ジェームズ・モリヤーティ

 それから数日後


 体育の授業の担当はあの稲葉・麗華先生だった。

 万高の講師陣の中ではその技量から講師を兼任しながら命罪財団系列のPMCに所属し依頼を熟すベテラン兵士だそうだ。


 その訓練はスパルターと言われ彼女に教えられた生徒の中には軍で頭角を現す者や今の万高でも生徒会を引っ張ったりどんな落ち零れでも一流兵士に鍛えあげる事で有名で教える事に関してはかなりの天部の才があると称される。


 ただ、他の生徒は息をゼイゼイ切らせながらランニング30kmを言い渡されたが、アリシアはスイスイと先頭集団を追い越し、集団が周回遅れするほどの大差をつけて30km走り終えた頃には彼らは15周ほど遅れており、麗華が「貴様らは亀か!部隊員に連帯責任負わせる気か!」などと激を飛ばし、アリシアは連隊責任と言う事でこの後+60km走る事になった。

 更に完全装備で行軍20kmやらせていたがそれでも大きく差をつけて60km走る羽目になったが、アリシアにはウォーミングアップにすらならず授業は終わった。

 その後、クラスメイトが恐怖と羨望の眼差しを向けて来たが、気にしていると身が持たないので流した。

 授業が終わった後、アリシアは麗華に呼び出され職員室にある小部屋に呼ばれた。




「いや、この前は御苦労だった。本当に助かった」


「いえ、こちらも収穫はありました。それに仕事ですし褒められるような事はなにも」


「中々、プロ意識が高いな。流石だ。それだけの意志の強さがあればわたしの授業なんて楽勝か?」


「どんな仕事も役目も楽勝とは考えていません。どんな事をしても糧になるように努力しているつもりです」


「真面目だな。それでも構わないがアイはもう少し肩の力を抜いた方が良いかも知れないな……まぁ、言うまでもないか。それよりもだ。この前の事件で少し面白い事が分かった」




 麗華は改まった態度で正眼を据えてアリシアを見つめる。

 ここからが今回の本題と言う事だろう。




「この前の事件、どうやら犯罪芸術家ジェームズ・モリヤーティが絡んでいるようだ」


「ふぇ?ジェームズ・モリヤーティって……あの、ですか?」


「小説に出て来るキャラではない。単なるペンネームだ。ただ、その名に恥じない完全犯罪をやらかす男として知られている」




 そう言って麗華はスマホPCを見せた。

 そこには数多な資料があり、そのジェームズ・モリヤーティなる人物が関与したと思われる事件が記載されていた。

 そこにはある資産家への復讐をプランニングしたとかとある戦争への幇助だとか時には軍基地からのAP強奪だとか多岐にわたっている。





(何とも目的な一貫性がないと言うべきか……犯罪芸術家だから犯罪さへ出来れば何でも良いと考えているのかな?)


「今回の毒物製造も完全犯罪のツール開発兼その資金源確保に暴力団を使ったらしい」


「もう、そこまで調べたんですか?」


「いや、本人からそう言うメッセージが届いたの」


「ふぇ?」




 思わず首を傾げたが今、本人からメッセージが来たと言ったか?

 何故?と言う素朴な疑問が浮かんだ。

 率直に言って犯人がする事ではない気がした。




「何故って顔をしているな。実はな。ジェームズは2度も自分の計画を妨げたアイをターゲットにしているらしい。だから、その報復としてアイに「完全犯罪を送り付けて降伏させわたしは堂々と逃げ切ってやる!」と言っていた」


「ふぇ?2度ですか?」




 その1度目が毒物製造だとしてだ。

 2度目に関してはまるで心辺りがない。





(どこかで計画を潰したかな?だとしたら、心当たりがあり過ぎて逆に分からない)





 実際、犯罪類の事はたくさん止めた。

 AD止めたり、セイクリッドベル止めたり、ガリア隊止めたり、心理兵器止めたりと羅列したらキリがない。

 他にも神として隠密に阻止した犯罪などもいくつかあり、その内の幾つかは名前バレしているモノもある。

 恨まれる動機ならある意味、幾らでもある。




「このメッセージを聴いて驚いたんだけど、どうやら、ジェームズは天空寺・真音土を犯罪計画のプランの一部に組み込んでいたみたいでな」




(あぁ……それなら確かに納得いく話だね)





 そもそも、天空寺・真音土は可笑しかった。

 壊れていると言って良いほどに頭が可笑しかった。

 可笑しかったからこそ、犯罪計画のパーツに組み込み易いと言う事にアリシアは得心した。

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