ネクスト駆ける2

 シド達も今、足止めを食らっていた。

 本来なら第4小隊を救援に行きたかったが、上空SIG581カービンアサルトライフルを装備したネクストの牽制の所為で前に進めない。

 敵のネクストは射撃こそ精確ではないが、32機分の弾幕を一斉に掃射されているにも関わらず、一度も被弾しない。

 本能に近い動きを以てして戦闘機動を取り、その動きは人間にはない官能的でかつ、優雅とすら思える挙動であり、一切当たらない。

 まるで弾丸1発1発を恐れ、一目散に全力で逃げている様にも見える。

 リリーは忌々し気にその機体を見つめる。




「あの機体。射撃能力こそ低いがその分、全体にばら撒いている。これでは迂闊に動けない」




 その様子をアリシアは遠目で確認する。




「うん。良い具合。繭香。そのまま30秒引き止めて」


「りょ、了解」




 今の繭香に大した不安は無い。

 やってみれば、意外となんとかなる気がして来た。

 繭香は自分に言い聞かせる。




「落ち着いて……このまま、維持して……慢心せず……自惚れず……確実に熟すの」




 繭香は気持ちを昂らせないように努め、冷静さを保とうとする。

 確実に忠実に任務を全うしようと全力を傾ける。

 繭香のエクストラ・スキル”敵愾反応”により、繭香の回避能力はかなり上昇している。

 相手の敵対意志に反射神経のように反応、それを基に回避を行うと言った感じの繭香固有のスキルだ。

 厳密に言えば、繭香と言う生命の魂は”敵意”に対して超感度センサーとして機能しており、かつそれをフィオナと同じ”情報処理”と言うスキルを用いて、敵の”敵意”の本質を見抜き、それを回避能力に転用している。

 具体的に言えば、安室陽・レイヤともロア・ムーイとも呼ばれる彼らは”ネオス”の能力を受動的にしか使えない。

 自分で能力のオンとオフを切り替えられない。

 故に相手の意志を何でも受信して、相手の”思考”をになっている。


 そう言った潜在的かつ無自覚な高慢故に彼らは自分の感じている人の心に確信を抱き易い……言い方を変えれば、幻想に酔い痴れる。

 だが、現実問題としてその能力には大きな欠点がある。

 まず、仮に人の”思考”を受信できたとして、それが正しい……言い換えれば、健全であり、敵意であるとする保証はどこにあるのか?


 例えば、ある会社員の”K”がいたと仮定する。

 その人間は一般人であり、会社に勤め、戦争行為……もと言い、殺人等を犯した事は一切ない。

 これだけを聴けば、”普通の善良な一般市民”であろう。

 だが、その”K”は会社では部下にパワハラを行い、酒に酔った席で近所の方々に暴言を吐き散らかし、それが原因で”K”の妻は近所の方に苛めを受け、PTSDとなり、その”K”は「妻の心が弱いのが悪い!」と平然と罵り、顧みない。


 そして、”K”はある日、地球に落ちて来る隕石を天を眺め、見つめる。

 その時に”K”は思う。

「日々、平和が訪れるように……災いが過ぎ去るように……日々、穏やかで平穏な日常が戻りますように……」と切に願う。

 そこで隕石はとある”ネオス”が起こした事象により過ぎ去り、その”ネオス”が言うのだ。

「これが、これこそが人の心の光だ!」と言う。

 だが、地上には日頃、この”K”と同じ考え、類似する行動、同じ意志を持った人間がいた。


 確かにその人間達の”意志”がこの事象には関与していた。

 しかし、それを見て、神は言う。

「お前達のどこに人の心の光があるのか?日頃の行いを鏡で見直すと良い。特殊な環境に置かれ、強要された意志は真の願いでも祈りでもないと言う事すら分からないほど、愚鈍なのか?環境に左右される信仰……信念は紛い物に過ぎない」


 ここまでの話で分かると思うが、”ネオス”の言う「人の心の光」は一切ない。

 寧ろ、「人の心の光」=「善良、柔和、慈愛」ではなく「邪悪、悪意、敵意」であると証明されている。

 これは”ネオス”の能力の有無が無くても、人間の日頃の生活を観察すれば、十分に理解できる。

「日々、平和が訪れるように……災いが過ぎ去るように……日々、穏やかで平穏な日常が戻りますように……」と”K”は願ったが、「ならば、何故日頃それを願わない」と言うしかない。


 人間は自分達が考えるほど「善良な一般市民」に成れてはいないのだ。

 どれだけ、普通の生活をしている主婦でも学生でも会社員でも第3者から見れば、”K”と似たり寄ったりであり、”K”はあくまで人類の代表例と言うだけに過ぎないのだ。


 仮に「人の心の光」が人間の意志の総意だとするなら、意志は日々の積み重ねの累積だ。

 日頃から全人類が「善良、柔和、慈愛」を願っているなら、何故、地球では戦争が止まらないのか?

