ユウキ博士の英雄講座
???
ユウキが自室で安堵の笑みを浮かべていた。
先日の新当主発表は流石のユウキも想定外の事態だった。
因果論的にアリシア・アイの存在が人類に肯定されたと焦り、自身の存在意義を失い欠けたが、結果的に多くの人間がユウキ達の協力者となった。
「危なかったわね。まさか、あんな手でエレバンを掌握してくるなんて……」
ユウキはとある戦艦の中にいた。
エレバンの潜水艦から大型の戦艦に発着して戦力増強を図っていた。
これを戦艦と言えるのかは定義にもよるが戦艦の1種には違いない。
ユウキも対アリシア戦も見越して様々な準備をしていた。
「よもや、あの女がエレバンの血筋とは驚いたわ。アレには驚いたわね。人類の”総意志”が彼女に傾いたと思ったもの。でも、結果は人類は神ではなくわたし達を選んだ。これで神の権威は失墜した。人類存続はもうすぐ果たされる。でも、その前にやらないといけない事があるわね」
ユウキはそう言って自分の横にあるカプセルに入った。
カプセル内の装置を調整して、カプセルを閉める。
そこにキラース・カショウ……間藤・ミダレが入って来た。
「アンタなにしてんの?」
「あら、ノックも無しに……ご挨拶ね」
「アンタは余計な手順とか手間を好まないんだから別にいいでしょう。はい、これ!頼まれたデータよ」
「そうね。ありがとう。そこに置いておいて」
ユウキは愛想もなく素っ気なない態度でカプセルの隣にある机を指差す。
だが、そんな事には歯牙にもかけず、キラースは訝しげに装置を見つめる。
「で、この自意識過剰な装置はなんなのよ」
キラースは可笑しな装置から出ようともせず、素っ気ない労いを取る無礼なユウキに愛想無く説明を求める。
「良いわ。どうせ、作業が終わるまで時間がかかるしわたしの暇つぶしに付き合いなさい」
「何よ。偉そうに……」
キラースは「フンッ!」と息を漏らしながら、近くに椅子に保たれる。
「あら、聞いてくれるなんて優しいわね」
「そんな事はどうでも良いわ。それでこの装置はなんなのかしら?先生」
キラースは皮肉たっぷりに「先生」に教えを乞う。
ユウキもそれに皮肉たっぷりに「ふふふ」と微笑み返した。
「この装置はいわば、英雄因子調節装置よ」
「英雄因子調節装置?」
「わたし達”英雄”はわたし達と親和性の高い誰かの因子を受け取り英雄となる。それにより自分達に都合の良い因果を引き寄せる。所謂、主人公補正ね」
「えぇ、知ってる。何処かの並行世界に存在した実在の”英雄”の力をその身に宿すんでしょう。パイロットとしての能力とか才能とか知能指数とかを全て受け継ぐ」
「でも、受け継ぐのはそれだけじゃないのよ」
「どう言うこと?」
「わたし達はその元となった”英雄”の運命、歴史を辿る様にも作られている。あなたの場合、先日渡した英雄なら禁忌の兵器を必ず使う因果が働く。使わないという選択肢が無いほど絶対的な運命よ」
つまり、英雄AがBを殺した場合、その英雄の因子を受けた英雄はBを殺す或いは類似存在を殺す。
隕石を破壊した英雄がいるなら、その英雄がやった通りに因子を受け継いだ”英雄”も隕石を破壊する。
極端に言えば、その英雄が高慢なら因子を受けた”英雄”も高慢になるのだろう。
だが、親和性があれば共通項がある分、魂との癒着も安定する。
高慢な英雄と高慢な人間の親和性が高いと言う事なのだろう。
英雄と因子を受けた英雄との間には共通項が多いからこそ、”英雄”になれると言う事だ。
「ふーん。確かそれで世界を破壊したんだっけ。じゃあ、わたしが世界を破壊するのは必定なの?」
「そこは起き易いだけで絶対では無いわ。ただ、あなたが禁忌の兵器を使うのは絶対よ」
「その辺の境界は随分、曖昧なのね。それで因子を調節してアンタは何がしたいの?大方、不都合な運命の書き換えかしら?」
「あら、よく分かったわね」
ユウキは感心したように顎に手を当てて、不敵な微笑んで見せた。
「これだけ聞けば何となく分かるわよ。それでアンタは何を書き換えたいの?」
「わたしの英雄は並行世界では高名な量子物理学者らしいわ。そのどれも世界の命運を握る立場に着いた科学者もしくは学者軍人だった。でもね。ある世界のわたしは目の前に人類存続のヒントが転がっていたのに逃した挙句、地球をディストピアにした。また、ある世界のわたしはそのヒントを上手く使って人類存続を途中まで果たした。でも、人類の意志統合を失念して結局、ディストピア。人類の統合化まで上手く行ってたのに人類存続の為に作った兵器で人類は死滅。笑わせるわね。何の為に作ったんだか。まぁとにかく、わたしの因子は人類存続を謳いながら結局存続を為さなかった出来損ない英雄なのよ」
ユウキはまるで自分の事のように自嘲する。
実際、自分事なのだが……その因子を受け取る元々、相性が良い関係からか魂レベルでその”英雄”が自分であると認識してしまう。
他人と言う感覚がしないのだ。
因子も渡した相手も自分自身もそれを踏まえて自分なのだ。
きっと、そう思えるほどの親和性があるからこそ、この因子を受け取れたのだとユウキは考えている。
「つまり、アンタも自分の意志に関係なく、その運命に囚われるって事?」
