真音土の異常な戦争価値観

 天空寺・真音土と示談するにあたり、彼のプロフィールを含めて、普段の言動や私生活を天使に調べさせた。

 これはアリシアを含めて普通の兵士、特に大戦中に徴兵された人間に多く見られる話だが、アリシアも含めて人に戦争で何があったのか自慢話をする人間などいない。


 そもそも、戦争なんて好き好んでやっている者などよほど頭が壊れていない限りいない。

 何故、彼らが戦争の話をしないのか?


 初めて銃を撃つ時、彼らは別に殺意がある訳ではない。

 ただ、上官から怒鳴られてやっているだけでやらないと後でリンチなどをされるからだ。

 だから、最初から憎しみで銃を握っている人間など早々いない。

 アリシアも少し違うが似たような感じだった。


 ただ、それが自分の顔に弾丸が掠め、自分の横で誰かが死んでしまうと徐々に殺意や憎悪で人を殺し「とにかく殺さないと」と言う焦燥感から湧き出る自分の内に潜む醜い感情で人を殺すのだ。

 戦争が終わった後で冷静になった時にその事に嫌気が刺し、トラウマがフラッシュバックするのだ。


 まず、正常な人間ならそんな事を自慢しない。

 トラウマを抉るからだ。

 加えて、自分の醜い感情で人を殺した事を自慢出来るだろうか?

 自慢する右翼の人間も偶にいるが、それは自分の行動を正当化して自我を保つ為で「自分を国の為に働いた」と言い聞かせているからだ。


 第4次大戦で徴兵を経験した者なら知っているのだ。

 国が掲げる正義など“利益”の為に言いたい事を言っているだけだ。

 そもそも、ソルと言う絶対兵器がある中で何故、人を徴兵する必要があるのか?

 AP稼働の為の人材確保もあるだろうが一番は利益だ。

 軍事需要を公然的に上げ利益を発生させるためだ。

 極端な話、戦争初期で勝ちたいだけなら戦術核を使えば、良いだけの話だったのだ。


 アリシアも実感した事だが、戦争で得をするのは軍の上層部や企業のトップ、政府の上の人など一部であり、下で働く人間は損ばかりをする。

 とてもではないが仲睦まじくヒーローごっこ出来るほど楽しいところではない。

 今のGG団体にも過去の戦争で心を痛めた人もおり、アリシアがその類の話に理解があり共感できるのでGG団体に入ってくれたご年配の方もいるほどだ。


 だが、天空寺・真音土は違った。

 自分を正義の味方と嘯き、テロリストなどを殺した事を恰も当然のように誇る。

 その様は現代の若者受けはするが、ご年配の方にはサイコパス以外の何者でもないのだ。

 ブレイバー隊の部隊員や一般人の友達にその事を風潮していた彼の姿が多く目撃されていたのだ。


 そして、ジェームズはそこを利用したのだと考えられた。

 サタンが、ジェームズはその有用性に気づき、計画を立案したのだ。


 正義=利益だ。

 会社のトップが正義の味方を気取れば、会社そのモノの軍事需要が上がり、会社の利益になりそれが真音土の利益になる。

 そして、人は利益を際限なく求める。

 利益を際限なく求める=正義を際限なく求める=利益を際限なく求めるになる。

 つまり、会社のCEOと正義の味方のセットは悪をする上で最高の組み合わせなのだ。

 公然的に正義を執行、公然的に莫大な利益を得る。


 そして、真音土はPMCの社長であり、軍からテロリスト討伐などを確かに委託されているが頼まれてもいないのにテロ討伐の一環として秘密結社のアジトを攻撃したり、頼まれた討伐対象以外のテロリストを制圧したりと正義にカッコつけて全部、正当化してそれを軍から咎められた事はなく。

 寧ろ、高評価を貰い彼の正義がより強固なモノとなる。


 それは全て”英雄因子”による補正だ。

 本来なら、確かに期待以上の戦果を上げる事も良い事だが、余計な事をして良いと言う事ではない。

 彼が任務外の行動を正義にカッコつけてそう言う事を多くした事でテロリストの反攻意識が加速度的に増長した例もある。

 確かにテロリストの数が減れば、治安が良くなると言う考えも否定はしない。


 だが、彼は情報をよく集めもせず、任務外の事をアフターサービスと言い訳して敵愾心を無暗に煽った事でテロリストが保有していた大量破壊兵器の使用を踏切るきっかけを与え、甚大な被害を出した過去があると天使の情報で判明している。

 だが、”英雄因子”の補正でどんな事をしても彼に都合の良い結果が齎され、彼には高評価がつき誰も咎めなかった。


 ジェームズは恐らく、その異様な特性と価値に気づき色々、利用していたのだろう。

 だが、真音土はアリシアにより失脚、ジェームズの計画も大きく狂った事だろう。

 今回の件はそれに対する挑戦状と言う事だろう。




「そして、事件はもう起きている。ジェームズが指定した場所で殺人があった。容疑者は全て確保している。その中にジェームズがいる」


「そもそもいない可能性もありますよね?」


「それは無い。妙にプライドが高い男で自分ですら犯罪の計画の一部に組み込む男よ。そのプライドにかけてあなたの目の前で逃げ切るはずだ」


「随分、自信を持って言うんですね?」


「奴とは因縁があってな。目の前で逃げられた口だ」




 麗華は自分を自嘲するように失笑した。




(よほど、恥ずべき屈辱を受けたのだろうか?麗華先生が自分を自嘲する事なんて早々、無さそうなイメージだけどな)




 魂の形質からしてもそう言う人間だ。

 恐らく、その件は相当堪えているのだろう。

 だとしたら、油断しない方が良いかもね。

 それに犯罪を快楽行為にしている時点であまり恵みが無さそうだ。


 アリシアはヤバい相手でも”福音侵攻界”を片っ端から発動して伝えるが、教徒達には「危ない人」「キ〇ガイ」「サイコパス」とかには福音を伝えてはならないと指示している。

 そう言う人達は自己中心的で自分の聴きたい事、言いたい事以外は聴こうとしないし言わない。

 寧ろ、福音を伝えたら本来の本性を現し、教徒を殺す可能性があったからだ。

 そう言う人は危険と思われた時点で福音を伝える価値(因果)がないと言う事だ。

 昔なら殉教は辛いがその分、天で大きな恵みを受けるとされているが今の時代では殉教はシャレにはならない。


 人間ですら人の魂を殺せる時代であり、人すら恐れないとならない時代だ。

 ”過越””復活”のスキルでその辺の防御は硬いが絶対とは言えないのだ。

 だから、危険な人はアリシアが伝える事になっている。


 この前の日本中の刑務所にこっそり転移したり北海道や九州、沖縄の離島などに転移して福音を伝え日本は既に50%以上制圧した。

 今後、日本が終わったら教徒が増え御業を使う為の認識能力が向上、潜在的に日本におけるサタンの権威的なモノも弱まり力が大きく弱体化する。


 そこから決壊するように今までキ〇ガイ達にとって住み易いこの世界のキ〇ガイほど辱めを受ける世に変わる。

 そう言う意味ではそのジェームズ・モリヤーティには負けられない。

 ジェームズを倒して置かないとまた、真音土が現れた場合、悪用して事態が更に悪化するかも知れない。


 何せ、ここ数日で調べて分かったが天空寺と言う存在はまた、現れ易い汎用性がある個体だ。

 、その価値に気づいたジェームズが利用されたら最悪だ。

 そうなる前にジェームズを捕まえる必要が出て来た。

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