犯人に罪の赦しを……
「許せなかった……息子が一体、何の罪があって殺されねばならなかったんだ!オイ!」
そう言いながら彼は白川の胸倉に掴みかかると白川は顔を嘲笑するようにあざ笑った。
「でも、それ僕達悪くないですよね?」
「何?」
「だって、そんな証拠どこにあるんだよ?証拠がなければ罪にならないんだよ!人に塗れ衣着せて勝手に暴走して人を殺すなんて馬鹿じゃねーの!」
そう言って白川は氷室の脛を蹴り怯ませ、顔面を殴りつけた。
そして、更に怯んだところに必要に殴りつけた。
それを山村が背後から回り込み止めるが、彼はそんな山村にも言った。
彼の言葉に周りの警官も顔を顰め、怪訝な態度を取る。
「なんで止めるの?正当防衛でしょう?」
「正当防衛にも限度はある」
柔らかな物腰だった山村も今回は真剣な顔で白川を諭した。
白川は「ちっ!」と舌打ちした。
それに同調して岡田も「本当に馬鹿だよな、あはははは」とあざ笑う。
(確かに証拠はないけど、わたしが知らないと思っているのかな?)
アリシアは内心でかなり憤慨した。
自らの罪を一切悔い改めず良心の呵責もなく寧ろ、それを武勇のように誇示するしていた事をアリシアが知らないとでも思っているのだろうか?
自分の目の前でこんな高慢を行使して殺人を誇ろうとは「良い度胸してますね」と聞こえるか、聞こえないかの掠れた声で呟いた。
あまりに醜く、汚れた精神に嫌悪すら覚えた。
福音侵攻界
そして、今日新たに4人の教徒を得た。
◇◇◇
「判決!被告を懲役8年執行猶予3年と処す!」
それが神無月 由香里に下された判決だった。
そして、別の裁判では……。
「判決!被告を懲役13年執行猶予5年と処す!」
氷室 恭也もまたこの様な判決を受けた。
だが、それとは真逆の結果を辿った者達もいる。
◇◇◇
「「判決!被告を死刑に処す!」」
そこである2人が同じ判決を受ける。
岡田と白川だ。
岡田と白川は泣きわめきながら「オレは無実だ!」と叫んで法廷から出された。
彼らの罪状はこうだ。
神無月・由香里と氷室・恭也を脅迫して養田・ウィソンの殺害を教唆「やらないと殺すぞ」と脅しもかけて来た証拠の映像があった。
更にそれを弱みとして脅し、更なる殺人計画の実行犯として仕立て上げようとした。
神無月達は警察を訴えたが、聞き入れられず、自己防衛の為に今回の殺人を決行したと言う事になっている。
しかも、養田の殺害の際に先日のカジノで使われた毒物を使い死に至らしめ、更に2人の父親、岡田警視長と白川議員に工作により毒物を入手、その事実を隠蔽した。
神無月達の訴えを退けたのは岡田警視長の工作だった。
更に自分達のそれらの犯行も親の力で全て隠蔽したとしてその残忍で計画的な犯行として死刑が言い渡された。
本人達はもっぱら「身に覚えがない!濡れ衣だ!」と喚いたが、証拠となる彼らの音声入りの映像が動かぬ証拠となり死刑が求刑された。
なお、後日殺人に加担したとして2人の父親も逮捕された。
「行いに応じた報いは与えました」
モニターに映る裁判の様子を観ながらアリシアは一瞥した。
全てはあの時、福音を伝えた事に起因している。
アリシアに申し出に応えたのは神無月、氷室、山村、鹿島の4名だった。
特に神無月と氷室にはこう伝えた。
「養田さんは天の国に入った。あなた達も罪を悔い過越を受ければ養田さんに会えます。この契約に参加しますか?」と尋ね彼らは快く了承した。
嘘ではない。
確かに養田・ウィソンは過越を受けてはいないが、彼には聴くチャンスすらなく向こうに行ったのだ。
そう言った人間は生前の行いにより、チャンスが与えられ、養田・ウィソンは良い事を多く行っていた事で天の国に入った。
逆にジェームズも含め、岡田、白川などは逆だった。
ジェームズは言うまでもなく有罪だったが、岡田と白川の言い訳は特に酷いモノだった。
「罪を悔いれば天の国に入れます」と伝えたが「はぁ?オレ達に何の罪があるんだよ?」「オレ達は何も悪くない。力さえあれば何でも正義なんだよ!」とアリシアをあざ笑った。
それが彼らの答えだった。
だから、あの事件が終わった後、アリシアは教徒を生かす為に工作した。
天使に時間跳躍させ、望月達が神無月に話した一部始終を録画させ、神無月の情状酌量の余地があるように望月達に脅された事にして既に福音していた彼らの父親も利用した。
「この子にして、この父あり」と言えば、父親がどんな奴かは想像できるだろう。
注射器に水ではなく例の毒物である……と言うように捏造して、周到で残忍な計画殺人であるように仕向けて死刑にまで追いやった。
死刑に追いやられるほどの犯罪者に脅迫された方が情状酌量の余地が生まれ易いからだ。
これが理不尽には当たらないのか?
残念だが、今回はそれに当たらない。
福音を聴かせると言うのは契約、そのモノだ。
命を得たいか、死にたいか、その2択の契約だ。
その中で過越を拒否すると言うのは潜在的に「死にたい」と契約書にサインしているのと同じだ。
だから、どんな濡れ衣を着せて死刑にしようとそれは本人が同意した事であり、決して理不尽にはならない。
どれだけ口先で嘘を語ろうとそれが事実だ。
アリシア・アイと言う存在は慈悲深いがその反面、教徒を生かす為ならどんな手を使っても徹底的に生かす。
それこそ、法則を歪め、実行するほど強靭な意志で貫徹するのだ。
それが神と呼ばれたアリシアのやり方だ。
例え、誰かにこの事を非難されようと彼女は止まらない。
それが神としてのアリシアの矜持なのだ。
「さて、新たな教徒達を迎えに行かないと」
こうして、アリシアは警察署の裏手からひそかに釈放される神無月と氷室の元に向かう。
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