「わたしの意志では無いとは言えないわね。もしそうなら、英雄と我々との間で親和性は発生しないもの。でも、出来損ないの運命をわたしが背負う必要も義理も無いわ」
「でも、聞いた話だとアンタのお陰で一時的な存続は出来たんでしょう?その後の事は後の人類の問題なんだから因子とは関係ないんじゃないの?」
「それでも無いわ。全ての事はわたしの行動が起因している。わたしが最善と思って選択した事よ。それにより人類存続が断たれたのは他でもないわたしの責任。なら、責任は取るものでしょう?」
キラースはいきなり呆気に取られた顔になる。
あまりに意外なモノを目の当たりにしたように目が点になる。
「驚いた。責任取る気あったんだ!」
「アンタ、あたしの事をどう思ってるの?あたしは責任が負えないほどのガキじゃないわ。アンタの甥っ子とは違うのよ」
「確かにアイツは自分は罪を擦りつけられたって思い込んでる。その点、アンタはアイツとは違って思うわ。アンタ、本当に大人なのね」
「そう言えるって事はアンタは自分のした事を受け入れているのね」
「どんなに足掻いたって……わたしがした事は変わらないわ。そりゃ、叔父様に強要されたのもあるけど、わたしはそれで良いて思ってたもの。その方が効率が楽だったから手段は選ばなかった。だって、そうでしょう?世の中理不尽じゃない。自分に悪意は無かったとか、こんなはずじゃなかったとか、言い訳して正当化して責任押し付け合ってる。でも、世の中はそんな風に出来ててそれで成り立ってる。でも、それだと元々無責任な人間って簡単に操られるじゃない。うちの甥っ子がまさにそれよ。自分の行いに責任負えないから、都合の良い考えに流される。わたしそんな傀儡が嫌だから自分のやった事の責任くらい取るわよ。だから、アンタ達に言いなりになってるの」
ユウキは「ふふふ」と笑った。
何か愉快な者でも見た様にキラースの顔を見つめる。
「な、何よ!なんかおかしいわけ!」
「いえ、可笑しくないわ。アンタが思った以上に真っ当な考えをしてたから驚いたのよ」
「わたし、もしかして馬鹿にされてる?」
「正確には馬鹿にしていたよ。でも、アンタはあたしでも利用し難い事が分かった。アンタも場に流されただけのガキと思っていたけど、少なくとも甥っ子よりはマシね」
ユウキは何か得心したように少し項垂れてから寝そべった状態で一呼吸置いてから話し始めた。
「良い。これだけは覚えておきなさい。どんな立場になってもその時のよって対面を変えなさい。アンタの甥っ子みたいに頑なに拘り正義を捨てなければ、そこにつけ込まれて良いように使われるだけよ。例え、あなたが3均衡になろうとそこに付け込まれたら良いように利用されるだけよ。だから、本当に利用されたくないならその事も忘れちゃダメよ」
(いきなり、柄にもなく何をお節介な!そんなに真顔で言われたらどう答えたら良いか分からないでしょう!)
その時のキラースには理解できない部分もあったが、この時は取り合えず、肯定した。
「わ、分かってるわよ。そんな事!」
「そう?なら良いけど……」
その話はそれで一端の終わりを見せると事態は突如、動いた。
ユウキが突然、呻き始める。
「どうしたの?」
キラースは突然の事に少し心配そうに動揺した。
「そろそろ、因子に本腰入れて手が加わるところよ。ある種の精神操作だから……肉体にも影響するわ」
「大丈夫なの?」
「心配して……くれるの?」
ユウキが急に優しい口調で弱弱しくなった声色が変わる。
キラースは思わず発したユウキを気遣う言葉をかけた事が気恥ずかしくなり、顔を赤くする。
「べ、別に!ただ、ここでアンタになんかあったらアンタを利用出来ないじゃない!」
「そうね……それはお互い様よ。あたしもまだアンタを利用しないとならないしね」
「それで大丈夫なの?」
「命に別状は無い……設計になってるわ」
「何よ……その曖昧な返答」
「仕方ないじゃない。これが試運転なんだから……でも、大丈夫よ。だってあたし天才だもん」
ユウキは不敵に笑ってみせた。
この後、確かに死にはしなかった。
しかし、ユウキは悶える様に苦しみ息も塞がりそうな中で必死に耐え、全身から汗が噴き出て彼女がいたカプセルは汗で濡れた。
白いバスローブの様な衣が透けて下着が薄っすら見えるほどだった。
キラースはユウキが悶え苦しむのをただ呆然と見るしか無かった。
彼女は自分に似ている。
自分の崇高な目的の為なら手段を選ばず常に上位者意識というプライドを持ち、他人を利用するだけ利用する。
加えて、責任の在り方も似ていた。
彼女に言われた利用されないための在り方はどこかで気づいていたが、言われるまで明確には分からなかった。
多分、彼女はキラースに思うところがあったのだと思う。
だから柄にもなく教師面をしたのかも知れない。
いや、学者英雄の因子を持っているなら何処かの世界のユウキは本当に教師だった世界もあったかも知れない。
だが、それ故に分かる。
ユウキはやると決めたならやる女だとキラースは知っている。
その高慢とも思える想いを貫く。
だから、キラースはただ眺める事しかしなかった。
自分が彼女なら止めて欲しくはないからだ。
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