真実神アリシアが残した預言

 翌日 洋館


 ロキと共に森の中にあると言うユースティティア達の洋館に向かう事になった。

 アールヴァクの馬車に揺られながら昨日、”空間収納”に仕舞い込んだご飯を手で吸収して食べていた。




「本当によく食べるな」




 ロキはアリシアの健啖ぷりにほとほと呆れため息交じりに呟いた。




「兵士にとって、食べないので死活問題です。食べられる内に食べておかないと」


「まぁ……確かにそうなんだろうな」




 ロキも一応、戦える者ではある。

 魔術を使った幻術などが得意だが、アリシアのように肉体派の戦闘民族ではない。

 どちらかと言えば魔術の作成などが得意な後方支援魔術師のようなポジションなのだ。

 だから、食事に関する死生観が彼女とは大部違う。

 食事なら、ある程度できれば問題なく魔術などの作成に集中したいのがロキの心情であり、食べられる時にたくさん食べるアリシアとは違う。

 この食事量を見ると胃もたれを起こしそうだ。


 馬車は何事もなく洋館に辿り着き、巨大な木造の風の洋館の前に立っていた支配人に連れられ、ユースティティアがいるフラワーガーデンへと連れられる。

 その花園には見たこともない花が育っており、地球では見る事の出来ない完全に自然界で樹勢している蒼いバラの花まで見受けられた。

 そのバラは微かな鱗粉すらも蒼い輝きを放ちまるで宝石のように鱗粉が宙を舞う。

 アリシアすらそれに見惚れ、純朴な子供のように花に見惚れる。




「きれい……」




 アリシアは童心にでも帰ったようにその蒼いバラに目を輝かせる。




「あら?その花の美しさが分かるなんて中々、良い眼をしているわね」





 声のした方を振り向くとそこにはこちらに歩み寄る2人の女性がいた。

 その内のアリシアと同じ蒼い長髪の女性が声をかけたようだ。




「まさか、わざわざ足を運んでくるとは思わなかったぜ。アフロディーテ、ユースティティア」




 どうやら、蒼い女性の妙齢な整った顔立ちで微笑みが印象的なアフロディーテ、そして、クリーム色のミドルヘアで凛とした佇まいをした人がユースティティアのようだ。

 大らかなアフロディーテに対してユースティティアはブリュンヒルデを思わせるような切れ目の女性だ。

 だが、神力の質から言ってそこまで悪い者ではない。

 寧ろ、親近感がある。




「そんなにその花が気に入ったのならあとで種と育て方を教えましょうか?」


「えぇ!ほんと!」


「仮にも女神です。偽りは言わないわ」




 アリシアは「わーい!やった!」とその場で飛び跳ね喜んだ。

 ロキからすればアリシア・アイと言う女神は強くて凛々しく理知的なイメージが強かったが、ここに来てから彼女のギャップ的な別の側面を見て驚いていた。




「あなたは彼女から聴いていたイメージよりも素直で純真なのだな。それ故に何者にも染まらない。中々、わたし好みかもしれませんね」




 ユースティティアがその口を開くとアリシアがある疑問を抱いた。




「まるで誰かからわたしの事を聴いていたように言うんですね?」


「ある程度はな……それ故に我々の願いは切実だ。今日と言う日にロキを招いたのも事はラグナロクの存亡にもかかっている事だからな」




 その言葉にロキの眉が帽子ごしに微かに動いた。




「そりゃ、どういう事だ?」


「それは今から説明する。立ち話もなんだからこちらでゆっくりと話そう」




 2人に誘導させるままにアリシアとロキはガーデンの中央部にある白い机に案内され、そこに腰かけた。

 支配人にお菓子と紅茶を手配してから2人はアリシアに盗聴防止と外敵侵入者排除の防壁を張って欲しいと頼んだ。


 どうやら、よほど重要な話らしくこの洋館一帯、特にこのガーデン内の防護術はかなり強固なモノが敷かれている。

 しかし、よほど警戒しているのかこれに加えてアリシアの防護を加えたいと進言してきたのだ。

 アリシアはそれに応え、自分が考え得る限りの防護をこの周辺に展開した。




「ありがとう。これで安心して話せるわ」



 アフロディーテが安堵して胸を撫で下ろすとユースティティアもそれに頷いた。

 どうやら、よほど誰にも知られたくはない秘密の話らしい。

 恐らく、今日のこの日が来るまで一切他言しないという誓いでも立てていたのかも知れない。

 そして、ユースティティアが重い口を開いた。




「さて、この話をするにあたり1人大切な我々の友人であった女神の話をしなければならない。ロキ、真実の女神アリシアを覚えているか?」




 それを聴いたアリシアの顔が微かに動いた。





(わたしの同じ名前の女神……でも、ギリシャ神話や北欧神話にそんな女神はいなかったはずだけど……まぁ、あの書物の神の名を書き記しているとは限らないか……)





 抑止神や偽神に関する情報はアカシックレコードには断片的にしか残されておらず、寧ろ、地球にある神話絡みの本の方が情報としての優位性があるほどだ。

 ただ、やはり人間が書いた本だけあり、そこに全ての事が載っているとは限らない。

 それが真実の女神アリシアと言う存在が知られなかったわけだろう。




「覚えているさ。お前達と亡命して来た女神であり、その真実を見る眼からユースティティアと良いコンビだった。その力でオリュンポスの作戦心意を見抜いた事もあった。オレは面識はないが、その恩恵はラグナロクなら知らぬ者はいないさ」


「なら、彼女の死についてはどう聴いている?」


「真実を見抜く眼を使っている最中に何かの事故に遭い、謎の不審死を遂げたと聴いているが?」


「それが今回の話の確信なんだよ」




(つまり、女神アリシアの死はただの事故死ではなく……それがわたしにも関係があるという事か?もしかすると、オメガノアの情報も女神アリシアから漏れたとかかな?)