 100歩譲って、戦争は判断基準に入れないとしても、何故、日常的にパワハラが消えないのか?何故、学校で苛めが起きるのか?何故、誹謗中傷を平然と言えるのか?


 細かく言えば、ある自称小説レビュアーである”Y”は自分の考えに合わない意見を言われ、それを発したネットの客であるチャンネル登録者に対して、暴言と苛立ちをぶつけ、感情的になり、「自分をレビュアー歴何年だから、お前とは違う」とか「自分は何かを造る者ではないので作者の価値観なんて分からない」「偏った評論をするわたしが気に入らないなら結構です」「他のWEBサイトを見ても公平なレビューが出来るわけがないでしょう」とか平然と言い放ち、最後には相手の尊厳を貶す為に「この動画はレビューではなく、今の小説サイトの傾向が「こうなっているんだ!」と言っているだけでレビューではありません」と相手の取るに足りない小さな揚げ足を平然と取り、自分が上位者であろうと高慢に振る舞い、マウントを取りたがる。

 そもそも、そのチャンネル登録者の話の本質は「あなたは過激な物を言いをしてあまりに偏った非公平的なレビューをしているようですが、それはあまりに良くないのではないのか?他の違う傾向のサイトも検証して公平的にした方が良いのではないか?」と言う投稿だった。


 他のWEBサイトの読む事を勧めたのはあくまで例え話であり、他のWEBサイトの閲覧で公平になる、ならないの話をしている訳ではない。

 なってもならなくても、そのような”努力”はしなくても良いのか?と言うのがそのチャンネル登録者の質問の本質だった。

 故に”Y”の論点はわざと逸らしたように見られるしかなく、他人を嘲っているようにしか見られない。

 果たして、そのような”意図的な作意”は”悪意”はなく”善良”だろうか?


 普通に神の視点から見れば「いや、あなたはレビューの意味が分かっているのか?レビューは評論とも言う。現代のWEB小説サイトの傾向をあなたは「このようになっているのか」と”評価”したではないか?何を頭のおかしい事を言っているのだ。そもそも、レビューを造っている癖に「自分は何かを造る者ではないので作者の価値観なんて分からない」と言うのは責任放棄しているだけではないか?作者の気持ちが分からない事を方便にお前が作家の尊厳を貶し、作家の本を貶め、レビューが動画サイトで削除勧告を宣告された先日の件をもう忘れたのか?「面白さレベル0点、ゴミレベル110点」と口の上手い過激な事を言って、チャンネル登録者を稼ぎ、人を貶し、尊厳を踏みにじるあなたに責任放棄の資格があると思うのか?読者を”物”と”数”としてしか見ていないあなたにその資格があると思っているのか?更に言えば、レビュー歴が数年だからなんだと言うのだ?いくら、年月があると密度がない年月に何の意味があろうか?”数”を言い訳に上位者を気取る事が愚かで高慢である事を知らないなら、行って学びなさい。月日を傘にして自らの顕示欲を満たすなど恥を知るべきだ。意図して言った事ではなくても赦される信念ではないと知るべきだ」となる。


