アレだけの飽和攻撃を諸共しないのか!しかし、いつのまにか見たことない武装が装備されている!」
ネクシルシリーズはネクシレイターとしての力が増したシン達に合わせ、改良が加えられている。
“量子回路”を改良する事で”空間収納”をパイロットと連動させ、機体側にも”空間収納”を記憶させた事でマウントハンガーを介して武装の出し入れが可能となり、安定した運用が可能となっている。
この機能によりネクシルシリーズは理論上無限の火力を獲得したと言える。
ただ、このネクストシリーズには疑似TSが搭載されている。
この場合、"量子回路"に刻める情報を多く制御出来ない為にあのミサイルの弾幕ならリリー達に任せるよりネクシルシリーズに任せた方が効率的だったのだ。
「良し!ミサイルが消えた!各機!ネェルアサルトで一気に接敵!乱戦に持ち込みつつ艦隊を撃墜する!敵のADの動向には注意しろよ!」
「「「了解」」」
シド達ネクスト部隊とワルキューレ隊各機は搭載された"ネェルアサルト"で一気に加速をかける。
機体は敵のレーダーでも追い切れないほど加速、一気に艦隊に迫る。
機体はその速度を落とす事なく物理的にあり得ないような鋭利な軌道を取り、戦艦に肉薄した距離で迫る。
本来、APで戦艦を沈めるには脆弱な艦橋部を狙う。
船底や側面を狙うとAPの通常火器では歯が立たないからだ。
だが、ネクストの莫大に増幅した膂力の前では単純な力技だけで戦艦に易々とダメージを通してしまう。
「各機抜刀!斬れ!」
「ワルキューレ!行くぞ!」
シドとブリュンヒルデの合図で各隊は戦艦に向けて神術式近接戦用の刀や槍を取り出し、斬り裂いた。
オンアクチュエーターからなる莫大な膂力から敵の戦艦がチーズのように割けていく。
中には両断され、AP出撃前に轟沈する戦艦もあった。
中のパイロット達は無事ではあろうがAPは陸と空を主体にした兵器だ。
海に沈むとそう簡単には戦線復帰出来ない。
AP発進前に足場を取られたAPは次々と撃墜されていく。
「アルファ中隊!後に続くぞ!敵戦艦の船底を狙え!」
リリー率いるガイアフォースは高出力光学兵器を主体とした砲戦に重点を置く。
ネクシル部隊が使用したモノより、取り回しが良く、片手で発射可能なライトレーザーマシンガン”シュラーク”を両手に装備した彼等は従来の銃火器よりも長くなった射程と一線を介す火力から圧倒的な弾幕を戦艦に注ぐ。
戦艦の装甲は全体的に対艦隊戦を想定して耐レーザーコーティングが施されている。
並みの戦艦のレーザー砲なら少々の事では蒸発しない。
況して、船底を狙えば海水で威力が減衰するのが常だ。
だが、圧倒的な高出力のレーザーが減衰を諸共せず、船底を無数に貫く。
海水が思わず、入り込み横転する戦艦に巻き込まれて出撃前のAPが海中に沈む。
「馬鹿な!なんだあの機動性と膂力!そして火力は!」
「信じられない……」
「開戦してそんなに経ってないのに戦域全体に被害が……」
「狼狽えるな!指揮の統率と残存兵力による部隊の再編成を急がせろ!AD側に縮退圧キャノンの限定使用を許可しろ!」
「しかし、アレは地球の環境を激変させる恐れが……」
「ここで我々が負けては元も子もない。末に腹は変えられん。敵のいる地帯に向けてまとめて広範囲制圧するのだ!味方を巻き込んでも構わん!」
もはや、手段は選んでいられなかった。
司令官がその様な指示を出そうとした……その時であった。
「その作戦、待ってもらえる?」
司令官の言葉を遮る様に戦艦に通信に女の声で割り込みが入り、目の前のスクリーンに女の顔が映った。
「な、何者だ!」
「PMCペイント社のインド支社のユウキと申します」
「地球統合政府の飼い犬がなんの用だ!」
彼等は警戒した。
ペイント社はローゼンタール系列の政府軍御用達のPMCだ。
以前のニジェール支部での騒動で株価が低迷しているが、未だに政府との繋がりは強い。
「結論を申します。わたし達とビジネスをしませんか?」
「ビジネスだと?」
「我々は社運をかけてGG隊との戦闘データを欲しています。あなた方を協力してくれるなら我々の持つ戦略兵器のいくつかをお貸しします」
「……見返りはなんだ?」
「戦闘データと申しましたがそうですね……敷いて言えば戦略兵器を使うにはそちらの宇宙制空権をお借りしいたいと考えています」
「制空権を貸せば、あいつ等を倒せるか?」
「少なくとも足止めくらいにはなります」
司令官は少し悩んだ。
こんな怪しい女の口車に乗っても良いのか?と考えた。
仮にも政府の犬が政府の不利益になる行動をするのかと言う疑問だった。
罠と言う可能性も懸念した。
だが、情報ではGG隊は同じ統合軍の中でも対立する事が多く総司令官のアリシア・アイはそれで何度も統合軍に命を狙われたと言う情報もあり、少なくとも統合軍も1枚岩ではなくこの誘いのその類の誘いではないかと考えた。
況して、今は背に腹は代えられない状況であると言う判断が司令官をすぐさま決断に追いやった。
「良いだろう。制空権の使用を許可する」
「ご協力感謝します。それでもこのコードのミサイルを上空に打ち上げますので撃墜する事がないよう。お計らい下さい」
そう言ってユウキは意気揚々と通信を切った。
司令官は席に持たれ軽く息を吐いた。
「司令、あんな得体の知れない奴らを信用して良いんですか?」
「このままではADはともかく艦隊が壊滅する。それは避けねばならない。それに私とて縮退圧キャノンは切り札として取っておきたいのだ」
この司令官にとっても縮退圧キャノンの重大性は理解しているつもりだった。
無暗に兵士を切り捨てる真似をしたいとも思っていない。
それに代わる代案があるなら利用するまでだ。
だが、万が一もある。
彼は近隣に基地に発射されるミサイルの動向を確認する様に指示した。
宇宙の制空権を求めたという事はそのミサイルは宇宙に上がる可能性が大きい。
もしかすると、何かの衛星兵器の可能性も捨てきれない。
もし、自分たちの脅威となった時、撃墜する様に基地に伝令した。
その直後、戦域から遠く離れたところから白い煙が数本天に向かって伸びているのを見た。
ソロとシンはすぐにそれに気づく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます