事件現場へ

「そこで警察からの依頼だ。依頼はジェームズ・モリヤーティの逮捕。国際指名手配犯だから、単位も報酬もかなりデカい。どう、引き受けるか?」


「そもそも、わたしに拒否権あるんですか?」




 アリシアは微笑んだ。

 話にニュアンス的に「断るな」と言っているようにしか聞こえないからだ。

 どの道、受けるつもりだが、万高のスタンスを一応、確認しておきたい。

 校則的には断れたはずだが、それがただの建前である可能性もある。

 そうなると対応の仕方も変わるのでそこは確かめねばならない。




「安心しなさい。一応、学生身分だ。危険だと思ったら飛び込む必要はない。学生は自分の命を優先すると良い」




 どうやら、心配は杞憂だったようだ。

 どうもこう言う事に敏感かも知れない。

 4か月近く前など無理やり兵士になる事を強要されかけた事は昔の事のようだが、この社会とは理不尽が支配しているので“大人”と言うモノをどうにも信用出来ない。


 少なくとも信用に足る大人より信用に値しない大人の方が圧倒的に多い。

 大きな子供とか肉親の皮を被った狼とか利己心と貪欲のままに振る舞う自称王様とかだ。

 だから、アリシアが大人と接する時は自然と「疑う」事から始める。

 絶服の信頼を置く事はまずしない。

 それはよく見定めてからだ。

 だが、どうやら、麗華は問題無さそうだ。

 それはそれでアリシアの不安材料が消え、少し肩の荷が下りた。

 それからアリシアはこの依頼を受ける為にサインを書いた。




 ◇◇◇



 とある東京の山奥


 向かう途中で施設に行くための唯一のつり橋が折れていたので少し後に来る警察の事を考慮して”神時空術”の”時間逆行”で吊り橋を折れる前の状態に直し、先に進んだ。

 そんなアクシデントがあったが何とか目的地に着いた。


 事件はアリシアが依頼を受ける1日前に遡る。

 場所は山中にある有名予備校の合宿所だ。

 なんでも塾講師が雄大な自然の香りと音と空気が脳の集中力を高めると言うそれらしい理由で建造された施設らしい。

 事件は男子生徒、望月・十四郎が密室で殺害された事だ。

 望月・十四郎は殺害前に模擬テストを受けようとしていた。


 しかし、望月・十四郎の机の中には講師から「入れるな」と言われていたテスト範囲の教科書が入っていた。

 それをカンニングと判断された男子生徒は部屋で謹慎を受け、カギを閉められたそうだ。

 外からも中からもカギは開けられず、開けられるのは教師だけと言う状況だった。


 テストが終わり謹慎を解除しようと講師が部屋に訪れ、カギを開けて中に入るとそこには首を刺された望月・十四郎の死体があったそうだ。

 すぐに警察を呼び合宿所を封鎖し施設にいた全生徒を呼び集めた。

 現場に来た科捜研が調べたが部屋の電子ロックの解除履歴を見ても部屋が開けられた痕跡はなく部屋の中には凶器はなく犯人を特定する物的証拠もなかった。


 普通なら歩くだけで犯人の皮脂や毛が1本でも落ちており、それですぐに犯人を特定できるのだが、その類は一切検知されず防犯カメラにも一切の人影は無かった。

 この手口から警察もジェームズ・モリヤーティの犯行ではないか?と睨んでいる。


 だが、未だ容疑者の中で犯人が特定できず、軍事技術も扱う万高の情報科の高度犯罪、高度テロ心理部と言う組織の人間が派遣される事になったが、それと同時にジェームズの指名でアリシアを筆頭にフィオナ、リテラ達も捜査に加わる事になり現在、山奥の施設に来ている。

 そこで捜査担当の山村警部がアリシア達の紹介を始めた。




「彼らは今回の事件に当たって捜査協力をする事になった万高の学生さん達です。まずは1人ずつ自己紹介して貰います」




 そう言って2年生の丸渕メガネかけた、見るからに真面目な優等生が前に出る。




「僕は高度犯罪心理部の部長、霧島・大輔です。こっちの2人がチームメンバーの田中と堂島です」




 霧島の後に続いて田中と堂島が気軽な感じで挨拶をする。

 その態度に少し訝しみ、不快感を募らせる者もいたが誰も咎める事はしなかった。

 山村警部は場の空気を読んで話を流した。




「では、次に今回の特別協力者の皆さんです」




 そう言われてアリシアは代表として前に進み出た。




「どうも、ご紹介に預かりました。アリシア・アイと申します。本来はパイロット科の学生ですが、訳あって今回の事件に参加させて貰います。そして、こちらがアシスタントのフィオナ・オコーネルとリテラ・エスポシストになります」




 さっきの2人と違い2人は深々と頭を下げて「よろしくお願いします」と慇懃な態度で対応した。

 その場にいた全員がアリシアの顔は見て少なからず驚いている。

 最近、時の人とか言われているから仕方がないのだと思っている。

 しかも、畑違いなところからいきなり現れたら普通に驚く。

 そして、ここにいる数人がアリシアの事を面白くは思っていないらしく案の定、難癖をつけて来た。




「オイ、訳ってなんだよ?」




 目つきの悪い相手の太々しく図々しい態度にリテラ達が割り込むとするが、アリシアはアイコンタクトで止めた。

 アリシアは気持ちを荒立てず男性に接した。




「訳があると申しました。捜査に関わる事ですのでお話できません」


「あぁ?!テメー何様のつもりだ?オレを誰だと思っている?オレはな。お前よりも名門校に通っている優等生なんだよ。泥臭せ万高の分際で!ちょっと有名だからって偉そうにしてるんじゃねーぞ!」

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