 果たして、”K”と”Y”は健全と言えるだろうか?これを健全、善良と感じる”ネオス”の能力は果たして精確なのか?と言う疑問が生まれる。

 会社員”K”もレビュア”Y”も人を日常的に軽視しており、2人とも真に平和を願っているなら”K”はパワハラを行わないだろう。

 ”Y”もそのチャンネル登録者の批判を批判と悪口と揚げ足対応と言う非礼と無礼で対応しないだろう。

 2人にとっての”本質”は人間は”数”であり、”物”なのだ。

 だから、侮辱と無礼を働ける。

 本当に大切に思うなら、妻を大切にして、チャンネル登録者に対して丁寧に対応するだろう。

 逆に侮辱と無礼は前提的に働けないはずなのだ。

 だが、彼らは日常的にそれを働いた。

 それが出来ない時点で彼らに”良心””善良””柔和”の感情は無い事の証明であり、人間は大よそ、その通りだ。


 話を戻すが、単に心を読むだけでは人の本質を読む事はできない。

 だからこそ、”情報処理”して分析と解析を行い、それが敵意なのか、或いは善意を装ったフェイクと言う名の敵意なのかを解明して把握するのだ。

 悪魔等になれば、”善良”と思い込ませるフェイクを混ぜて、敵意を隠し、不意打ちの様に敵を殺せるからだ。

 それ故に繭香の敵意の受信感度、即応性、精度、判断能力は非常に高く、それをフィードバックする事で脅威の回避機動を取っているのだ。


 家の人間の敵意と自分の内の憎悪との葛藤と言う極限の状態に晒された事で身に付けていたスキルがネクシレイターになり、更に訓練した事で開花した能力だ。

 その特性を利用すれば、繭香1人で前線を維持する事や敵の足止めにかなり有効なのだ。

 人間と言う物の”正義”と”悪”をよく観察して、熟考してきた繭香特有の能力と言える。

 今までも例え話も繭香の経験に対して、アリシアの返答が基となったノンフィクションに割と近い話だ。

「人の心の光」の件はアリシアの実話と繭香の経験、実体験を基にして出来た例えでもある。




「なんて奴なんだ。これは、前線を維持する事に長けた兵士だな」


「射撃が下手なのはこちらにとっては救いが、こちらの数は減らさず、よくここまで粘るものだ。畏敬の念すら抱く」




 リリーやシドは繭香を徹底的に落とそうとするが、どれだけやっても敵の回避能力に追いつけない。

 パターンを読まれない為にあらゆる方法を尽くして撃墜を試みるが、敵はどんな方法にもすぐに応え、回避する。




「回避の天才か!」




 シドは思わず、恨めしい声を上げる。

 ここまで1機の敵に苦戦を強いられた事は未だかつて無かったからだ。




「そろそろ、30秒……」




 繭香は秒針を見た。

 予定時刻まで後3秒。

 アリシアは宣言した事は覆さない。

 彼女が30秒と言えば、その30秒まで気を抜かず、責務を果たす。

 繭香もアリシア流の”従順”を忠実に守る1流の兵士になろうとしていた。




「気を抜かない、気を抜かない、気を抜かない」




 繭香はそう言い続けた。

 そして、予定の30秒が経過した。




「御苦労だった。その場から離れるんだ」


「!」




 繭香はそれに応え、急に反転、その場から離れた。

 繭香の突然の後退で繭香の背後を取れると焦った隊員が銃口を向ける。

 だが、シド達は気づいた。

 今まで姿を見せなかった3機目がレーダーに捉えられたのを……リリーはいち早く、3機目のネクストを見つめた。


 そこには給ベルト式ロケットランチャー”アイゼン”を装備したネクストがいた。

 リリーは咄嗟に散開を指示する。

 彼らは繭香に集中し過ぎて、いつの間にかソロの存在を失念していた。

 薄々警戒はしていたが、どこか心の片隅に追いやられ、目の前の繭香や怪異的な戦闘力を持つアリシアに注意を向けていた。


 その所為で繭香を迎撃する部隊と向かってくるアリシアを迎撃する陣形になり、一箇所に戦力が集中してしまった。

 それを最初から見越していた様に3機目は範囲攻撃を重視した連射型ロケットランチャーをこちらに向けていた。

 だが、リリーが指示した時にはもう遅い。

 ソロの引き金は既に引かれていた。


 ロケットランチャーはまるでマシンガンの様な唸りを上げ、弾を放つ。

 ロケットランチャーは精確無比な射撃で敵陣を火の海にした。

 遠くから観戦していた天音達は混合チームの全滅を確認、天音はその場ですぐに立ち上がった。




「808整備分隊!」


「「「は、はい!」」」




 何事かと思い、皆が一斉に姿勢を正して硬直する。

 そんな彼らに天音は不敵な笑みを浮かべ、微笑みかけた。




「よく働いた。わたしが見た限り良い仕上がりだ。エネルギーの配分もパラメータを見る限り無駄が無い。機体の膂力も高い次元て獲得しつつ操作性も高いと見える。加えて親米でも使える扱い易さ。バランスが取れていると言える。大義であった」


