タネ明かし

 アリシアはアリシアが予測する事件の詳細を説明した。

 今回の事件はまず、この建物を建てた氷室が望月の入る部屋に予め鉄筋に偽装した特殊な形状記憶合金製を刺し込み、抜き易い程度に設置した。


 そして、犯行当日望月にカンニングの疑いをかける為に机の中に教科書を入れ、協力者である神無月にダイレクトスーツを着用させ、テストに臨ませた。

 勿論、着ている事がバレないように長袖を着せてだ。


 そして、神無月に予め答えを教え早めに問題を解かせてトイレに行くように仕向け、神無月は部屋の前を通りトイレに向かいトイレで上着を脱ぎ、予め用意したヘルメットを被り、トイレに隠してあった形状記憶合金を変形させる加熱装置と特性の即席コンクリートを手に取り曲がり角まで戻る。


 そこで氷室が細工しておいたところに加熱器を取り付ける。

 だが、このままでは万が一、望月が机にいなかった場合、不発になる。

 そして、廊下の角にあるカメラで自分がダイレクトスーツを着ている事がバレてしまう。

 そこでタイミングを予め計って氷室が部屋を出てトイレに向かう。


 そこで部屋の机の席に望月が座っている事を確認して曲がり角を曲がり、神無月の右肩を叩き、神無月がスイッチを押す。

 そして、投擲槍のように尖った槍のように変形した金属が望月の首に刺さり、その反動で後ろに跳ばされる。


 その後、槍を引き抜き代わりの鉄筋を刺し込み、その隙間に即席コンクリートを流し込む。

 分量を調整し向こうに漏れ出て不自然に思われないようにポスターに磁気を持たせ、上手く穴の縁に沿うように配置、コンクリートの中に溶かした磁気に反応してコンクリートが漏れ出ないように調整する機能があったようだ。


 開けた穴の部分にコンクリートを敷き詰めると科捜研に怪しまれると判断して鉄筋を入れ直し、微量をコンクリートで偽装したのだろう。

 そうすればそこには元々「ただの鉄筋があった」と思われ、多少の違和感は誤魔化せると言う判断だったのだろう。


 それから神無月と氷室はトイレに戻り、神無月は氷室にダイレクトスーツを含めて諸々の道具を託して教室に戻った。

 あまり長くトイレに行くと怪しまれるからだ。

 それに教師の許可なくトイレに行くなと言っておいたが、予め利尿剤を食事に持った残りの2人がトイレに駆け込む恐れもあった。


 彼らには自分達のアリバイの為に同じアリバイを持つ者として利用する運びになっていた。

 こうして、氷室は山の中にビニール袋に入った証拠を埋め何事もなく教室に戻った。

 証拠はゴミ箱に捨てる訳にも焼却できるモノでもなかった為、そうするしかなかった。


 本来なら、そのまま残りの2人も殺す予定だったのだろうがある誤算が起きた。

 警察の到着が想像以上に早かった事だ。

 ここに来る為の吊り橋は破壊され大きな時間稼ぎになるはずだったが、それをアリシアが直してしまったために次の犯行を行う前に警察が来てしまったのだ。

 ジェームズの心の中では犯罪を完全に行った後で謎解きをさせるつもりだったのだろうが、アリシアの思わぬファインプレーでご破算になってしまったようだ。




「まぁ……こんなところではないですか?」




 その言葉に3人とも俯いたまま顔を上げようとはしなかった。

 それは図星と言う名の肯定である事はこの場にいる誰もが分かる周知だった。




「犯行方法は分かった。だが、動機はなんなんだ?」




 この場にいる全員を代表するように山村がアリシアに問う。

 本来は聴く相手を間違っているようだが、アリシアはそれに答えた。




「復讐……ですよね?」




 アリシアは氷室と神無月に問うと二人は首肯した。

 それに山村が尋ねる。




「復讐とは、望月・十四郎にですか?」


「あと、そこにいる岡田さんと白川さんにですね。動機は神無月さんの想い人であり、氷室さんの隠し子だった。養田・ウィソンさんを殺害した事への報復です」




 そして、耐えかねた神無月が激昂する。




「そうよ!全てがこいつらがウィソンを殺したからよ!」




 神無月は想いの丈を打ち明ける。

 神無月はイジメを受けていた。

 望月を含む3人からだ。

 だが、それを止めたのが貧乏学生で優等性だった養田・ウィソンだった。

 養田は予備校で最も優秀な生徒で優しい少年だった。


 彼は貧乏であり、鉄工場と言う過酷な環境で働きながら予備校に通う学生でもあった。

 そんな彼がイジメを止めたのが、面白くなかったのだろう。

 今度は養田を狙い始めは彼らはとんでもないイジメをした。

 ある時、彼らは神無月を呼び出し、養田が注射器で麻薬を打っている。

 そんなのは良くない事だから、これを代わりに入れた方が良い。これはただの水だ。これは彼の為になる。


 そう言う趣旨の事を言われ、神無月は養田を思うあまり注射器の中身を入れ替えた。

 だが、それは実は心臓の薬であり、養田は心臓が悪かった。

 それを投与しなかった事で心臓が止まってしまったのだ。

 それを知ったのは養田が死んだ時だった。

 神無月は彼らに詰め寄ったが「オレ達は悪くないただの水を渡しただけだ。騙されたお前が悪いんだ。お前がアイツを殺したんだよ。分かる?」と望月に言われ、残りの3人もそれに同調、あざ笑った。


 その後、神無月は氷室に事情を説明した。

 養田から氷室が実の父親であり、家の事情で別れる事になった実の子である事を聴かされていたからだ。

 氷室はそれに憤慨した。

 神無月にではない。

 息子の死をあざ笑い、武勇のように誇る望月達が許せなかった。

 そんな彼らの想いを焚きつけるようにどこからともなく、ジェームズから連絡を受け、彼らはその計画に乗った。

 そして、氷室も想いを打ち明け睨みつけるように2人を見た。

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