神のルーレット

 それを聴いて少しやる気になれた。

 金には興味はないが、この世は金がないと立ち行かないのは知っているので金が欲しくないと言うのは嘘になる。

 GG隊の力があれば、金を無尽蔵に産み出せたりするから金には困らない。

 だが、経済とは有限なモノ再分配する為のシステムだ。


 そこに無から有でモノを配給したら過剰なインフレなどが起きて経済が破綻する。

 だから、GG団体の運営や寄付はあくまで自分で稼いだモノで活動している。

 このカジノでぼろ儲けしておけば、今後は安泰だ。


 自分の娯楽の為に稼いだ金なら示しは付かないが仕事で請け負った以上、このチャンスを活かす手はない。

 アリシアの顔が思わず、不敵に微笑んだ。

 こうして、ディラーが回転するルーレットに球を入れたと同時にアリシアは手下げ、カバンの中からメガネケース(小型HPM)を取り出しケースからレンズ拭きを取り出しメガネを拭いて怪しくないとアピールしてルーレット台の隅に寄せて起動させる。


 他の全員は既に望みの数字の上にチップを置いている。

 だが、アリシアは球の軌道を具に観察する。

 球と台の回転速度、相対速度、台の摩擦定数、減速速度、それら全てを観測し頭で演算する。

 今回は万全を期してスキル”情報処理”などを網羅して球の軌道を演算する。

 そして、アリシアは支給された電子パネルを操作して黒の13に全部ベットした。

 その瞬間、周りから「不吉な」と言う声が漏れたがそれがガン無視だ。


 だが、周囲の期待に背いて球は最終的に黒の13に落ちた。

 そこから周囲からさっきとは真逆の感嘆の声があがった。

 そして、アリシアの元に通常の倍率以上の72倍のチップが帰って来た。




 上手くいったと内心ガッツポーズを浮かべた。




 ただ、周りからは「偶々だ」とか「運が良かった」とかそんな声が聞こえたがまぐれではない。

 全ては予測された結果通りだ。

 それを実証するようにこの後、1時間アリシアは全てのチップを賭け、72倍のチップを受け取りカジノの金をギリギリまで吸い上げる。

 流石に危機感を覚えたのかディラーが具に誰かと連絡を取り合い偶に殺気を交えながら懐の拳銃を取り出そうとする仕草を見せる。




(この辺で潮時かな……)




 アリシアの目的はカジノの破綻だが、一斉捜査とか検挙されるとカジノの報酬を受け取るどころではない。

 今の内にチップを金に換えようと思い、アリシアが席を立ち出入口に向かうのを確認すると背後のディラーの殺気が安堵して和らいだ。

 だが、誰も帰るとは言っていない。

 単に出入口付近になる交換所でチップを金に換え、GG団体へ口座への振り込みとアリシアがNP時代に寄付していた孤児院やユニセフなどに振り込みを行った後、何事も無かったように席に戻るとディラーの顔が険しくなる。




(さて、そろそろ毒でも盛られるかな……)

 

 

 

 

 と考えていた。

 銃を何度も手をかけようとしていたが、それは普段の癖と衝動であり、流石にここで銃を取り出す事はないと考えていた。

 ただ、人間は思っている以上に理性的ではなかったようだ。


 ディラーは手を震えさせながら銃をこちらに構え、異形の怪物でも見る様な恐怖の顔を浮かべて突然、発砲してきた。

 アリシアは銃を向けられたと同時に左手で銃に触れて銃口を上に向けさせた。

 弾丸は天井のステンドグラスの照明に当たり、破片が天井から落ち客が何事かと慌てる。

 それと同時に覆面警官が動いた。





「なるほど、こういう終幕も悪くありませんね」とアリシアは呟いた。





 今回はあくまで一斉捜査の口実を作るために現行犯逮捕がしたかっただけだ。

 別に毒殺である必要などなく銃による現行犯でも全然、問題なかった。

 辺りから「警察だ!全員その場を動くな!」と言う蹴魂声が聞こえた。

 これでアリシアの仕事は終わったと思っていたのだが、相手はかなり過敏だった。

 よほど、毒の製法が知られたくないのかサブマシンガンを持った黒スーツに黒いサングラスかけた男達が客諸共警官に銃口を向ける。

 それを見た客がパニックを起こし錯綜、警官達は物陰に隠れようとするがパニックの人込みで上手く逃げられない。




「まだ、仕事は残っていましたか……」




 アリシアは近くにあったオレンジジュースを飲み干し走り出しながら赤いドレスの裾を千切った。

 男達がMP5サブマシンガンを放つよりも前に千切ったドレスの裾は目を覆うように投げ付け視界を遮る。

 思わぬ攻撃に銃口が上に上がり銃弾が上にあるステンドグラスに被弾、割れる。

 視界が遮られら隙をついてアリシアは回転跳び膝蹴りで続け様に横に並んだ3人の男の頭部に蹴りを入れて脳震盪を起こさせ気絶させる。


 だが、今度は施設の四方から黒服の男達が現れた。

 アリシアは倒れた男達のMP5サブマシンガンを奪い、空中に跳躍、体を回転させながら黒服の男達のMP5サブマシンガンを撃ち抜いて破壊する。

 後は四方にいる男達にCQCを仕掛けて顔面を殴りつけ、蹴りを入れて1発で気絶させた。

 一部勘の良い男が腕でアリシアの一撃をガードするが、骨をあらぬ方向に曲げて顔面にクリティカルヒットを決める。

 一応、誰も殺してはいない。


 それは呆然と眺めていた覆面警察官やパニックになっていた客も奇異な目で呆然とアリシアを眺めていた。

 あまりこう言う目は向けられて良い気はしない。

 あの故郷と同じ目に見えてしまうから嫌だ。

 でも、それだけ派手に暴れた自覚はあるので咎める気はしない。


 それから沼津の警察の応援が到着し事態は収拾した。

 後に研究機関であの毒の解毒薬も造られ厳重に管理される事になった。

 それを軍や政府が悪用する心配もなくはないがその時はその時だ。





 ◇◇◇





 今回の件でアリシアは稲葉先生の不可抗力とは言え、高難易度の依頼を完遂した事でそれが評価されて1年の半年分の単位を受け取る事が出来、受けられる依頼も増える事になった。

 その後、リテラ達に「えぇ!ズルい!」と言われたが、確かに自分でもズルい手だと思うので今度は合同で依頼を熟す事を約束した。


 ちなみに千堂母は親権が剥奪され、ユリはGG団体に所属する非常に真面目で人当たりの良い養父母に預ける事にした。

 養父母もアリシアの申し出を快く引き受け、わざわざ日本に引っ越して来てユリの世話をする事になった。


 最初は実の母親と離されたショックがあったようだが、しばらくすると実の母親にはなかった養父母の温かさに惹かれ、素直に明るい娘になったと養父母から手紙で受け取り添えられた写真には微笑ましいユリと養父母が映っていた。

 アリシアの顔が微笑んだ事はよく覚えている。

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