「ありがとうございます!」




 工藤は天音の覇気に気圧され思わず、背筋をびっしりと伸ばし、皆を代表して力強く返答した。

 天音はさっきまでの微笑みが戻り、真顔で次は問題点を指摘してきた。




「だが、まだ細かなところを煮詰めないといけない個所はある。これからも頼むぞ!」


「はい!」




 こうして、工藤達のロマンは一端に収束を見せ、天音は「少し席を外す」と言ってテントの外で出た。

 天音が出た後、808分隊は一斉に「「「よっしゃぁぁぁ!」」」と歓喜に沸いた。

 試合が終わりGG隊と混合チームとの間で親睦を深めていた。




 ◇◇◇




「中将!凄いです!刀1本で我々を倒すなんて!」


「それに刀で弾丸弾いてましたよね?一体どうやって!」


「あの軌道は一体どうやって使うんですか!」


「え……えーと、順番に答えるから少し待ってね……」




 アリシア質問責めに会い困惑する。

 嬉しい話だが、「やはり人間は苦手だ」と思っている。

 別のところではソロに歩み寄る者達がいた。




「アンタ凄いな!」


「ん?わたしがか?」


「こちらに気づかれぬ様に接近した上、ロケットランチャーの反動を制御した上で精確で効率的な面制圧。かなりの技量があるのは戦ったオレ達ならわかる」


「わたしは言われた事をしたまでだ。それに機体のステルス機能も反動処理能力が高かったから為せた事でもある。わたしの力ではないよ」


「お!憎いね!この期に及んで謙遜か!」


「謙遜こそ美徳だ」


「アンタ、外人の癖に昔の日本人みたいな事を言うんだな!」


「イスラエル人だからな」




 そこで何でイスラエル人が出てくるのか、彼等には分からなかった。

 彼が元イスラエルの王である事など一部の者しか知る由はない。

 別のところではシドとリリーが繭香を囲んでいた。




「よもや、まだ伝説級のパイロットがいるとは思わなかったよ」


「いえ、そんな大げさです。わたしはただの新米です。射撃とか格闘は下手くそでな兵士です……」


「だが、模擬戦とはいえ、単機で我々を足止めしたのは凄いと思うぞ。わたしには真似出来ない」


「でも、機体の性能に助けられたところはあります。同じ機体に乗っていたら負けていたのは未熟なわたしです」




 すると、リリーは繭香の両肩を掴んだ。




「うわぁ!」


「あはは。謙虚なのも良いが称賛は素直に受け取るものだぞ」


「あ、ありがとうございます」




 繭香は褒められる事に慣れてはいなかった。

 だが、誰かに褒めてもらえる事は正直、嬉しかった。

 ただ、それをうまく表現できない。

 でも、顔は自然と微笑んでいた。

 別のところでは工藤に駆け寄る男達がいた。




「おーい!整備分隊の兄ちゃん!」


「ん?わたしですか?」




 工藤はいつもとは違い、礼儀正しく丁寧な言い方で対応する。

 流石に彼もいつも砕けた言い方をすると非礼に当たると言う常識はある。




「そうだ。君だ。あの機体について教えて欲しい!」


「あの機体、アンタが作ったんだろう!カッコイイぜ。まるで主人公機を彷彿とさせる力強さがあったぜ」


「オレ……いや、わたしは開発を行っただけで設計はアリシア中将ですよ」


「だが、それでもあんな凄いモノを設計図通り作るのは難しかったんじゃないか?」


「そうだ。元整備分隊だったオレ達には分かるぞ」


「あなた達も整備分隊だったんですか?」




 どうやら、整備課からパイロットに転属した先輩達の様だ。

 何とも親近感のようなモノをお互いに抱いてしまう。




「整備よりもパイロットとしての技量を買われて転属したんだ。整備兵としては落ちぶれだったが、あの機体が凄いのは分かる。それを設計図通り仕上げるのがどれだけ難しいかも分かっているつもりだ」


「しかし、あの機体やけに関節部が大きいよな。なんで何だ?」


「あぁ、それはですね。規格外の膂力を獲得した影響で通常の関節周りでは耐えられず、自壊してしまうので関節周りはかなり補強しました」


「あぁ、あの中将殿の力技はそう言う事か……いや……あれはキツかった。あんな風に投げ飛ばされたのは始めてだったぜ」


「それとよ……お前、なんで敬語なんだ?」


「えぇ?」


「どう考えたって敬語で話す奴じゃないだろう。俺たちの時くらい普通に喋っても良いぜ!」


「……じゃ。そうさせてもらう」




 こうして、彼等は親睦を深めたのだった。

 その後、彼等は新型機の性能を認めざるを得なった事でシオン内のプラントでネクストを量産する運びとなった。

 加えて、従来のAP系の武装改良に加え、ネクストに合わせた兵装の開発やパイロット達の要望に応えた拡張要素を組み込む事になった。

 パイロット達はネクストの性能を見て思った。




(((これならアセアンに勝てる)))




 彼等の不安は払拭され、団結しながら来るべき決戦の日に備える。

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