宇宙の決断

 宇宙統合軍 木星拠点


 宇宙統合軍の主力は大戦終了時の軍事解体から逃れる為に秘密裏に未開拓の木星圏に拠点を構え、反撃の機会を伺ってきた。

 数年前、突如として齎されたAD技術により、その戦力を増強していた。


 長い間、木星とラグランジュ点のコロニーとは連絡すら隔絶されていたが、ラグランジュ点のL2から発信された通信と彼等の作るADが彼等を決起させた。

 今では隷属されていたラグランジュ点にある宇宙コロニーは次々と解放されていく。

 長い間、隷属されていた民達は自由を得た事で皆が歓喜に沸いた。


 だが、それは今まで抑圧されていた感情の爆発でもあった。

 宇宙側ではADの武力を背景に地球人抹殺の機運が高まりつつあった。

 その尖兵としてウィーダル・ガスタ中将率いる部隊が地球に降下したが、地球側のGG隊と名乗るAP部隊により壊滅したと最後の通信で把握した。


 それも同じ部隊長であるアリシア・アイと言う女に2回も阻止されている。

 宇宙統合軍は焦った。

 AP小隊1つでADを撃墜した事は彼等にとって衝撃だったからだ。

 彼等は一時期地球側の反撃を恐れた。

 ADを葬るAP”ネクシル”シリーズが地球側から侵攻してくると考えたからだ。

 だが、一向に襲ってくる気配がない。


 彼等は地球圏にいる協力者やスパイに調査させた。

 調査で判明したのは現在、”ネクシル”シリーズを保有しているのはGG隊という極東の外部独立部隊のみである事。

 そして、その部隊長であるアリシア・アイが宇宙統合軍のADを撃墜した張本人である事が判明した。


 1回目の撃墜の際にウィーダル中将と会話をして存在は確認していた。

 だが、その時は脅威とは認知していたが、偶然が重なっただけだと考え、警戒はしていたが、敵の一部隊長にそこまでの警戒心は抱かなかった。


 だが、ADが2度撃墜された挙句、同じ部隊長にやられたとなれば、話は別だった。

 更に加えて”ネクシル”シリーズの性能を見れば、その考えも変わった。

 最後に映像には圧倒的機動性と運動性で攻撃を回避、肉薄した距離にまでADに近づき、なにかをした様子が映し出され、その直後に撃墜されたことが記録されていた。




「諸君、これまでの事をどう見る?」

 



 宇宙統合軍元帥ノウマン・ギルディットは会議に並ぶ上級士官と顔を見合わせる。

 皆が鋭い眼光と緊迫とした雰囲気の中で思案する。

 その中の1人が口を開く。




「そうですね。不自然というのが1つ目に挙げられます。あの”ネクシル”シリーズを量産すれば、少なくとも地球側は今以上の戦力強化が可能なはずです。なのにそうしないのは不合理と言えます」




 そこで別の将官が口を開く。




「いや、そうではない。単純にパイロットの能力だ。いくらAPが優秀とは言え、ADとの機体スペックの差は明らかだ。2度目の撃墜の際も最終的に最後の一撃を刺したのは敵の戦艦だ。あのAPにバリアを貫く火力がない以上、その差を埋めたのはパイロットの技量だ。1度目は構造上の弱点を突き、2度目は戦艦の砲撃に際しての何らかの下準備を行なった様に見える」




 更に別の将官が口を開く。




「確かにパイロットとしての技量もあるだろう。だが、わたしはそれ以上にアリシア・アイの采配だと考える。本来、”ネクシル”シリーズはアクセル社が特許を取った兵器だ。それ故にネクシルの模造品が地球では何機か確認されている。だが、どれもオリジナルのネクシルに迫る性能は出していない。わたしの私見だが恐らく、GG隊のネクシルは既に中身が別物になっている。それが量産化を妨げていると考えられる」