「まず、結論を言おう。我々はアリシアからある真実を聴かされた。それはラグナロクの滅亡に関する真実だ」




 その言葉にアリシアだけではなくロキまでの驚いた様子の対面する2人の女神を見つめる。

 ユースティティアとアフロディーテは事の詳細を教えてくれた。




 ◇◇◇




 女神アリシアには真実を見抜く力があった。

 3人で亡命してからしばらく、経ったある日に事アリシアは遊び半分に「神の誕生の真実を見てやる」と思い当たり、その深淵を見てしまった。


 そこで彼女は何かを見た。

 その途端に彼女に大きな衝撃が奔り、彼女は瀕死の重傷を負いその死の間際、彼女はある真実を語った。


 我々、神はアスタルホンと言う創造の神により創られた。

 しかし、それは悪魔が神を創った事に対するカウンターとしての神であり、悪魔の“人間が理解し易い神と言う名の偶像を創り出す”為に神を創り出し、真の命を得る機会を自分達や人間から奪おうとしている。


 自分達と言う神が圧倒的な力で戦えば、”神”=”力”と人間は考え、力の無い神は愛さない、信じないという先入観を植え付ける。

 過去に地球でオリュンポスが戦った際にある者は地球人抹殺を掲げ、ある者は地球人の優しい、温かい温もりを感じたからと人間を擁護した。


 だが、それが悪魔の狙いだったのだ。

 対立する意見同士がぶつかり合い、SWNを搾取しつつ神と言う強大な力に魅入られた人間達が神に対する間違った先入観を抱くように仕向けたのだ。

 その戦いでは人間を擁護した神が人間の味方をしたが……人間には本来、そんな温かい心はない。

 多くの人間にそれがあるなら戦いなど起こりようがないからだ。


 こうして、間違った神と言う先入観を与える為に神が存在しており、ラグナロクの神はアスタルホンの因子を強く発現した者が集まり出来た存在。

 そう言った間違った神を抑える抑止の神になるようにアスタルホンが因子を与えたのだ。

 だが、遠い未来その戦いを繰り返す事で悪魔の糧が増え、悪魔が世界を創り代える事で世界は破滅、ラグナロクの神は淘汰させる。


 真実神アリシアはそのような”真実を帯びた未来”を観たようだ。

 ただ、その中で未だ確定していないがそれから逃れる為の複数の断片的に未来が存在した。

 それは蒼い髪の少女、自分と同じ名を持つ地球の少女だった。


 アリシアが見たのはその少女がオーディンと戦いを挑むところだ。

 その結末は分からなかったが、その後の展開としてその少女は何かの計画を実行、真の命を与える者となり、”オメガノア”と言う計画を遂行する事が世界を救う方法だと述べていたと言っていた。


 勿論、確定した未来ではなかったがその可能性の中には複数回”オメガノア”と言う計画が存在したらしく。

 真実神アリシアも含めて、その内容までは知らないようだ。


 だが、それを伝えたアリシアは悪魔の強大さも恐れ、この事が万が一にも露見しないように来るべき日まで2人の記憶を封印、もうすぐ死ぬ自分の神眼の力を箱に封印、2人に預けた。

 その眼が来るべき日に自分と同じ名の少女に託せればと願いを込めてだ。




「これが我々がアリシアから聴いた真実だ」




 アリシア以上にロキが驚いていた。

 アリシアの場合、薄々は感づいていたのでそこまでの衝撃はない。

 自分の事がそのようにしてバレている事には少し驚いたが大した事ではない。

 ただ、ロキの顔は気が気ではなくラグナロク滅亡の預言の重さを噛み締めていた。




「今の話は……本当なのか?」




 かなり場違いな事を聴いている自覚はあった。

 真実神が観た未来ならそれは確定した未来も同然だ。

 ただ、それほど信じられない内容に思わず、聞き返してしまう。




「残念ながら、本当だ。アリシアはこうなる事を分かって死に際に自分が観た事を記録として残している。記憶を取り戻した後、観てみてたが解釈として間違いではないと断言できる」


「お前達がそう言うならそうなのだろうな……」




 そこでアフロディーテがロキを擁護する。




「えぇ、でも、あなたの気持ちも分からなくはないわ。わたし達も思い出した時は信じられなかった。でも、アリシアさんがオーディンを倒したと聴いてその顔を見た時、確信に変わったわ。あの預言にあった少女だと。でも、まさか人間がオーディンを倒すなんて信じられなかった。預言を見た時、オーディンと和平でも結んだ未来とも思っていたわ。その上でオメガノアがあるのだと思っていた。でも、事もあろうに上位神となったここに来るとは夢にも思わなかった」

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