 その言葉に別の将官が質問する。




「それがなぜ、量産化を妨げる?規格化されているなら量産出来るはずだ」




 質問を受けた将官が答える。




「つまりはオリジナルは規格外のなにかがあり、それはGG隊にしか扱えず、造れない……もと言い造り難いとわたしは見ている」


「そんな都合良い技術を保有しているとは思えんな」


「我々とて出自不明のAD技術を持っているんだ。可笑しくはないだろう。それにGG隊の人の流れを確認したが、技術士官や科学者はあの艦に乗り合わせていない。ならば、既に技師を兼任出来る者がいると考えられるとなれば、自然とアリシア・アイに答えが収束する」




 更に将官は椅子に背を凭れ、腕を組み淡々と考察を述べる。




「恐らく、ネクシル系の技術がGG隊以外では再現不能だからこそ、アクセル社のネクシルのカイロ武装局にダミーとして使わしているのだろう。その後で構造上の変更があってもカイロ武装局には改造と言い訳すれば良い。何せ、既に公人としての義務を果たしているからな。あとは機密と誤魔化せば良いだけだ。あの娘……パイロットとしても一流だが、武将としても策士としても技師としても優秀という事だ」




 話がその将官の話である程度、纏まってきた。

 皆が各々相談をするがこれ以上の推察が浮かばなかった。

 そこで元帥であるノウマンが一度話を締める。




「つまりはアセアンの考えと同じで我々に対抗出来る戦力はGG隊、特に部隊長たるアリシア・アイの他にはいないと言う事か?」




 考察を述べた賢い将官は椅子に背を凭れ、腕を組み、感慨に耽る様に目を閉じ、口を開く。




「わたしはそう見ている。それならこの状況の辻褄が合う」


「では、君達はアセアンと共闘しGG隊を壊滅させる事に賛成という事で良いかな?」




 ノウマンの言葉に将官達は次々と首肯した。

 ここにいる全員が多かれ少なかれ、不安を抱いていた。

 彼等にとって地球人とは、何をするか全く予測出来ない害獣の様な存在だった。


 何をするか分からない。

 故に早めに始末しなければならないと彼等の中ではそんな周知が存在する。

 彼等の中には地球側の奇行で家族を奪われた者や迫害を受けた者も少なくない。

 加害者は被害者の気持ちは分からない、被害者ほどその罪がどれほど重いか理解出来ない。


 理解しようとしない限り、分かり合う事は出来ない。

 そして、何より今までの経験から地球人とは対話不可能であり、共存の道は無い事も彼等の周知だ。

 その中で自分達の脅威となる害獣が倒せるなら彼等にとってアセアンの申し出はこの上ない。


 利用できる者は利用する。

 地球統合政府を打倒した後でアセアンの処遇を考えれば、良い事だ。

 何より彼等が恐れていたのはアセアンが打倒される事だ。

 アセアンが地球統合軍により打倒されれば、”アトミックフュージョンジャマー”の技術が接収され、核融合を主力とするこちらのADを無力化される恐れがあった。

 そして、アセアンによれば先日、”ネクシル”シリーズの1機がアセアンを攻撃、圧倒的な戦闘能力を見せた様だ。


 一説にはそのAPはGG隊とは無関係な機体とされるがいずれにせよ……アセアンの”アトミックフュージョンジャマー”の影響を受けない兵器が地球側にあり、GG隊以外の勢力が有しているならアセアン壊滅も近い。

 そうなれば、”アトミックフュージョンジャマー”の技術が接収され、宇宙統合軍にその脅威が向けられる可能性があった。

 ノウマンはタイミングを見計らい宣言する。




「どうやら、纏まった様だな!では、我々はアセアンと協力しGG隊を壊滅させる!並びに地球圏に侵攻する!」




 こうして”第3次宇宙軍侵攻戦役”の決行が決まった。

 宇宙軍は全戦力を地球に向けて侵攻する。

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